周防先生は霊を喰らう

甘酢もえ

学校の先生 前編

霊っていう存在は本当に祓うべき存在なのだろうか?

除霊師として今までに数え切れないくらい霊を祓ってきた。そこに、良い霊とか悪い霊とかの区別なんて物は無かった。

そもそも、そんな事考えたことすら無かった気がする。

幼い頃に、除霊省とかいう国の機関に保護されてから俺の日常は変わった。

霊を見る素質があったから、除霊師になるのは簡単だった。

・・・やっぱり簡単じゃ無かったような気がする。

ずっと訓練する日常、それが終わったと思ったら、次はずっと霊を祓う日常が俺のことを待っていた。

そんな日常で、良い霊とか、悪い霊とか考えている暇なんて無かった。

生き残るので精一杯だったから。

じゃあ、何故霊は祓うべきかなんて考えていたかというと、


「よし!みんな席に着いてるね?それじゃあ、今から朝のHRを始めます!」


黒髪のポニーテールでこっちまで元気になるような、そんな笑顔を浮かべている美しい女性。

俺がこの学校に転校してきて出会った霊である。

彼女は俺がこの学校に転校してくるまで、誰にも気付かれる事なくずっと独りで何年もの時間を過ごしていたらしい。

彼女と出会った時、俺は丁度、霊力が切れていて彼女を祓うことが出来なかったから興味本位で彼女の話を聞いているうちに仲良くなった。

彼女と仲良くなったことで、霊って祓うべき存在なのか?と考えてしまったのだ。


「みんなって、俺一人しかいないですよ。先生。」


彼女のこの言葉を聞くと、ついツッコミが口から出てしまう。


「別に良いじゃん!みんなって言ったほうが先生っぽいでしょ?って、この会話毎日してるよね?周防くん。」


目の前の彼女はそう言って楽しそうに笑う。

彼女にとってはこんな他愛のない会話が宝物らしい。

彼女は霊となった影響で生前の記憶が無いらしく名前も分からないため、俺は彼女のことを先生と呼んでいる。


「確かに。でもこの会話が無いと一日が始まった感じがしないんですよね。

ところで先生、今日は一段と可愛らしいですね。」

「え・・・そうかな。」

「はい。特に今日は黒髪が綺麗ですね。」


先生と会うとつい口が軽くなってしまう。

普段はこんなに喋ることなんてないのにな。


「って、私は幽霊だから姿は変わらないよ!?」


先生はからかわれたと思ったのか赤面してしまった。

裏表がなくて明るい女性。

それが先生だ。

因みに可愛いと思っているのは本当である。言わないけど・・・。


「フッ。」

「え?今笑った?周防くん先生の事笑ったよね?」

「まぁ、そうですね。」

「あ、そこは正直に言うんだ。」


早朝まだ殆ど人がいない時間の先生との時間。

その時間は俺にとって一日で1番楽しい時間だった。この時間がずっと続けば良いと思っていた。


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早朝、学校に行く前に除霊省に寄ってみたのだが・・・


「あら、薫。数カ月間私達の連絡を無視してよく帰って来れたわね。」

「げっ・・・。」


そこには鬼上司がいたって・・・あれ?


「あの、愛川さん。その下で土下座させられてる三人組って・・・。」


俺の見間違いじゃなければボロボロの姿で土下座させられてるのは俺の同期たち。


「あれ!薫やん!久し振りやな〜」

「薫くん、あまり見ないでくれ。土下座姿は恥ずかしい。」

「周防も・・・土下座しにきたのか?」


うん。見間違いじゃなかった。


軽薄な感じで話しかけてきたのが猫谷凜。

そして恥ずかしそうにしてるのが霜月零。

最後になんかズレた回答したのが真島誠士郎。


全員有能なのだが一癖も二癖もある除霊省名物の三バカ達だ。


「何言ってるんだい!あんたを合わせて四バカだよ!!!」

「は?それは意味わかりませんよ!!!」

「そうや、そうや。ボクは馬鹿じゃないぞ。」

「俺も一緒にされたくないかな〜って思います。」

「・・・不服。」


なんで、こいつらも反対してるんだよ・・・。


「はあ〜自覚がないらしいね、この馬鹿共は・・・。」 


今、溜息を吐いたのが鬼上司で有名な愛川美空さんだ。


「私が今からお前達の罪を説明してやるよ!!!」


え、罪?


「まずは周防薫!!!お前の罪は・・・自分の命を顧みなさ過ぎる事だ。

この前だって壱級妖怪を5体を一人で祓って死にかけてただろう。」


・・・反論は出来ないな。


「お前は生き急ぎすぎなんだよ!!!もう少し落ち着きを持て!!!」

「・・・はい。」


正論過ぎる。


「次に猫谷凜!!!」

「ほ?」

「お前の罪は・・・サボりだ。現在お前が担当した仕事はたったの八件だ。

それも、10年間除霊省にいながらだ!!!」

「仕事は嫌いやからな〜」


ゴンッ!!!


あいつ色んな意味ですごいな。


「次に霜月零!!!お前の罪は・・・女好き過ぎる所だ!!!

今までお前の毒牙にかかった女は数知れず。少しは自重しろ!!!」

「ハハハハ」


あいつ、反省してないな。


「最後に真島誠士郎!!!お前の罪は・・・喋らなさすぎる事だ。それなのに頑固!

お前は学校で協調性を学べ!!!」

「・・・うす。」


「ったく、お前達は有能なんだから真面目になれよ。そしたら私も楽になるから。」

「善処します。」

「ボクもそうする〜」

「右に同じく。」

「・・・。」


唐突に、静寂が訪れた。


「よ〜し。お前達が反省してない事がよく分かった。」


なんか・・・嫌な予感がするな。


「今日は私がお前達の戦闘訓練に付き合ってやろう。」 


・・・え。


「ごめんなさい。調子に乗っていました。」

「待って、待って、待って。少し話し合おう・・・な?」

「女性との時間は好きだけど、愛川さんの戦闘訓練はちょっと無理かも。」

「・・・遺書の準備。」


「諦めろ。人生諦めも大事だぞ、お前達。」


死神女が俺達に迫ってくる・・・そんな時に。


「大変です!!!周防さんの学校で悪霊らしきものが目撃されました。」


最悪の情報が俺の耳に入った。





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