また、あの日と同じ月の下で

星野 未来

第1話 恋の始まりは恋の終わり

 私は日の光が嫌いだ。幼い頃は暖かい日差しが大好きだった。晴れの日は外に出てくたくたになるまで駆け回った。でも今は違う。もうあの頃の私には戻れない。カーテンの隙間から窓の外を見ると、3人の女の子が並んで楽しそうに何かを話しながら歩いているのが見えた。壁には3人が着ている制服と同じものが寂しそうに掛けられている。1年前の私は高校に通っていた。でもあの日から何もかもが変わってしまった。

                1年前

友達と教室で昼食を食べていた。

「広瀬、ちょっといい?」

振り向くと森くんがいた。顔を見るだけで嬉しくてニヤけてしまいそう。必死に平静を装い、

「うん」

と返す。着いていくと、前を歩いていた森くんがいきなり立ち止まった。森くんが振り返る。

「俺と付き合ってください!」

うそ・・・。なんで。嬉しい。驚きと嬉しさで何も言えなかった。私と森くんの間だけ時間が止まってしまっているのかもしれない。

「・・・広瀬?」

「!」

森くんが私から目を逸らす。

「ごめん。いきなりで驚いたよね。返事は今じゃなくてもいいよ。俺、いくらでも待つから。」

「違うの。驚いたけどそれよりも嬉しくて。私も森くんが好きだから。」

今度は森くんが顔を真っ赤にして驚いている。きっと私も真っ赤になっている。

「これからよろしく・・・。」

森くんが目を逸らしながらも手を差し伸べてくれる。え?!もう手、つなぐの?戸惑っていると森くんが私の手を取り握手をする。

「あ・・・。よろしくお願いします。」

勝手に想像して戸惑っていた自分が恥ずかしい。

 それから私には彼氏ができた。クラスで1番イケメンで運動神経が良くて、賢い。でも時々お茶目なところもあってそこがたまらなく可愛い。毎日森くんのことを考えて過ごす日々は甘くて酸っぱいレモンのようだった。お互いを「結月」、「陽太」と呼び合うほどになった。でも気になることが1つだけあった。ある日の夕方、家までの帰り道を陽太と並んで歩いていると、陽太がこんなことを言い出した。

「結月、誰にも俺達が恋人だってことは言わないでほしい。」

「どうして?」

尋ねると陽太は少し黙り込んだ。しばらくして陽太がゆっくりと口を開いた。

「うちの親、恋愛とかそういうの俺にしてほしくなさそうなんだ。俺、小さい頃からずっと父さんの跡を継いで医者になるように言われてるから、学業が第一なんだよ。もし、親の耳に俺達のことが入ったら、別れないといけなくなるかもしれない。だから誰にも言わないでもらえないかな?」

私は陽太の親が厳しいことを知っていたのですぐに納得した。

「わかった。誰にも言わない。約束する。私達だけの秘密ね。」

「うん。ありがとう。」

その時、陽太の笑顔が少しだけ不自然に見えた。

 会いたいときには、お父さんとお母さんが仕事で留守の日に私の家に来てもらった。ある日、いつものように陽太を自室に通すといきなり腕を引っ張られ、キスされた。緊張で心臓が破裂してしまいそうだった。男の子ってこんなに力、強いんだ・・・。陽太の唇、柔らかい。そんなことを考えていると陽太が私から離れた。

「ごめん、いきなり。結月がとっても愛おしく思えて、」

陽太の唇を塞ぐように今度は私からキスをした。ちらりと時計を見るともう夕方の6時になっていた。

「陽太、お母さんが帰ってきちゃう!もう帰って。」

「ほんとだ、もう帰らないと。じゃあ、また明日。」

「うん、また明日。」

 次の日、教室に入ると黒板には私の部屋で私と陽太がキスしている写真が貼られていた。昨日の写真だ。黒板いっぱいに罵詈雑言、誹謗が書かれていた。嘘、なんで・・・。周りからクスクスと笑い声が聞こえる。視線が痛いほど刺さってくる。硬直していると陽太が教室のドアを開けた。

「何?何の騒ぎ?」

陽太も不審に思ったようだ。陽太が黒板の方へ歩いてくる。そして目を見開いた。

「え・・・」

陽太が私の方を見る。そしてすぐに目を逸らした。教室のドアが開き、一人の女子生徒が入ってくる。確か、この子は同じクラスの姫野心愛さん。あまり話したことがないけれど、今、日本で1番の人気モデルでテレビにもよく出ているから存在感が大きい。いわゆるクラスの一軍女子のひとりで、可愛くてきらきらしていて、私とは住んでいる世界が違うなといつも感じていた。姫野さんも教室の異様な雰囲気を感じ、黒板の方へと足を運ぶ。黒板を見た瞬間、誰よりも驚いた表情を見せ、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。どうして、姫野さんがそんなに驚いているの?なんで。頭が混乱して何がなんだか分からなかった。すると突然姫野さんが泣き叫んだ。

「なんで・・・。なんでこんなやつと陽太がキスしてんのよ!どういうこと!?ねえ、ちゃんと説明してよ!広瀬さんも分かってるんでしょ!」

私は驚き、戸惑った。そしてようやく口を開いた。

「ごめん、私もわかんない。」

「はあ?わかんないじゃないよ。これ、浮気だよ!」

「え・・・」

私は驚いて陽太を見た。陽太は気まずそうに目を逸らしている。私は陽太のそばへ行った。

「陽太、私の他に付き合ってる人、いたの?」

陽太は黙ったままだ。

「答えてよ。教えてよ!」陽太の腕を掴もうとすると、姫野さんが飛んできて私を陽太から引き離した。思っていたよりも強い力だったため、私は近くにあった机にあたり、倒れ込んでしまった。突き飛ばされたような形になってしまった。周りから笑い声が聞こえる。軽蔑し、何か汚いものを見るような目つきで皆が私を見ている。私は耐えられず教室から飛び出した。それから一目散に家へ帰り自室に飛び込んだ。部屋のドアとカーテンを閉めた。太陽の光が差し込むと、誰かに見られているような気がした。部屋でうずくまって泣いているとスマホに一件のメッセージが来た。陽太からだった。

「結月、ほんとうにごめん。実は結月と付き合う前から心愛と付き合っていたんだ。それでも俺は結月のことが好きで、どうしてもこの気持ちを抑える事ができなかった。ずっと騙すようなことしててごめん。今でも、結月のことが好きだ。俺の結月への気持ちは嘘じゃないってわかってほしい。ほんとうにごめん。」

こういう時は陽太に怒ってもいいのかもしれない。ずっと騙されていたんだから。でも、もうそんなこと、どうでもよかった。私はただ一言

「今までありがとう。」

と送った。すぐに既読がついたが返信はこなかった。陽太の連絡先を消し、スマホの電源も消し、机の引き出しの奥へしまった。もう忘れよう。恋が誰かを傷つけてしまうのなら、もう恋なんてしない。私は心に誓った。

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また、あの日と同じ月の下で 星野 未来 @fumika31120825

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