第七話・完成したシステムと、信じられない大人たち
近所の児童会館にある体育室。
小学校の体育館ほど大きなものではないが、窓には網が貼られてボール遊びをしてもガラスが割れないようになっている。
この体育室で、今日は
「さて、それじゃあ初公開。これが、
長さ40cmの十字架型のフレーム。
その交差点には、丸い制御コアが嵌められている。
それを体育室の真ん中に配置して制御コアに魔力を注ぐと、ゆっくりとフレームが伸び始める。
やがて長さ6メートルの十字架が出来上がると、十字架がゆっくりと浮遊を開始、3メートルほど上昇したのち、十字架の先端道士を繋げるように壁のような結界が形成されていく。
これで立方体状の結界に包まれたリングが完成する。
この結界発生装置の浮遊デバイス部分と、立方体型結界の発生システムをどうするかで、かなりの時間が掛かったものだよ。
ちなみに床部分までしっかりと結界でガード、万が一にもフロアには傷がつかないようになっている。
「おおおおお‼︎」
「かっけ〜‼︎」
「早く、早く遊ばせてください‼︎」
「まあ焦るなって。あとは、ダメージコントロールシステムを起動して……と」
バトルシステム遠隔操作用のマギ・コンを使い天井部分の結界発生装置からクリアパットが降りて来る。
これはダメージカウンターが浮かびあがるシステムであり、同時にリングの赤コーナーと青コーナーにあたる場所に設置される
「よし、あとは自分たちで選手登録すること。そうしたら、ダメージカウンターがここと展示用の水晶版にも浮かび上がるので……まあ、やってみっか」
「整理券を配りますよー。参加希望者は、こっちに集まって下さ〜い」
「整理券を受け取った子は、こちらで
小春と綾姫の二人も、一年以上も設営と運営を手伝っているから手慣れたものである。やがて次々と子供達が
「それじゃあ、第一回戦、いってみようか‼︎」
すぐさま
「ちょっと待ったぁ。今回からはこれを使うことができるからな。好きなものを選べよ」
そこにはロングソードやシールド、ハンマー、アックスなど、さまざまな武器が並べられている。
「え‼︎」
「うぉぉぉおぉぉぉ、かっけぇ‼︎」
「俺は、この両手剣でいく‼︎」
「それじゃあ、俺はこのショートソードの二刀流だ」
各々好きな武器を手に、自分の
わからない子は小町と綾姫が説明してあげているので、俺は早速、試合を始めることにした。
………
……
…
『バトルシステム……オペレート、スタート』
機械音のような声が聞こえて来ると、リングの天井から下がっている水晶版以外にも結界上部にモニターが浮かび上がる。
両面に各機体のダメージゲージが表示されており、試合中でも操縦者と観客のどっちも見ることができるようになっている。
「いくぞ、僕の愛機、スバル15式‼︎」
ソードマスターに両手剣を装備した『スバル15式』が、リングの中で剣を自在に振る。
「今日こそ勝つ‼︎ 朧、いけぇ‼︎」
ニンジャにショートソードの二刀流。
なかなかマニアックな機体の朧が、スバル15式と対峙している。
「互いに礼‼︎」
──ガシィッ
俺の合図で礼をすると、画面がカウントダウンを表示する。
──10……9……8……
ゆっくりとカウントが進む中、お互いに立ち位置を探しながらリングの中を歩いていく。
カウントがゼロになるまでは攻撃は一切禁止なので、なんとか相手に有利な位置を探しているらしい。
──3……2……1……0‼︎
「いけぇ‼︎」
「がんばれぇ‼︎」
一直線に朧に向かって走り出すスバル15式。
そして両手剣の間合いに入った瞬間、背中の両手剣を握りしめる。
──ガチャッ
鞘が展開して両手剣を引き抜くと、そのまま朧に向かって上段からの切り落としを仕掛けていく。
「甘いぞ健ちゃん‼︎」
両手剣は朧を真っ二つにすると思われたが、そこにはすでに朧の姿はない。
「消えた?」
「まさか‼︎ これで終わりだっ」
──ガガガガッ
高速でスバル15式の斜め後ろに回り込むと、死角からショートソードの乱撃を叩き込む。
すぐさま走り出して反撃を交わしていくが、数発のクリーンヒットを受けてしまい、スバル15式のゲージが減っていく。
ダメージシステムも10ポイントではなく、純粋なHPレートに切り替えてある。
「くっそ、公平のくせに生意気だぞ‼︎」
両手剣を構えてブンブンと回り始めるスバル15式。
まるでコマのように回転しているので、朧も迂闊に近寄れなくなっている。
「近寄ったら真っ二つだ、負けを認めろよ」
「そんなことないって‼︎」
回転しているスバル15式に向かって朧が走り出すと、両手剣の切先の手前でジャンプ‼︎
──ドゴォォォォォッ
そのままスバル15式の顔面にジャンピングニーパットをぶちかました。
その衝撃でスバル15式の手から両手剣が外れ、外に向かって飛んでいくのだが、両手剣は結界の壁に突き刺さるって止まった。
「ひ、卑怯だぞ、正々堂々と武器で戦えよ‼︎」
「武器で戦わないとダメだっていうルールはないぞ、それよりも、この武器はもらったからな‼︎」
朧がショートソードを床に突き刺し、結界に突き刺さっている両手剣を引き抜いて構えるが、今ひとつ動きが良くない。
ニンジャは両手剣の扱いについては能力値ボーナスが加味されていないから。
「ニンジャは両手剣なんて使わないだろう?」
今度はスバル15式が走り出して、ショートソードを引き抜いて構える。
ソードマスターはショートソードの戦いに対してもボーナスがついている。
そのまま朧に向かって走り出すと、高速の乱撃で朧のダメージゲージを削りまくる。
「ダメだ、武器が重すぎるんだ‼︎」
朧が慌てて両手剣を捨てるが、その隙をついてスバル15式が間合いを詰めて、トドメの袈裟斬り二連撃を左右からぶちかました。
『ピッ……ゲームエンド。スバル15式、ウィナー』
朧が停止し、スバル15式の勝利を宣言する。
そして結界が解除されると、二人はガッチリと握手して、
………
……
…
「……よし、いい感じに仕上がっているな」
「どの方向からも、ちゃんとダメージゲージは確認できるし、ちょくちょく戦闘画面を映してくれるので、臨場感もあったよ」
「そりゃいいや。さて、それじゃあ二回戦を始めるとしますか」
子供たちも大盛り上がり。
今までは素手のレスリングだったのに対して、今度からは武器の使用もありになったのである。
みんな自分の機体に専用装備をつけて、名前までつけていた。
「ふぅむ。そろそろ、大々的に宣伝したいなぁ」
「でも、ゴーレムファクトリーの社員は、まだ三人しかいないよ? ユウは開発で忙しいし、綾姫さんは
「……小町、いつからうちの社員になった?」
「えへへ。就職難だからさ、雇ってくれると嬉しいかな。隣だから通勤も楽だし」
調子の良いことで。
でも、一年近く仕切りを任せていたから、社員登用もいいか。
「そんじゃ、雇用条件その他はまた今度。一応は研修社員ということで」
「よし、これで笹錦たちに自慢できる。あいつらもあちこち面接しているらしいけど、まだ就職決まっていないからね」
「あいつらもか。まあ、人手が足りなくなったら考え……って、小町、子供達が待っているぞ」
やばいやばい。
真面目な話をして子供を置いてしまった。
それじゃあ、気合を入れ直して始めますか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……いないよね」
「いないなぁ。動画の中じゃ、このあたりにいたはずなんやけどなぁ」
亀尾と伊勢の二人は、以前、北海道にやってきた時に十六夜たちと出会えた公園にやってきた。
ここに来たらいるはずと思っていたのだが、今日は誰もいない。
「まだ寒いから休みなのかなぁ」
「そうかもなぁ。最新の動画も去年のやつやったし、まだ北海道は寒いわ」
ブルルッと体を震わせる伊勢だが、ふと、少し離れた場所で子供達が走っているのに気がついた。
「あの子らに話を聞いてみよか? ひょっとしたら外やなくて屋内で体験会をやっているかも分からへんで」
「まあ、その可能性もあるか……しかし、伊勢の大阪弁って、なんかおかしいよな?」
「あたりまえやな。うちは横浜生まれの横浜そだちや。親父は大阪人やけど、おかんは青森の人やからな」
「……よし、急いで行こう」
「突っ込めや‼︎」
そんな漫才をやっているうちに、子供たちは公園から出てから、近くにある児童会館に入っていった。それを追いかけてきたのは良いのだが、どうやって中に入ったら良いか、二人は考え始める。
「ここにいると思うか?」
「さあ? でも、そっちの部屋から大声が聞こえて来るで?」
声のする方にそ~っと近づいて、窓からこっそりと中を見る。
そこには、Twitterに上がっている動画にはない最新型のリングと、ダメージカウンターシステムが設置されている。
さらにリングの中では、武器を装備した
以前、北海道に来たときに見た筈なのに、その時よりも洗練されていたのである。
──ゴクッ‼︎
その光景を見て、思わず喉を鳴らしてしまう二人。
たしかに、山田部長が契約取ってこいと叫ぶのも、二人は理解できた。
これは、ゲーム世界に革命を起こす。
これをバンライズが発表できれば、バンライズは世界の頂点に立つことも難しくないだろう。
「い、伊勢さん、どうします?」
「どうしますって……とりあえず動画を撮っておき。それを部長に送信しておくんや、交渉はそのあとやな」
「了解」
すぐに鞄からハンディカメラを取り出して撮影するのだが、試合が進むたびに、二人も熱くなってきた。
仕事で撮影していたはずが、今は仕事を無視して、カメラを置いて応援をしている。そして、窓の外で二人の大人が叫んでいたら、当然、児童会館の警備員もやって来る。
「……あなたたちは、そんな所で何をしているのですか?」
「ちょっと話を聞かせてもらいたいのですが、宜しいですか?」
「え?」
「あ、うちらは、あれを見にきたんやが」
「ああ、彼ですか。子供たちからも話は聞いていますし、館長からも『ゴーレム・ファクトリー』の人たちについては、出入りは自由にして構わないって言われてますが。あなたたちは関係者?」
そう問われても、関係も何もない二人は、速やかに名刺を取り出して警備員に見せる。
どうにか誤解は解けたものの、窓越しの見学は認めていないので二人は敷地から外に出されてしまった。
「……しゃーない、外で待つか」
「警察に連絡されなかっただけ、ましですけどね。本社に在籍の問い合わせもされたので、戻ったら説教ですよ?」
「戻れたらな。多分、うちらは戻れへんよ」
伊勢は思った。
ゴーレム・ファクトリーっていう名前から察するに、どこかのチームもしくは開発か研究施設なのだろうと。
その研究施設に出かけていって、ロボットの秘密を教えて欲しい、ノウハウを買い取りたいと話しても無駄なことは理解している。
それを強引にやって問題を起こすのが、山田錦弥開発部長だから。
そして寒空の下、体験会が終わるまで一時間ほど待っていたら、悠たち三人が外に出てきたのである。
「あの、ちょっとお話いいですか?」
「うちらは、バンライズ東京本社の営業課のものですが、その、ロボットのことでお話を聞きたいのですが」
「ロボット? 俺はロボットなんか作った覚えはないけど?」
「ユウさま。この方たちは先ほど、窓の外で見学していた方々です」
綾姫は、二人が外で見ているのに気がついた。
特に悪意など感じていなかったので、そのまま放置していただけである。
「あ、さっきの話の。そりゃあ、こんな寒空の下でご苦労様ですね。まあ、ロボットって言ってますが、
「そ、その
寒空の下、震えながら話を聞き出したい伊勢だが、悠は真面目な顔で話を始める。
「話もなにも、バンライズさんの営業の方にもチラシは配布しましたよね? あそこに書いてある以上のことはありませんよ?」
「いや、ロボットのことをゴーレムとか、駆動系を魔力って誤魔化されても、誰も信じまへんよ?」
「ツクダサーガの開発部の人は信じてましたけど? まあ、俺の説明を信用していない人を相手するのは疲れますので、今日はこれで」
「ま、待ってください。ロボットじゃないっていう証拠はあるのですか?」
「あるもなにも、ツクダサーガの五百万石さんには、開発手順を全て見せていますよ。何度も公開するのは面倒なので、今日はこれで」
そう告げて、悠達は軽く頭を下げてから帰路についた。
そして、これ以上の話し合いは今日は無理だと判断したのか、伊勢と亀尾もホテルへと戻ることにした。
次の更新予定
アインツェルカンプ〜魔導騎士から始まる現代のゴーレムマスター〜 呑兵衛和尚 @kjoeemon
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