第六話・新システムと、可哀想な社員たち
五百万石は焦っていた。
動画で初めて
この
本社開発部も、この
札幌に来てからは、不定期におこなわれる体験会に参加して顔を繋いできた。
そして今日、名刺を渡して自己紹介をすると、いよいよ本題に切り込んだのだが。
彼の予想は大きく外れた。
最新型の、脳波コントロールシステムによるラジコンロボットと、そのバトルシステム。
子供たちの熱狂ぶりから、商品化したら間違いなくヒットすると考えたのだが、開発者から
さらに作る過程を全て見せてもらった時点で、彼の中の可能性は、音を立てて崩れ去っていった。
「ええっと、名前は……」
「あ、俺は十六夜悠です。それで、あとは何か話はありますか?」
「この
「それはお断りです。
「なにより?」
「ツクダサーガに、魔法を使える人、いますか?」
なにか、申し訳なさそうに告げる悠。
ツクダサーガどころか、この世界で魔法を、しかもゴーレム魔法を使える人間なんて、五百万石が知る限りは存在しない。
だが、ゴーレムを作るには、魔法がないと不可能。
工場で大量生産など、できるはずがない。
「そ、それじゃあ、魔法が使えるように我が社の開発部の人間に魔法をレクチャーできれば?」
「誰が魔法を教えるのですか? 俺は嫌ですよ……」
「ゴーレムを工場で量産できるシステムを、魔法で作るとか」
「そんなのがあったら、自社でやるに決まっているじゃないですか。まあ、たしかに全国津々浦々に
「それじゃあ‼︎」
「うちはネット通販のみ、しかも完全予約で一人一体だけの販売でいきます。あとはそうですね。トラックでも購入して、キャラバン隊を作って日本全国を旅するのもいいかと思いますよね?」
目を輝かせながら、悠は楽しそうに語っている。
その後ろでは、片付けを終えた秋田小町もやってきて、それは楽しそうだから手伝うよと話している。
「そうですか。非常に残念ですよ」
「おわかりいただき、ありがとうございます。こいつは取り扱いを慎重にしないとならない代物でして、その気になれば兵器転用も可能になるってわかりますよね? だから、他人には任せられないんですよ」
それが理由の一つであり、そして重要な課題であることは五百万石にも理解できた。
「わかりました。では、明日からは、
「よろしくお願いします……まあ、ネットで動画が流れてから、あちこちからインタビューやテレビに出ないかって申し込みはあったんですけどね、全て断っていたんですよ。まだ、噂程度で構わないと思っていますから」
「ユウは、
「そういうこと。ダメージゲージももっと簡素化して飾り付けしたいし、なによりもリングの制御が難しくて.…」
そう告げてから、悠は現在使っている代用リングの利点と欠点について説明を始めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
俺が作った
『タイプ・ハルバード』や『タイプ・バトルハンマー』という機体のコードナンバーでもわかる通り、本来は装備をして戦闘するのがあたりまえ。
だけど、戦闘になったら、どうしても装備が手から離れることはあるわけで。
迂闊にすっぽ抜けて、観客席にでも飛んでいったら大被害間違いない。
かといって、観客席とリングを離すと臨場感がなくなるので面白くない。
プロレスを中継で見るか、リングサイドで見るかの違い程度なんだけど、肌で感じるものが違う。
実際に子供たちの様子を見ていると、自分たちが戦っているのではないのに、前のめりになって見ている子が大半なんだよ。
だから、そういう子供達に怪我をしてほしくないから、安全性を考えないとならない。
今の時点では、リングの周囲に結界を張り巡らせるのがベターなんだけど、これはベストじゃない。
結界を使用すると
「まあ、そういったことですので、他人に開発や運営を任せたくないんですよ。プロの開発者に声をかけてもらえたのは嬉しかったですけれど、そういう理由で他社さんに技術を供与することはできませんので」
「分かったよ、長い間、付き合わせて申し訳ありませんでした。これからは、一ユーザーとして楽しむことにします」
ガッカリとした顔なのはすぐに分かった。
でも、ここは心を鬼にする。
「体験会でよろしければ、いつでも参加してください。ただ、できれば大人の日か混合の日だけにしてくださいね」
「了解です。では、失礼します……」
最後はしっかりと握手して、五百万石さんと別れた。
ここまでは良い。
翌日からは、あちこちのゲームメーカーの人が接触を開始して、毎日同じようなことを説明している。
三日目には、もう説明が面倒くさいので綾姫と小町がチラシを作ってくれたよ。
それを配布してお断りすると、やっぱり不満なのかブツブツと言いながら帰る人も数人いた。お前らの名刺ももらっているんだからな、絶対に交渉には乗らないから覚悟しろよ。
そんな感じで秋が終わり冬が来る。
さすがに冬の間は、公園での体験会は無理なので春がくるまでは一休み。
そして春が来て雪が溶けた頃には、ずっと頭を悩ませていだ『
結界装置と
さすがに理論は完成しても、実際にうまくいくかどうかなんてわからない。
ひとシーズンかけて自宅でのテストを繰り返して、ようやくリングが完成。
それを携帯できるように組み替えて、移動式リングも完成した。
あとは、
これがうまくいくと、ようやく、ゴーレムファクトリー製の
いやぁ、長かったわぁ。
あっちから帰ってきて、実に一年も掛かったよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……解せぬ」
「いきなりどうしたの? 何かあったの?」
「ユウさまは、インターネットのオークションを見て、心を痛めているのです」
そうなんだよ。
俺が
その紹介動画に公園での体験会の映像が使われていたらしくて、本物など存在しないっていう風評被害まで流れていたさ。
まあ火消しなんて面倒くさいし、そろそろ体験会を再開する予定だから、それで本物が存在するっていう証明はできるから良いんだけどさ。
いずれにしても、俺の
許さんけど、アカウント消して逃げたから何もできんわ。
「はぁ。まあ、こればっかりは仕方ないか。有名税と思って諦めるしかないよなぁ」
「出品者が逃げたみたいだからね。明らかな詐欺事件だから、警察が動いているんじゃない?」
「こっちにとばっちりが来るのはごめん被る。まあ、気晴らしに公園でも行くか。さすがにリングの設営は許可がいるだろうから、いつものブルーシートリングで、装備なしで」
「そうだね。綾姫さんも、いきますよね?」
「当然です。私はユウさまの忠実なメイドですから」
すぐさま準備開始。
ちなみに『映像投影式バトルシステム』は、今までの
バトルリングと一緒に開発したのだが、こっちは既存の術式を上手く組み替えることで二日で完成したのだよ。
「まあ、バトルシステムの方だけ使ってみるか。外で使うのは初めてだけど、案外良い感じに仕上がっているかもな」
「それならいいね。では、それいけレッツゴー‼︎」
………
……
…
近所の自然公園。
雪解け春最初の体験会を開こうかと公園に行ってみたものの、まだ肌寒いせいか子供達の姿はなかった。
「……まあ、寒いからなぁ」
「気温は十度だけど、風が強いよね。今日は無理だね」
「それでは、戻っておやつにしましょう。今日は寒いので、善哉の準備をしてありますので」
「いいねぇ。それじゃあ戻るとするか」
そう考えて帰ろうとしたら、遠くから子供が数人走ってくる姿が見えた。
って、よく見たら一人は半袖だぞ? 寒くねーのかよ。
──ダダダダダッ
「ゴーレム屋のお兄さん、ひょっとして体験会?」
「まあな。雪が溶けたから実験しようと思ったんだけど、誰も居ないからなぁ……」
「まだ今日は寒いから、みんなは近所の児童会館にいるよ? 体験会をするのなら、俺たちが館長に話してあげるからさ、そこでやろうよ‼︎」
あ、そういう事か。
子供は風の子だけど、みんな避難して屋内で遊んでいるんだね?
「そこの児童会館の館長さんなら、私も夏祭りとかでよく話したことあるので、わたしからも頼んでみる?」
「へぇ、小町の知り合いなら頼むわ。そろそろ屋内でのテストもやりたかったからさ」
「了解、それじゃあ行きましょう‼︎」
そういう事で、俺たちは近所の児童会館へと向かうことにした。
屋内で許可が取れるのなら、移動式リングのテストもできるし、万々歳だわ‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
――東京都台東区
ホビーメーカー『バンライズ』。
ここはリアル嗜好のホビーを開発・販売している、国内でも超大手のホビーメーカーである。
自社グループにはアニメ制作会社などもあり、自社アニメのグッズなども一手に開発していた。
その企画会議では、白熱した論議が繰り返されている。
「だ〜か〜ら、ツクダサーガの開発が、あのロボットメーカーと接触したのはわかっているな。うちは後発で話し合いに向かったんだが、まともに話すこともできずに、チラシ一枚だけもらってきてはいおしまい。営業、おまえ、ふざけているのか?」
バンライズ第一企画室の
ネットにアップされていた動画を見て、山田は天啓を受けた。
あのロボットを我が社で独占して、アニメや映画とタイアップした作品を作ろうと。
また、日本縦断キャラバンチームを立ち上げて、国内の様々な地域で大会をひらけば、盛り上がる事間違いない。
そのためには、是が非でも、あのロボットのノウハウが欲しい。
「……この、チラシになんで書いてある? あれはロボットじゃない、魔法で動くゴーレムだって書いてあるよな? それを、おまえたちは信じて帰ってきたのか?」
「お言葉ですが部長。あれはロボットじゃありませんよ」
「ええ。ゴーレムやな。うちも目の前で見てたし、実際に体験させてもろたから間違い無いわ」
「おまえらの頭の中は、お花畑か何かか? このテクノロジー世界のどこに、魔法が存在するんだよ。おそらくだが、ツクダサーガは、何かを掴んでいるはずだ。だから、おまえたちは、もう一回、北海道へ行ってこい‼︎」
ツクダサーガの騒動が終わったと思ったら、今度はバンライズの騒動。
しかも、このバンライズの場合はタチが悪すぎる。
山田錦弥は、よく言えば仕事畑出身のエリート、悪く言えば出世欲の塊。
自分が上に上がることができるなら、多少の犯罪行為であろうと部下に勧めてくる男である。
その都度うまく揉み消して、今の地位にいるのであるが、今回の件は成功したなら、確実にもう一つ上に上がることができる。
「
もはやパワハラの塊である。
だが、第一企画室で山田錦弥に逆らえるものはいないため、二人はすぐに帰宅し、転勤の準備をする羽目になった。
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