第五話・交渉と相談したそうですが
──ガシィンガシィン‼︎
自宅の居間の中を、
まあ、俺が走らせているんだけど、現在は長時間稼働実験の真っ最中。
どれぐらい連続稼働したら、精神的疲労が蓄積するのかを実感していたんだけどさ、協力者である小町は三十分の連続稼働で集中力が途切れてギブアップ。
勉強しすぎて頭が痛くなるレベルの疲労だって説明してくれたけど、そんなに頭痛するまで勉強したことないから分からんわ。
小町がギブアップしてから、俺はさらに二時間も連続で走らせているんだけど、どうにも疲労する様子がない。
「小町が三十分、俺は二時間半か。全く比較にならんなぁ。俺がおかしいんだろうけどさ」
「ユウがおかしいに決まっているよ。私も空手の試合とかなら、そこそこに集中できるんだけどさ、ここまで差が出るとは思わなかったよ」
「まあな。よし、平均稼働時間を少し調べた方がいいか。また公園……やめておこう、あの兄さんがまた居そうだからさ」
この前の飛び入り参加の男性。
どうも、どこかのマニアって感じじゃなかったんだよ。
だから、今日は大学で実験してみることにする。幸いなことに、あそこなら笹錦たちが出入りしているから、協力要請すれば手伝ってくれるだろうさ。
「よーっし、それじゃあ行きますか。綾姫はどうする?」
「まだ洗濯も終わっていませんので、留守番をしています。晩御飯は何人分用意しますか?」
「小町は、またうちで食べるのか?」
「え? いいの? 綾姫さんのご飯、美味しいんだよね……それじゃあゴチになります‼︎」
押忍って感じで、両手を軽く左右に広げる小町。
いつもテストに手伝って貰っているから、それぐらいは気にしなくてもいいのに。
………
……
…
「……これって、小町さんの
ゼミ室で笹錦と津軽の二人を見つけたので、中庭に移動した俺たち。
早速、小町が『タイプ・クノイチ』、命名・艶姫を取り出して
艶姫は近接格闘型だけど、武器は持たせていない。
その代わりなのかはわからないが、小町が自作で空手着を縫って艶姫に着せているのである。
ちなみに俺のブレイザーは軽装騎士型外装で、カイトシールドとハルバードを装備している。
「可愛いでしょ。
「あ〜、オヤジの漫画コレクションにあったわ。柔王丸とか桜姫とか。そんな感じか?」
「そそ。インターネットで調べてね、こういうスタイルもありだって理解したからね」
古き良き時代を踏襲しておりましまか。
それじゃあ、俺も
「十六夜殿、拙者の愛機を出してもらえぬか?」
「津軽の愛機? いや、津軽も笹錦も、同じ『量産型』だから、個人機じゃないのだが?」
「拙者たちも、個人用の機体が欲しいでござるよ、津軽殿も、そう言っていたのでござるよ?」
「え? そうなの? 津軽も欲しいのか?」
「まあ、自分用の機体って、ロマンではないですか。それに、小町さん一人だけ、自分用の機体をもらっていてずるいわ」
子供か、お前は。
まあ、学校でも、動作テストなど色々と手伝ってもらっているからなぁ。
別にくれてやっても構わないか。
盗まれたとしても解析なんてできるはずがないし、どう調べてもアルミ合金の人形でしかないからなぁ。
──ゴトゴトッ
「ほらよ、テスト稼働はなし。好きなのを選んでくれや」
「拙者は侍系が良いのだが、どれが侍系?」
「素早さ特化? 力特化?」
「速さと力の二極で頼みたい」
「なるほどなぁ。それなら、この『ブレード』だな。名前は先につけてくれればいいよ。機動方法は教えたよな?」
「かたじけない。では、早速……」
そう説明しながら笹錦に
「拙者の愛機……オサフネと命名しよう、さあ、津軽殿も、選ぶでござるよ」
「俺かぁ。俺はパワータイプだよなぁ」
「そんじゃ、パワー一極の『タイプ・グラップラー』でいいか? 新しく作った試作機だから、データ取らせてもらうからな」
「それでいいわ、サンキューな……名前は、ゴリアテでいいや」
そのまま笹錦と津軽がセットアップを終わらせると、二人は芝生の上で、模擬戦闘を始めだした。
………
……
…
「武器の使用はなし、体術と打撃で」
「拙者は構わぬぞよ……では、始めるとしようか」
笹錦と津軽が
──ズササッ
お互いを警戒しながら、右回りに円を描くように走り出すオサフネとゴリアテ。
やがて走るのをやめたと思ったら、いきなりお互い目掛けて走り出すと、両手をガシッと組み込んだ。
──ギリギリギリギリッ
力比べを始めたオサフネとゴリアテだが、いきなりオサフネのダメージゲージが一つ点灯した。
「ば、馬鹿力でござるか、この野郎っ」
「はっはっはっ。パワーイズジャスティース‼︎」
──ドゴッ
両手を組んだまま、軽くジャンプしながら腕を引くオサフネ。
そしてゴリアテの体勢がぐらついた隙に、左手を離してゴリアテの右手を両手で掴むと、背負い投げのように力任せに後ろに投げ飛ばした。
だが、ゴリアテは右腕一つで側転して立ち上がると、再び腰を落としたアマレススタイルの構えを取る。
「オサフネの攻撃は軽いから、あまりダメージが入らないが?」
「それでも、蓄積されたら、やばくなるはずでござるよ」
──タッタッタッ‼︎
体勢を立て直したゴリアテ目掛けて、オサフネがドロップキック‼︎ 着地からの左足での追撃高速回し蹴り‼︎
──ドゴッ
今度はゴリアテの胸部に蹴りが入り、ダメージゲージが一つ点灯。
「ほ、ほほう、そうきたか。それなら、こいつはどうだ」
──バジィィィィッ
右掌を広げたまま、ゴリアテがフルスイングでオサフネの頭をぶん殴る。
これを両腕を交差してガードしたが、それでもオサフネは軽量タイプに近いウェイトなので横に吹き飛ばされて倒れてしまう。
「やばいっ!」
「トドメだよっ‼︎ ほら、アルゼンチンバックブリーカー‼︎」
──ガガガガガガッ
倒れていたオサフネを引き起こして肩に担ぐと、頭を腰を腕でガッチリと掴んで締め上げていく。
機体がミシミシと唸り音を鳴らし、その都度ダメージが蓄積されていく。
それをどうにか、力任せに剥がそうとしたが、オサフネのダメージゲージが十ポイントに到達したのでゲームオーバーである。
「くぅぅぅぅ。オサフネよ、よくぞ戦った」
「危なかったわ。オサフネの速度だと、ゴリアテじゃあ翻弄されて捕まえきれなくなるところだったわ」
そのままガッチリと握手するオサフネとゴリアテ。
そして笹錦と津軽が機体を回収すると、俺は魔法陣を展開して、二人の機体を
………
……
…
「へぇ、ミシミシと音がしていたけど、自己修復していたわ、これは盲点だった」
「ゴーレムって、自己修復するんだ……」
「魔力が流れていると、完全自然回復とはいかないけれど、少しずつダメージを回復するみたいだな。まあ、気休め程度だとは思うけどさ……よし、オサフネのチェックは完了。たまに学校でテストに付き合ってもらうから、無くすなよ」
「大丈夫でござるよ。慎重に取り扱うので問題はないでござる」
「それなら良いんだけどさ……ほら、ゴリアテのチェックもおしまいだ、勝手にどこかで遊ぶのは構わないが、人に聞かれても『開発中のおもちゃ』ってことで、詳細な話をしないように、売り飛ばさないようにな」
「「
全く、調子のいい二人だことで。
そのまま二人は再度バトルを開始したので、俺は小町の艶姫とバトルをやることにしたよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
数日後。
いつものように公園で体験会をやっていたら、この前のお兄さんがまた参加してきたんだが。
幸いなことに、今日は大人と子供の混合なので、特に注意することなく、普通に、何事もなく体験会は終了。
そして…俺たち三人は、撤収準備をしていたんだけどさ。
「すみません、ちょっといいですか?」
例の、飛び入りのお兄さんが俺たちに声をかけてきた。
「なんでしょうか? 取材ならまだお断りしているところですが」
「いや、私はこういうものでして、ツクダサーガ開発部の五百万石と申します。本社からの社命で、ネットを騒がせている謎のロボットについて調査をしているものなのですが」
「ツクダサーガ? え? ホビーメーカーの?」
「はい。それでですね、現在、あなたの開発したロボットをうちのメーカーでリリースしてみたいという企画がありまして、一度、詳しくお話を伺いたいと思ったのですが、お時間、よろしいでしょうか?」
おおっと、天下のツクダサーガだよ。
シミュレーションゲームやボードゲームで一世を風靡した、日本有数のゲームメーカーじゃないですか。
でも、なんでロボット?
あ、
「まあ、お話程度なら構いませんが、ここ、片づけてからでいいですよね? さすがに置きっぱなしは問題があると思いますからね」
そう話してから、
その光景を見て、五百万石さんが呆然としているけどさ、こういうシーンこそカメラに収めなくていいのか? 目の前で魔法を使っているんだよ?
「あ、あの、ここにあった箱はどこにいったのですか?」
「俺の魔法の一つですよ。
「え? 魔法? そんな非科学的なことがあるのですか? 魔法って、御伽噺や漫画の世界じゃないですか」
「俺は魔法が使えましてね。といっても、使えるのは元素魔法や精霊魔法、神聖魔法とかの派手なやつじゃなくて、ゴーレム魔法なんですよ。わかりやすくいうと、錬金術師みたいなものかなあ」
「え? 錬金術師?」
ほら、また固まったよ。
小町に説明した時はさ、すぐに思考の渦から戻ってきたけれど、この人は時間が掛かりそうだよなぁ。
「まあ、そういうものだと思ってくださいよ」
「……いかんいかん。まあ、百歩譲って君が錬金術師だとして、あのロボットはまさか魔法で作ったとかいわないよね?」
「え? 魔法ですけど? 見せてあげますか?」
──シュゥゥゥゥ
軽く右足て地面を蹴ると、目の前に魔法陣が広がった。
「
──キィィィィィン
俺が宣言すると、魔法陣の中にアルミ軽合金の塊が浮かび上がり、ゆっくりと溶けながら『タイプ・量産型03』を形成し始める。
その横で、俺も魔導核の生成を始める。
このバランスが悪いと、操縦者の思考がうまく伝わらなかったり、機体全身に巡る魔力が澱んだりするのだよ。
鼻歌交じりで魔導核を生成して、完成した『タイプ・量産型03』の胸部内部に組み込む。
最後はエーテルドライバーをを設置して装甲材を融合しておしまい。
「これでよし。
機体と同時に作成していた
この短期間でかなり仕上げたので、制作時間も大きく短縮できるようになったので、俺としても満足であるが。
五百万石さんが、俺をみて呆然としている。
「え……今のは特殊効果や手品じゃなくて、本物?」
「あたりまえだのクラッカーですね。これが、今、完成した『タイプ・量産型』です。試運転してみますか?」
「え、あ、ああ……」
「それじゃあ
そう告げて量産型を手渡すと、すぐに
うん、気のせいか知らないけど、五百万石さんは、昨日みたいに楽しそうではない。なにか、恐る恐る動かしているように感じる。
「あの、まさか
「い、いや、正直いうと、今の今まで、これはロボットで、コンピューター制御のラジコンか何かと信じていたんだよ」
「俺、最初に説明しましたよね、これはゴーレムで、魔力で動くって」
「それは開発者が、極秘データを隠すための方便かと思っていたんだよ……そうか、本当に魔法が使えるのか。もしも魔法が使えるのなら、病人の治療とかも」
「無理。俺が使えるのはゴーレム魔法であって、人を癒す神聖系魔法は使えないからな。その質問も、結構されたから」
これは向こうの世界の話な。
勇者の仲間で魔法が使えると思われてさ、よく病人を助けて欲しいとか怪我人を助けてくれとか頼まれたんだよ。
けど、ゴーレム魔法では、人の病気や怪我を治すことはできないんだ。
怪我や病気を治す魔導具を開発できたのは、魔王を倒して数年してからだったからなぁ。
「そ、そうか。腰痛がひどくてさ」
「整骨院行ってこい‼︎ なんでもかんでも魔法に頼るなよ。それで、そろそろ時間だけど、いいかな?」
「あ、そ、そうか、すまなかったな」
五百万石さんは、頭を下げつつ量産型を俺に戻してくれる。
なのですぐに
さて、このあとは何を聞いてくることやら。
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