第四話・取材? マスコミ?
北海道はでっかいどう。
五百万石は、ツクダサーガ札幌営業所に到着すると、早速情報収集を開始することにした。
幸いなことに彼の北海道滞在中の仕事については、例の動画についての調査以外は割り振られることはないと営業所長から報告を受けたのである。
それならばと、早速、動画を撮影したと思われる公園まで足を運ぶことにしたのだが、そうそううまく話が進むはずはなく……。
「……子供が一杯だよなぁ。たしか、動画では、この辺りに……おや?」
動画の映像を頼りに移動すると、ちょうどリングがあった場所には、大勢の子供たちが集まっていた。
しっかりと自分たちで敷物を用意してきたらしく、大きさや模様が色とりどりのシートに、お弁当を持参して座っている子供たちが大勢座っていた。
それなら話を聞いてみようと、五百万石は親子連れのところに向かって話しかけ始めた。
「ちょっといいですか? 私はツクダサーガの開発部所属の五百万石というものですが、ひょっとして、みなさんは
「そうだよ‼︎ ここにいるみんな、
「いつ来るかわからないのですよ。あくまでも体験会であって、開発とか調整の時間によっては来れないかもという話でしたので」
確実性に欠けるが、ここで体験会を行なっているというのはわかった。
五百万石も鞄から小さなシートを取り出すと、それを広げてそこに荷物を置いた。
あとは、ボイスレコーダー片手に、参加したことのある人たちにインタビューをおこなっていたのだが、やはり眉唾な話しか聞くことができない。
「魔法で動くんだよ?」
「市販はされていないって」
「いろんなタイプがあるんだよ?」
「俺はソードマスターっていうタイプを使ったことがあるんだぜ」
「防御力ならプロテクターがいいんだよ? 打たれ強いからダメージゲージが減りづらいんだよ」
「機動力ならマッハワン一択だね?」
子供たちは、自分が使ったことのある機体の説明を始める。それだけを聞くと、確かに様々なバリエーションがあるので、販売する方としても手堅く扱えるからいい。顧客に選択肢を与えて、好きなものを選んでもらうのは基本である。
──ザワッ
そんなことを考えていると、公園の入り口から男女のカップルがやってきた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
さて。
今日も元気に体験会だ。
機体データの解析などで開かない日もあったけど、大体は子供たちが十人近く集まっているからな。
小町や綾姫も何度も手伝ってもらっているので手慣れたものであるし、この前からは小町がパソコンで整理券を作ってきてくれたので、子供たちもスムーズに参加してくれるようになった。
「開発のおじさん‼︎」
「俺は、お兄さんだ‼︎ お前はラストな」
「嘘ですごめんなさい開発のお兄さん‼︎」
「わかったわかった。だから、ちょっと待っていろ。小町は子供達に参加券を配ってきてくれるか? 綾姫はリングの準備を頼む」
「了解‼︎」
「かしこまりました」
すぐに小町が子供達に整理券を配り始める。
一枚につき十分間、
参加者が少なくて時間が余っていたら、また配り直して参加可能だが、大体二時間でひと回りぐらいと予想している。
「ユウ、今日は大人の参加はあり?」
「基本的になし。参加したいのですか?」
小町の前に立っている大人の男性が、なにやら申し訳なさそうに頭を下げている。
「東京から来ました。まあ、子供が優先なのはわかっていますが、もしも隙間がありましたら、お願いしたいのですが」
「昨日が大人の体験会だったんだけど……まあ、一人ぐらいなら構わないか」
「助かります」
飛び入りの大人の順番は、五戦目にしておこう。
それなら、対戦相手は小町に任せるとするか。
「小町、あとで構わないんだが、そちらの方の相手を頼む。艶姫は持ってきているだろう?」
「鞄に入っているから大丈夫だよ。それじゃあ、最初の子供からいってみようか。整理番号一番と……五番、綾姫さんのところで
小町の指示で、子供たちはリングサイドに待機している綾姫の元に向かうと、お気に入りの
うん、何度も参加している子は慣れたものだし、初めての子は、常連の子供にいろいろと教えてもらっている。
そしてリングに
──カーン。
子供たちが戦闘をしている最中、さっきの大人は三脚にカメラをセットして撮影を行なっている。
見た感じかなり高価な機材を使っているようなので、ひょっとしたら報道関係者かYouTuberなのかなと勘繰ってしまう。
まあ、取材申し込みは大体断っているけど、勝手に映す分には構わないと思っているからさ。
そんなこんなでどんどんと試合が進み、いよいよ大人の順番になった。
初めての経験だろうから、まともに動かすのも難しいかと思うが、基本動作は小町が教えてくれたおかげで、大体何とかなっている。
誰でも動かせるように増幅器のようなものを考えても、いいのかもしれないなぁ。
………
……
…
「大体の動作については、説明通りです。初心者としては、まあ、うまく動いている方ですよ」
私が相手をしているのは、大人の男性。
大学のゼミでも三馬鹿トリオの相手をしたから、教え方の要領も把握している。
そして案の定、最初は立ち上がるのもギリギリだったけれど、5分もしたら歩行とかの基本動作はマスターしたようです。
「はぁ……これは、なかなか難しいですね。もっとこう、簡単に動作させる方法とか、音声認識プログラムとかは組み込まないのですか?」
「無理ですよ。そもそも、この
「はっはっはっ。まあ、開発部としては、そうそう中身を教えてもらえないぐらいは理解しています。けれど、それを魔法だなんて、子供騙しにしか聞こえませんよ」
うん、やっぱり大人は疑うよね。
私だって、ユウから話を聞いて、実際に魔法を使うところを見せてもらったからこそ、こうやって全てを信じているのだからさ。
「それじゃあ、簡単なスパーリングでもやりますか?」
「待ってください。俺は、子供のようにコマンド入力をする方法を知らないのですけど」
「思考ですよ。
「え? こういったロボットアクションものはコマンドを入力しないと動かないと思いますが」
はぁ。
なんでこの人は、頭の回路が固いんだろう。
基本動作と同じ、イメージだって説明しているのに。
「それじゃあ、今回は好きに動いていいですよ。でも、動作は全てイメージであることは理解してくださいね。さっきから、何度も同じ説明をしていますけれど」
「その思考コントロールも意味がわからないんですよ。こういったものは、プログラムで制御していますよね? 人の思考をプログラム化して、あ、脳波によるコントロール?」
「もう、それでいいです。でも、あなたの考えているようなプログラムシステムはありませんからね」
「……それこそ意味がわからないんだよ。それじゃあ、こいつはなんで動くんだ?」
──カーン‼︎
はい、時間切れ。
「それじゃあ時間が来ましたので、
「え? もう時間なの? 早くない?」
「一人十分。初心者も慣れた人も同じです。大人なのですから、速やかに戻ってください」
少しキツめに説明すると、ようやく
「ユウ‼︎」
「了解。リンクの強制カット……では、回収しますので、腕輪もください」
すぐにユウが席に向かって、
ユウが作った
なんだかぶつぶつと文句を言っているようにも聞こえるけど、そっちはユウに任せるからね。
私は子供たちの相手をするから。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
謎のロボットの体験会は二時間で終わった。
五百万石は体験会が終わったのち、すぐに十六夜悠にインタビューを頼んでみたのだが。この後は用事があるので、インタビューには答えられないと返答を返されていた。
まあ、そこでどうにか時間を作ってもらうのも悪いと思い、五百万石は名刺を渡してその場から立ち去ることにした。
「しかし、駆動モーターの音もないし、USBケーブルやタイプCコネクターの接続端子も見当たらなかったな。何か特殊な入力システムを使っているんだろうか、気になるなぁ」
ツクダサーガ札幌営業所に戻った五百万石は、カメラの映像をパソコンに映して細かい部分の確認を始める。
そもそも、あのロボットの制御はどうやって伝達しているのか?
リモコンやラジコンとも違う、それでいて、腕輪をつけて考えるだけで稼働していたのも事実。
基本動作の立ち上がり、しゃがみ、掴み、握りといった動きも、全て思考だと説明されていたし、事実、それだけで動いていたのも理解できる。
だが、そんな技術がいつのまに理論的に完成していたのか、五百万石には理解できない。
「どこかの企業の開発部……違うなぁ。もしもそうなら、あんなに堂々と人目のつくところで、体験会なんてやるはずがない。となると、宣伝効果も兼ねて?」
カチカチと画面をじっくりと眺めつつ、五百万石は頭をひねっている。
「あ、これが噂のロボットですか……あれ?」
通りすがりの事務員が、五百万石の机の上のモニターを見て、画面を指差している。
「あの、これってどういう仕組みですか?」
「え? どの部分?」
事務員が指さした先は、
バトル中に相手の攻撃を避けて体を捻りつつ、前のめりに一回転してローリング踵落としを決めているシーンである。
「ここ、これってロボットですよね? 胴部装甲や胸部フレーム、股関節とか背中とか、一体どうなっているんですか? 外部フレームが干渉していないじゃないですか」
「え?」
慌てて画面を見直す。
現在市販されているロボットのオモチャなどは、体の表面素材が稼働部分を狭めている。
人間の皮膚のような素材でなくては、人間のような動きをすることなど不可能である。にもかかわらず、画面の中の
しかも極め付けは、五百万石と対戦した小町の『艶姫』の動き。
両足を前後に広げ、腕を組んだまま腰を左右に回している。
よくみるストレッチの動きなのだが、それをロボットが、装甲材の干渉もなく自由に動いているのである。
「……なんだ、このロボットは……体表面の装甲が、まるで紙や布のようにしなやかに動いているぞ?」
「五百万石さんは、気づいていなかったのですか?」
「あ、ああ。駆動系とかコントロール系の仕組みを考えていて、そこまで頭が回らなかったんだわ」
そう考えていると、ふと、小町の説明を思い出した。
『そもそも、この
まさか、本当にロボットじゃなく魔法で動いている?
そう思考してみたものの、それをどうやって証明するのかわからない。
「魔法で動くロボット……いや、ゴーレムか。エネルギーは魔法? いや、まさか……」
どうしても、五百万石は魔法の存在を信じられない。そんなものがあったなら、もっと噂は大きくなっているはずだし、あの開発者が魔法使いだとするのなら、もっとニュースになっていてもおかしくはない。
「はぁ。また明日にでも、みてきますか」
集まった情報はそこそこにあるのだが、五百万石は、どうにも魔法という部分で引っかかっている模様である。
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