第12話 愛に溺れて

瑠璃は私からの返事を求めることもなく、最後に恭子とキスだけして静かに帰っていった。

どちらを選んでいても、私も瑠璃も幸せな道ではなかったのに、死が決まっていることが些事に思えるほど、何とも言えない物悲しさが残った。


別に瑠璃が異性を愛せるようになったと確定したわけではない。

一時の気の迷いであんなことを言ったのかもしれない。

そうであれば、脳も精神も未発達な幼女が見せた隙に乗じて、最後に一発なんていうのは、下卑た人間のやることだろう。


「あたしも博士のこと、好きでしたよ」


私がやることはまだ3つ残っている。

最も時間のかかりそうなのが最初のようだ。


「その好きは何の好きなのだ?」


「長い間、ずっと一緒にしましたからね。色々ですよ」


「ブスがたわけたことを…と言いたいところだがな。

私も今のおまえなら好きだぞ、恭子」


「やっと好きって、言ってくれましたね」


性癖が滅茶苦茶な恭子とこうなる時が来るとは、人生も分からないものだな。

あんな悲しみを生む愛おしく危険な機械を、共に作ってきた吊り橋効果とでも言うべきか。

さくらの完成に私の半分も貢献していないがな。


だが、それでも恭子を助手にして良かった。

ほとんど衝動的で気まぐれに誘った始まりが、共に科学の敗北者として終わりになるなら上出来だ。


「もっと言ってほしいか?」


「なんなら、時間が来るまでずっと」


「仕方ないやつだ。好きだよ、恭子」


瑠璃に言ってやらなかった分も想いを込め、私は恭子に心からそう言い、いつかのように唇に愛を重ねる。


好きと言ってとせがむ咲耶にもこうしていたな。

勝手に振っておいて心の片隅にずっといたなんてどうかしているが、実際にそうなのだから仕方ない。


大好きだった咲耶の幻影を、私は出会った日の恭子に見たのかもしれない。

その時点で生きる屍だったのに、何故だかね。

さくらに咲耶を見るのとはわけが違うのに。


どこか似ていて、何か懐かしい。

だから今まで博士と助手でいられたのかもな。


思えば研究所で衣食住を共にしてきたのだ。

本気で嫌な相手ならできないことだろう。


「ありがとう。大好きだよ、博士」


「私は2コ上だぞ。敬語を使え!いや…今は同い年か…」


「そうそう。それにこのほうがラブラブな感じするよ?」


「おまえは今日でクビだ。だから勝手にしろ」


「はーい。じゃあ二度とあたしにブスなんて言えなくさせてやるー」


私にとって未知の領域を解放した恭子は、思い切り私を抱きしめると、そのままの勢いで首元に吸い付いてきた。


幼女が少女となりゆく胸の儚い弾力を感じる。

恭子の場合は身長とやや釣り合いが取れていないが、10歳女児の刹那の魅力には違いない。


「いい胸、しているではないか」


佇むほどでも揺れるほどでもない。

包めば手のひらが幸せに包まれる感触は、既に私の魂が浮世にないかのようにさえ思える。


「身長にいく栄養が、おっぱいばかりにいってるって、よく言われてたよ」


「大きさのことではないのは、幼女を愛するおまえなら分かるだろう」


「うん。あたしの形もいいもん。頭も良かったし。僻みだよね」


自慢げに当時を語る恭子が妙に愛おしく見える。

さながら才色兼備といったところか。

それでいて可愛くてごめんとばかりの性格では、性癖が捻くれる環境に自らがしたようなものでもある。


そんな恭子も最期を前に両性愛者か。

性癖を矯正どころか、余計にややこしくなったな。


「ほーら、博士の好きな幼女の膨らみかけだよ?いっぱいチュッチュしていいんだよ?」


「よろしい。今度は私が吸う番だな」


幼女を愛する者の機微を知る恭子に煽られるがまま、私は微弱に揺れる胸にしゃぶりつく。

膨らみを帯びても、発育の余地を残す乳首も乳輪もまた素晴らしい。


恭子を見ていると、人が幼女しか愛せなくなる理由も解明できる気がする。

気がするだけで私は答えには辿り着けないだろう。

私と恭子では性別が違う。

人の心のメカニズムを解析するには、材料が足りなさすぎる。


そして、時間も足りなさすぎるな。


私と恭子が愛し合えた理由は…語るだけ野暮であろう。


「女の子みたいで…赤ちゃんみたいなんて、博士…可愛い…」


何だか侮られているようにも思えるが、全盛期の恭子なら仕方ない。

私にまだ時間さえあれば、咲耶をモデルにさくらを作ったように、恭子をモデルに次世代機を作れたのにな。


いや…例え作れても作ってはいけないな。


煩悩はすぐに過ちを引き起こそうとする。

悔いても遅い過去を都合良く忘れてしまう。

これだから人間は不完全でいけない。


「じゃあ次はあたしの番ね?初めてするけど、上手くできるかな」


子供らしからぬ隆起をさせる私に恭子は笑顔で近づいてくる。

生暖かく心地よい。

天気の良い春の日のようだ。


大人の姿の時は罵詈雑言も厭わなかったのに、幼女の姿になって少々しゃぶられた途端にこの様だ。

人間も機械も、ままならないものよ。


まだ賢者になるには早い。

そう来るなら私もお返しする必要がある。

床も冷たくて身体も冷えるだろう。


「今も可愛いが、もっと可愛くしてやろう」


私はさくらのランドセルに手を伸ばし、不慣れな中でも懸命な恭子に背負わせてあげた。


「やっぱりそうだよね。どう?可愛い?」


「ああ、よく似合っている。可愛いよ」


頭を撫でてしみじみと言う私に向け、恭子は勝ち誇ったように微笑む。

欲情を増幅させる可愛さだ。

今度は嘘ではない。

無理に思い込まなくても、恭子は現実に可愛い幼女だ。


「どうだった?初めての味は?」


「好きな男の子のだとなのかな。エッチな気持ちになる味だったよ」


性欲の怪物を檻から解き放った私の負けのようだ。

今までの非礼を詫びなければならないな。

だがそれは、言葉である必要はないだろう。


私は心の中で自らを嘲り笑いながら、恭子の胸を軽く押して倒した。

ランドセルに守られて転がった恭子は、また私を煽るように微笑む。


「挿れたくなっちゃった?」


「その前に恭子のも味見しないとな」


顔を近づけたそこは、大人と子供とでは大違い。

いかに無駄毛を処理しようと、元々生えていない圧倒的正義の前では無力も同然だ。


この程度まで胸が膨らんで発毛の前兆も感じないのは、胸に特化した子だと思えば、不可思議でもない。


「はぅん…どう?あたしのロリおまんこ…んんぅ…おいしい…?」


「おまえみたいな可愛い幼女のが美味しくないわけないだろう」


幼少から自慰行為に明け暮れていた部分は、硬いところはしっかり硬く、柔らかいところはしっかり柔らかく、非常に味わいのある蜜を垂れ流す。


ガバガバだった膣も幼女化してすっかり元通り。

加齢で黒ずんだ陰唇も浄化された。


説き明かされた秘密の真の姿の可愛さに見とれてもいられない。

舐めては指を差し込み、恭子が隠し続けてきた秘密が白く泡立つほどに、私らひたすらそれを繰り返す。


「変態博士に…おしっこ…えへへ…してあげようかな…」


さあ、お待ちかねの時間だ。

瑠璃とした時は漏らしてなかったから、質も量も期待できるだろう。

恭子の最高の味を確認しようか。

愛する幼女の膀胱で貯蔵された最高の一杯を。


咲耶を愛していた頃から、漏らさせるのは割と得意なのでね。


「そこっ…うぅん…あたしのおしっこ、飲みたい…?」


「飲みたくてたまらないからな。飲ませてあげないって言っても、出させてやるよ」


「うぅっ…嬉しい…恭子のロリおしっこ…あぁん…おいしいよ…?自分でも…飲んでた…もん…」


いい肴になる昔の情報までくれた恭子は、膨れ上がった尿道口から自画自賛の逸品を放射した。

冥土の土産とばかりに運ばれてくるそれは、謳い文句に偽りなしで、塩味に混ざるほのかな苦味は、私を童心に返らせる。


味まで似ているとは敵わないな。

どこからか、咲耶の声が聞こえてきそうだ。


こんな時に昔の幼女を思い出しては恭子に失礼か。

それだけ愛していたということだ。

その咲耶をモデルにしたさくらとも同じくらいと言えば、私の心も理解してくれるか?


男心なんてそんなものさ。

私が特殊なのか、どうなのか分からないが、そうだと思うぞ、多分。


「ちょっと意地悪しようして…我慢してたのに…おしっこ漏れちゃった…」


酔ってしまいそうなほど美味しかったというのに、そんな顔で可愛いことを言われては、私の興奮が空気に触れただけで暴発してしまいそうだ。


この世の天国を見ずに地獄へ行けるものか。


言葉だけでも私を限界に追い込む恭子を黙らせるように口付け、白と黄色で泣き濡れる愛しい部分に、幼い凶器を突き立てる。


「…恭子が最後で良かったよ」


「あたしも…男の子とするのが…最初で最後が博士で良かったよ…?」


「お互いこれが、最期だな…」


「うん…死んでも忘れられないくらい…して…?」


涙と共に微笑みを浮かべる恭子の来世まで感触が残るように、私は雄の象徴を深々と突き刺した。

それでも破瓜の血が滲むこともない。

恭子のような変態の初めての相手は、自分の指だったことは明白だ。


「オナニーばかりしていてよかったな。こんな簡単に入って恥ずかしい子だよ」


「幼女大好きの…変態なのに…あぅん…恭子…男の子も…大好きになっちゃ…うぅ…よぉ…」


結合した部分が掻き鳴らす音がノイズのように、愛を語り合う声の邪魔をする。

愛が通る道を自分で使い込んでいたのだから、普通の幼女とは一味違う快感を与えてもくれる。

このやかましい下の口も、ご愛嬌だろう。


何回もできそうだが、恭子は私より時間がない。

そろそろ迎えが来る頃かな。


もう何も考えないでいい。

野獣のように犯し続けるだけのこと。


「あぁん…ダメぇ…イッちゃう…イクっ…イクぅ…!」


恭子の悦楽の震えが抱きしめる身体から伝わってくる。

弱々しくても力強く、まるで私を我が物にしようと言わんばかりに。


こんなにも愛している。

だが、業の深い私は同等に愛した幼女が他にもいる。


「イク時の顔も可愛いな。大好きだよ」


「そんな…のっ…ズルいよ…またイッちゃうよぉ…」


もう一度だけでいいから、ずっと一緒になんて言ってみたかった。

そう言って嬉しそうな顔をするのを見てみたかったな。

それでも、嘘になる言葉は言えない。


――私が言ってあげられる最高の言葉は…


「…愛しているよ、恭子」


性欲のままに幼女を犯して自分だけ満足するということは、どうやら私は最後までできなかった。


「博士のこと、恭子も…あぁん…愛してるよ…?」


「今までありがとうな。退職金代わりだ、受け取れ!」


既に恭子への言葉は尽くした。

恭子が瑠璃と交わっていた時からの愛欲の全てを私は奥深くに注ぎ込んだ。


「あっ…んぅ…ドクンドクン…すご…い…あうぅん…」


これで恭子が未練なく死ねるといいのだが、最後のつもりでも私のはどうも最後にしたくないようだ。


「いっぱい出たね…?でも…まだ硬いよ…?」


「だが…もう時間があまり…」


もう恭子が試薬を飲んでから2時間になろうとしている。

その時間が来れば即死亡というはずはない。

免疫があれば時間が伸びることもあるとは思うが、疾患などで身体が弱っていたりしたら、逆に縮まる可能性は一応ある。


科学者など大概は不摂生だ。

人間の三大欲求を性欲にばかり割いていた恭子も例外ではないだろう。


「…博士としながら…死ねれば、それは…それで…いいよ」


死へのカウントダウンが始まっている人間の笑顔ではない。

希望に満ちた未来を思う子供そのものだ。


恭子が望むなら、やぶさかではない。

現に私の幼い凶器は、狭い空間に押し込められている今も、その凶暴さを微塵も失ってない。


だが、俯いていた私が顔を上げると、恭子は青白い顔で声にならない苦しみに悶えていた。

私が腰を動かしていた時とはまるで様子が違う。


「ごめ、ん、ね…もういっかい…して、あげれ、なかった…ね…」


「いいんだよ。ありがとうな、恭子」


「あたし、を、ブス…って…いえる…?」


「恭子は可愛い幼女だよ。私が保証する」


「あたしのかわい、さが…わかったね…ようじょって、さいこ…う…だよ…ね…」


最期の時まで笑顔でいた恭子は、それ以上苦しむ様子もなく、静かに私の腕の中で息を引き取った。


あれだけ膨張していた股間も、みるみるうちに小さくなり、自然と抜けて白濁の液体が零れ落ちる。

愛は死んではいないのに、まるで全てが終わったかのよう。


試薬を飲んだ時から決まっていた約束された瞬間と分かっていても、悲しみが込み上げて止まらない。


――また私は幼女に泣かされてしまったな。


私がやることは残り2つか。

この悲しみの中でやるには丁度いいか。


恭子の遺体を可愛く着飾ってやると、一緒におめかしさせてあげたさくらの傍に寄り添わせた。


まるで翼の折れた眠れる天使だ。

その2人を死なせた私の業はあまりにも深い。

私は全ての情報を抹消したパソコンに向かい、身長が低すぎて高さが合わず、打ちにくいキーボードで文字を打ち込んだ。


(私は結局、幼女しか愛することができなかった。

さくらは私が殺したようなものだ。

恭子も苦悩を背負わせて申し訳なかった。

咲耶も私の身勝手で振り回して悪かったな。

瑠璃、私も君のことが好きだったよ。

私の力では何も成すことはできなかった。

幼女を愛するとは苦難の連続だ。

最期まで答えを出すことができなかった。

それだけが心残りだ。

誰かがいつかその答えを出してくれることを願う)


こんなものを打ち込んだところで、意味があるのかは疑問ではある。

私の意志を残しても、誰にも知られなければ無駄なこと。

恭子も順番通りに死んでしまい、時間を持て余した死刑囚の暇潰しといったところか。


あの薬も効果が全て判明してない試薬に過ぎない。

さくらの開発に専念するばかりに不摂生の私が、2時間より早く死ぬ可能性は大いにある。


3つある中で最もどうでもいいやることは終わった。

最後の仕事をする前に死んでは、死にきれない。

どうせ残らないであろうものであり、もう言い残すこともない。


「ひさしぶりー。迎えにきたよ、博士」


さくらの元に向かおうと腰を上げかけると、聞き覚えのある可愛い声がどこからか聞こえた。

幻聴が聞こえる成分など試薬にはないはず。


後ろのほうからした気がする。

そんなわけはないと思いながら振り返ると、そこには無邪気に笑顔で手を振る裸の咲耶がいた。


試薬は調合を失敗していたのかもしれない。

高校生の頃の私など、科学者として鼻たれもいいところだ。

あれはかなりシビアな代物だから仕方ない。


「咲耶…?迎えにきたっておまえ…」


「あたし、とっくに死んじゃってるからね」


機械が感情を持ったのだから、幽霊がいても何ら不思議ではないか。

むしろ幽霊の存在のほうが現実的とさえ言える。


「まあ、あれだよ。美人薄命ってやつ?」


「難しい言葉、使えるようになったではないか」


「まあ一応ね。大人になったもん」


その割には私が愛していた時のままの姿と声をしている。

おまけに私の股間を再び熱くせんとばかりに裸だ。

原点にして頂点だとでも言いたげではないか。


霊体ごときが思い出補正で私を燃やすことができるわけもない。

と言いたいところだが、頂点かは諸説あるけども、原点には違いない。


「それで。薄命の美人さんはなんで死んだのだ?」


「ハタチの時にさ、2コ下の彼氏いたんだけどね。そいつ免許取り立てでね。一緒にいた友達とかと箱乗りして。若気の至りってやつかな」


咲耶らしいと言えばそれまでの話だ。

私がさくらの開発を進めていたときには、チンピラのような男と共に命を散らしたのか。


誰かいい男と結婚して幸せになっていると思っていたら、どうしようもないな。

あのまま私に愛され続けていれば、そんなことには…なんて言えるほど私は誰も幸せにしてないか。


「それではなんでそんな姿なんだよ。しかも裸で」


「裸なのは…同じがいいかなって。子供の姿じゃないと博士気づかないでしょ?」


確かに大人のまま来られるより話は早い。

しかし、こんな報告のために、わざわざ幽霊になって化けて出てきたわけでもないだろう。


「それに…大人のあたしには興味ないでしょ…?ずっと成仏できないくらいには、言いたいこともあったからね」


ここにきて咲耶の顔に怒気が強まる。

約3年付き合っていたが、ほとんど記憶にない表情だ。

思い当たる節は大いにある。


「そうだな…悪いことをしたよ。すまなかったな…」


「ほんっと、ヒドイ振られ方してショックだったよ。でもね、あれから何人かと付き合ったけど、博士より好きな人には出会えなかったよ」


言葉を紡いでいくにつれて、咲耶の表情が柔らかになっていった。

原点にして頂点は私のほうだったようだ。


「生憎だが、私は咲耶くらいに好きな子と3人も出会えたよ」


「昔からモテモテだったもんね。だからあたしから告白したんだよ?」


成仏できずに彷徨う魂のまま一部始終を見ていたのか、咲耶は永遠に眠る2人を見て悪戯に笑う。

幽霊がそこまで万能の存在でなくても、この様子を見れば大体の察しはつくだろう。


「言いたいこと言ったから時間きちゃった。一緒に行こう?」


笑顔で手を差し出す咲耶の姿が薄くなっていく。

愛していた頃の思い出が濃くなるほどに、咲耶は透明に近づいていく。


恨み節をぶつけられたから成仏できるということか。

短い人生の中で私が最高の男だったと言いたかったがためとは、相変わらず可愛いやつだ。


だが、初恋の相手に唆されても、そうはいかない。

私には最後の仕事が残っているからな。


こんないい子が地獄送りなんてことはないだろう。

残念だが、もう二度会うことはない。


「咲耶とは一緒に行けないよ。代わりにあの子たちでも連れて行ってくれ」


「…また振られちゃった。知ってたよ。でも…今度は泣かないよ…バイバイ…博士…」


笑って強がりを言いながら、咲耶は溢れさせる涙が零れ落ちるより早く、透明になって消えた。


私に最期の時まで愛された2人を連れて行けと言ったからといって、何も私の前で二度も死ななくてもいいではないか。

女というのは何とも嫉妬深い生き物だな。


――私も今度は泣かないよ…


いよいよ失うものが何もなくなった。

残ったのは、愛した4人の幼女との思い出だけか。


死ぬ前に咲耶に会えたのは、なかなかいい褒美だったよ。

地獄行き確定の人間にも、神か仏はいるものだな。


さくらの元へ向かう足取りも重くはない。

むしろ軽いと言ったほうがいいだろう。

これで全てを終わらせられる。


「待たせたな…恭子。おまえも今頃は地獄か…?」


人形のように壁にもたれかかる恭子が返事をしてくれるわけもない。

いい夢でも見ているかのような顔だ。

早々と天国でさくらと楽しんでいるのかもしれないな。


天使の姿をした悪魔の機械を作った共犯だが、私の半分も完成に貢献していない。

恭子は可愛いだけの顔採用だったからな。

大して役に立ってないし、可愛いだけの無能だったから、地獄行きは勘弁してやってくれよ。


愛しのお姫様は、もっと待たせてしまった。

狂った科学者によって作られ、ほぼ人間となって死んだ哀れな子だ。

天国で本物の天使になっていて妥当だろう。


王子様のキスで目覚めてくれるなよ。


残酷な奇跡が起きないよう願いながら、まだ爆発が起こらないように、私は慎重にゆっくりとさくらを抱き起こし、もう愛を語れない冷たい唇にそっと唇を重ねる。


機能停止すればバグも何もあったものではない。

さくらに一切の反応はない。


これでいい。

おまえらは天国で私の悪口でも言いながら盛り上がっていろ。


きっと爆風が涙を乾かしてくれる。

だからもう…堪えきれない涙を強がって堪える必要もない…


「――おやすみ…さくら…」


私はいつもしていたように愛を込めて、さくらの頭を優しく3回撫で、小さな身体を思い切り抱きしめた。





―END―




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