第11話 過ぎ去りし日の夢

車で走ること30分ほど、到着した暴力団の事務所は、人を歓迎する雰囲気ではなく、当然のように殺伐とした空気が流れていた。


謎の置物だったり、変な掛け軸だったり、私の感性では理解できない空間だ。

随分と昔にも話をするのに来たことはあるが、悪趣味なのは相変わらずだ。


その時と違うのは、後ろ手に手錠をかけられ、身動きが取れないこと。

あとは助手が隣にいることか。


いくら拷問されても私は何も語ることはない。

殺されてもいい私を殺せない千葉がどんな駆け引きをしてくるのか、お手並み拝見とさせてもらおう。


「よくぞいらっしゃいました博士さん。どうぞ、お掛けになってください」


偉そうな椅子に深く腰掛けた千葉が平穏と狂気を纏いながら待ち受けていた。

もう組長かのような振る舞いだ。

実際にその立場に手をかけているのかもしれないが、別にそんなことは私には興味もない。


「また例のモンを作ってはもらえませんか?」


「それは無理だ。千駄ヶ谷から理由は聞いているだろう」


「それでは作り方を教えてはもらえませんか?」


「教えられないな。データも復元もできない方法で消去した。残念だが、諦めてもらおう」


埒が明かないといった表情で千葉はタバコに火を点ける。

精悍な顔をどれだけ強ばらせたところで私には何の威圧にもならない。


「博士さんは頑固で仕方ない。助手さんに頼みましょか。ずっと一緒にいたわけなんだから、作れないってわけはないですよね?」


「作ることは…一応できますよ」


千葉の圧に負けたかのように助手はあっさりとそう言った。

確かにこいつなら作ること自体はできるだろう。


「じゃあ作ってもらえますね?」


「100体あたしが作ったとして、99体はガラクタになりますけど」


「それじゃあ作れるとは言えませんわ」


「だから一応と言ったんです」


私と長年いただけのことはある。

助手もなかなか強情だ。


幼女型聖水器の開発費用を考えれば、ギャンブルにもほどがある。

赤字垂れ流しで組の存続すらできなくなるだろう。

千駄ヶ谷に国民の血税を流してもらったところで、完成を待つにも限界がある。


「じゃあ作り方だけでも教えてもらいますわ」


「お断りします」


「2人揃って困った人たちですなぁ」


助手もさくらのことを愛していた。

そう易々と作り方を言うわけがない。

言えば愛に背くことになる。

何をしても吐かないだろう。


こうなるとお得意の拷問コースか。

私は死なない程度にえげつない暴力を振るわれ、助手は輪姦されるといった感じだろう。


こんな女でも世のほぼ全ての男には需要がある。

私からすれば年増のブスでしかないから、目の前で何をされようが構いはしない。


ただ、私に付き従ってくれた助手ではある。

腐れ縁でも長くはいたのでね。

幼女しか知らないまま、不本意に男を知ることのないまま、死んでくれるのが望ましい。


「支援だけ受けておいてケツまくるなんて、義理も人情もあったもんじゃないですなぁ」


「だからこうして来たわけだ。不満なら指でも貰ってくれ」


「映画じゃないんですよ、博士さん。そんなモン貰っても何にもなりませんわ」


やはり指などでは満足してもらえないか。

組としては、幼女型聖水器を使って金儲けすることが目的なわけだから、当然ではあるな。

私が持つ情報は売れても、私の指には1円の価値もない。


千駄ヶ谷に報告するにも、納得させるだけのものが必要になるはず。

本意ではないが、最大の誠意を見せるしかなさそうだ。


「私も手ぶらで来たわけではない。指がいらないならこれをくれてやる」


「なんですのコレ?新手のヤクですか?」


私がテーブルに置いた透明の小袋を手に取った千葉は、訝しそうに中身を見つめる。

禍々しさすら感じる濃紺の錠剤が2粒。

自分で作ったものながら、なかなかに怪しい。


「薬には薬だが、幻覚を見たりするものではないな」


「金にならんモンならいりませんわ」


「それを金にできるかはおたく次第だ。その薬を飲むと、今の記憶を持ったまま、10歳に戻ることができる」


「んなアホなことあるわけ…」


にわかには信じられないのも無理もない。

本当に10歳の子供にできるのなら、幼女型聖水器を開発する理由だってない。


咲夜と別れて、私はそれまで以上に勉強をした。

そして、中学生の頃にこの試薬の開発を始め、高校生の時に完成させることに成功した。


完成とは言っても、10歳に戻せるだけに過ぎない。

10歳に戻してから成長させないことは実現できていない上に、効果も小動物で実験した結果から導き出した机上の空論でしかない。


これを今まで放置して、幼女型聖水器を開発していたのは、試薬を使用した際のデメリットが課題のまま、現状から改善の見込みがなかったからだ。


「人体実験をしてないから確証はないが、理論上はそうなるようにできている。だが問題がある」


「問題って、なんですの?」


「飲むと約2時間後に死ぬ」


闇の世界に生きている千葉の表情も変わる。

極道とて平然とはしていられないだろう。


「まあ…それなら、金にはなりますな。ただ、効果が証明されないことにはねぇ」


「あたしが飲みます!」


試薬の弱みを突いて揺さぶってくる千葉の言葉に被せるように、今まで黙っていた助手が叫ぶ。

私かどちらかが飲むしかなかったわけだが、私が飲む選択肢が早々に消えた。


「…そんな即決していいんですか?死ぬらしいけども…」


「死ぬ前に幼女になれるなら本望です」


「そ、そうですか。まあ、いいんですけど」


幼女を愛する女が幼女になって死ぬなら、そこに悔いはないだろう。

二度と戻らない全盛期に戻れる機会など普通はない。

それに、私についてきた時点で、とうに心は決まっていたはずだ。


「この女が子供になったら、私たちを解放してもらう。それでいいな?」


「いいでしょ。約束します。その代わり、残りはこちらが貰いますよ」


「ああ、どうぞ。高校生の私が作れた程度のものだ。複製も簡単にできるだろう。量産して好きに使ってくれ」


「それでは水を持ってこさ…」


千葉が近くにいる若いのに指示を飛ばすよりも早く、助手は小袋を開けて試薬を1錠、素早く飲み込んだ。


試薬の成分は大半が人間にとって毒とされるものを配合している。

飲めば相当な苦しみが待ち受けているはず。


助手は今にも死にそうなほど咳き込みながら、みるみるうちに身体が小さくなっていく。


――全盛期は、なかなか可愛いではないか。


10歳にしてはかなり身体が小さい。

感覚的には、8歳くらいの体型か。


「まさか…本当に…」


「若さん、私たちは筋を通したろ?もう時間は少ない。おたくらが連れてきたのだ、研究所まで送ってもらおう。それが筋だろう?」


「負けましたよ。負けた負けた。さっさと車を回せ。お客様のお帰りだ」


幼女化して服もダボダボの恭子を抱え上げ、用意された車に乗り込む。

幼女型聖水器が製品化できていたら、その資金で試薬を完璧なものに仕上げ、恭子に飲ませてやれたかもと思うと、些か口惜しい。


「そんなのあるなら、早くあたしに飲ませればよかったじゃないですか」


幼さが色濃く出る可愛い声が私を責める。

恭子の声だけでも、いかに10歳女児が至高の存在なのか痛感させられる。


「おまえがいなくなると人手が足りなくて困る。飲ませられるわけあるまい」


「でもこんなに可愛いんですよ?さくらちゃんにだって…負けてないくらい…」


「さくらのほうが可愛いわ。惨敗だよ、たわけが。だが…10歳のおまえも可愛いよ」


研究所へ帰る車に揺られる中、私はかつて愛した幼女たちにしたように、小さな身体を抱きしめ、優しく頭を撫でた。


咲夜はとうに私の元から去った。

さくらが起きることはもうない。

恭子も時間が来れば死ぬことは確定している。


10歳の呪縛から逃れられず、永遠を求め続けた結果は、残酷なことに無だったか。

残ったのは、愛した幼女を全員失うという虚無だけ。

因果応報、ここに極まれりといったところか。


「よーし、恭子、おうちに着いたぞ」


「博士さん、生きて…金になるいいモン作ってくださいよ」


「もう私が何かを作ることはない。旦那も精々いいヤクザになってくださいな」


恭子の手を引いて車を降りた私に千葉は世迷い言を言うが、造作もなくあしらわれると、何か言いたさそうにしながら運転席の下っ端に顎で合図をした。


研究所の玄関を破壊した元凶は車で走り去っていったが、警察が来た様子もない。

資金を提供してくれた署長からの報復と捉えていいだろう。


すっかり陽が暮れ、夜の闇に染まる研究所へと入っていく。

最後に私がすべきことをしようと明かりを点けると、機能停止したままのさくらの傍らにぽつんと座る瑠璃がいた。


「…まだいたのか。子供は帰る時間だぞ」


「帰ってくるの待ってました。博士に言いたいことがあったんで…ってその子は…?」


「あたしだよ、瑠璃ちゃん。市キョンだよ」


「えっ?そんな...えっ?」


さくらの秘密を知る瑠璃に隠す理由もない。

私は恭子が幼女化した経緯も、その代償としてどうなるのかも、全て包み隠さず話してあげた。


子供の脳の柔軟性なのか、私の開発実績によるものなのか、夕方から夜にかけて起きた出来事を瑠璃はすんなりと理解した。


恭子が死ぬという事実にはショックを受けていたが、当の本人が何の悲壮感もなく、むしろ嬉しそうにしている。


「どうどう?10歳のあたし、可愛いでしょ?」


「は、はい…可愛いです」


「同い年になったんだから敬語はいいの。もう先生でもないんだよ」


もはや素肌を隠すだけの存在になったブカブカの服も、腕を振って瑠璃に強く主張するその姿も、今はとても愛おしく見える。


さくらのランドセルを背負わせて、恭子が幼女だと自分を洗脳していた時が懐かしく思える。

仮にもっと早くに出会っていたとしたら、私は咲耶ではなく恭子を選んでいたかもしれないな。


「だからあたしと友達になって?」


「うん。いいよ。えっと…恭子ちゃん」


「短い間だけど…よろしくね!」


恭子は一瞬だけ寂しそうな顔を見せると、すぐに笑顔になって、瑠璃にキスをした。

この幼女たちにおける友達というのは、そういうことだ。


私の解釈が間違いではないとばかりに、瑠璃も恭子の服に手をかける。

元が小柄とはいえ、幼女になった恭子は10歳平均よりも更に小さい。

大人のままの服も下着も、簡単に脱げてしまった。


「わたしより背低いのに、おっぱいはおっきいね」


「えへへ、可愛いでしょ?瑠璃ちゃんのも見せてね」


まだ私にはやるべきことが残っているのに、恭子に服を脱がされて裸になった瑠璃から、眩いほどに美しく抱き合う2人から目が離せない。


試薬を飲んでない私には、まだ時間があるからいいか。

こんなに素晴らしい光景から目を背けてまですることでもない。


「2人で触りっこしよ…?」


「うん。一緒に気持ちよくなろ…?」


無駄がないゆえに剥き出しの裂け目をお互いの指がなぞるたびに、本来なら幼さとは縁遠い音が鳴る。

そして、求め合う心が秘密の先を探ろうとすれば、幼き美しい和音は加速していく。


最後にいいものを見せてもらえた。

こんな可愛い本物の幼女同士が、これほど淫らに戯れる光景など、そうお目にかかれるものではない。


不粋だと分かっていても乱入したくなるほどに、リビドーが止まらないが、外野は大人しく鑑賞させてもらおう。


「すごい…んん…グチョグチョしてるよ…恭子ちゃん」


「幼稚園の時から、してるからね…んぅ…」


「じゃあ…わたしとおんなじ…だね…うぅん…」


同性を愛する者の宿命なのか、自己完結に至るまでが異様に早いのは偶然ではないのかもしれない。

こんな生まれながらに性欲に溺れたようなのと関わらせれば、さくらが淫乱になったのも納得だ。


何より残りの1人が私だからな。

幼女同士の交わりにこんなにも興奮している私が最も異常と言ってもいい。


「瑠璃ちゃんのジュボジュボ…気持ちいいよっ…あぁん…もうイクの我慢できないぃ…!」


「一緒にイッちゃお…?わたしも、一緒に、イッちゃうからぁっ…」


何とも淫靡で愛らしい2人きりのオーケストラだ。

幼女基準で言えば大きめだが、まだまだ発育途中の胸を突き出し、恭子は先に身体を硬直される。


もう指3本なんて責められない恭子の幼膣を堪能した瑠璃も、快楽から来る痙攣が収まらないまま、可憐に散っていく。


「瑠璃ちゃん…大丈夫…?」


「うん…さくらちゃんと、いっぱいしたもん」


「次は…もっと仲良しのやつ…しよ?」


「うん…なんか恭子ちゃん、さくらちゃんみたい…」


ぴったり身体をくっつけた2人は、向かい合わせに座り、今生の別れを惜しむように向き合う。

絶景に見とれるあまりに忘れるところだった。

もう恭子は死んでしまうのだ。


あまりにも惜しい。

私がブスと罵り続けた助手は、永遠を願ったほどに可愛かった咲耶にも負けないほどの美幼女だった。


「さくらちゃんがあたしみたいなんだよ…?」


この糞変態淫乱幼女め。

今すぐにでも死んでしまえ。


そうでないのなら、私の命と引き換えにして、もう少しでも生きていてくれ。


おまえが11歳になって死ぬ瞬間を、私に地獄から見せてくれよ、恭子。


「恭子ちゃん…大好きだよ…」


「あたしも…大好き…瑠璃ちゃんと仲良くなれて、幸せだよ…」


先に我慢の限界を迎えた瑠璃は、秘部を擦りつけるのをやめて恭子にしがみつく。

そして恭子が果てると、瑠璃は安堵からなのか、虚脱感に襲われるように放尿を始めた。


「おしっこ漏らしちゃうくらい…気持ち良かった?」


「うん…さくらちゃんのが、移っちゃったのかな…」


「そうかもね…さくらちゃん…おしっこばっかしてたもんね」


冷たい床の上で行為に及んでいたことを忘れていそうなくらい目の前に熱中していたが、2人は隣で永遠に眠るさくらに目をやると、徐々にトーンダウンしていった。


しばし沈黙の時間が流れる。

だが、恭子のことを考えると時間を無駄にできない。


「瑠璃、私に何か言いたいことがあると言っていたな?」


「あっ、そうなんです。えっと…ありがとうございました」


最初に研究所に来て私を見た時とは全く違う目だ。

荒んで蔑むような目は、もうそこにはない。


さくらを殺した戦犯扱いされて罵られるくらいは覚悟していたが、感謝の言葉を貰うほど、私は彼女に何もしていない。


「あんなに好きになれる子に出会えるかわからないけど…わたし、さくらちゃんの分までがんばって生きます!」


「それがいい。そのほうがさくらもきっと喜ぶ」


「だから、その…お礼がしたくて…その…まだ出そうなんで、おしっこ…します…」


今さっきまで乱れていたのとは裏腹に、瑠璃は照れ臭そうに身体を揺すりながらそう言った。

謝礼が放尿とは可愛い幼女で何よりだが、私が瑠璃の礼を飲んで受けるわけにはいかない。


「気持ちだけ受け取っておくよ」


「わたしのおしっこじゃ…ダメですか…?」


「いや、充分だ。だから困る。君を好きになってしまう」


「でも、それなら…おしっこ…」


「私はもう死ぬ。君を…君まで愛することはできない」


残念ながらもう私の愛は手一杯だ。

そんなに持って行ったら、三途の川も重くて渡れなくなるというものさ。


私は戸惑う瑠璃を背に、机の引き出しの奥から透明な小袋を取り出した。

そんなご丁寧に全てを千葉に渡したわけではない。

もう2錠だけ残っている。


それを私は1錠だけ手に取り、残りが入った透明の小袋を瑠璃に差し出す。


「恭子が飲んだものだ。君もいつか大人になる。死にたくなる時もあるだろう。その時はこれを飲むといい。さくらを、恭子を愛した姿のまま死ねる」


「アハハ、それは…いいですね…でも、飲まないでいいようにがんばります」


「強く生きろよ、瑠璃。私は今がその時なのでね」


死にたくなる時ではなく、正確には死ななければならない時だ。

私は手にした試薬を口に入れ、昨日さくらが出してくれた聖水の残りでそれを流し込む。


残された愛の雫がオブラートの代わりになり、苦しみを和らげてくれるかもしれない。

そんな淡い期待を打ち砕くように、五臓六腑に染み渡るほどの激痛が私を襲う。


内臓のありとあらゆる箇所が、経験したこともないくらい痛い。

配合した試薬の成分や、恭子も苦しみようから、相当だとは思っていたが、想像を超える苦痛だ。


これだけの地獄を味合わされたのだから、死の瞬間くらいはもう少し楽なのだろうな?

そうでなければ、こんなの割に合わないぞ?

高校生だった自分をぶん殴ってやりたい。

実験に失敗して軽く死にかけた時のほうがよほど楽だった。


千葉のような悪党にとんでもないものをくれてやったものだ。

借金のカタにこれを飲まされて、最後に大金を稼がされるのだろう。

他にも使い方は色々あるか。

そんなのは私には関係のないことだな。


無責任ではあると思うが、この命で勘弁してほしい。

この狂った試薬を飲まされるであろう方々、マッドサイエンティストと罵ってもらって構わない。

罪を犯しすぎた私は、自らに死刑を執行したのだ。


だが、私の死因だけは覚えておいてくれ。

私の死因は溺死である。

愛に溺れすぎたあまりに死んだと。


「ショタ博士、あたしより可愛くないですか?」


「女の子みたい…可愛い!」


意識が飛びそうになるほど、視界が白くなるほどの激痛が収まった先には、私をキラキラした目で見つめる幼女たちの姿があった。


昔から綺麗な長髪だったのは変わらないからな。

子供の頃は美幼女と間違えられて、よく誘拐されたものよ。

護身用に色々と武器を開発して、そのたびに返り討ちにしてやっていたがね。


「まあ、天は私に二物を与えたからな」


「声はあたしのほうが可愛いですね。勝った」


「でも女の子みたいで可愛い!」


約2時間後には死ぬ人間に対する接し方ではない。

恭子はもう1時間もない命だからいいか。

瑠璃は頭も身体も幼女だからいいか。

どうせ死ぬから何でもいいか。


「あ、あの…お願いしても、いいですか…?」


妙に照れながら、瑠璃が囁くように言う。

放尿を宣言した時より恥ずかしそうに見える。


「どうせ死ぬから大体のことはいいぞ」


「あの…おちんちん…見せてくださいっ…!」


何かと思えば造作もないことだった。

全裸の幼女しかいないこの空間で、私だけ服を着ているのもフェアではない。


しかし不思議な幼女だ。

瑠璃の性癖は恭子と同類のはず。

仮に私が求めたとしても届かないはずだ。


それがどういう風の吹き回しだろうか?

幼き日の私が女児にも見えるからか?

都合のいいのが丁度いるから試してみるのか?


まあ、私は大人の姿でも麗しかったがね。

有象無象の女になど負けない自信はあったな。


「興味あるのか?別に構わないが」


私は瑠璃に求められるがまま服を脱いだ。

少し動いたら勝手に脱げたと言うべきか。


「男の子も、好きになれるかもしれないです」


「そうか。幅が広がることは、悪くないだろう」


「ありがとうございます。わたし、帰ります」


小さくなっても大きくなった私の股間を見て何を感じたのか全く理解できないが、瑠璃は何か晴々とした顔で、床に散らばった自分の服を手に取った。


「もう…好きな人が死ぬところは、見たくないんで…」


「それがいい。恭子も時間が少ないしな」


「博士のことも、好きでしたよ。最初はあれだったけど、大人の姿のままでも…ちょっと好きでした」


愛おしさが込み上げてくる微笑みを浮かべ、瑠璃は絶対に言ってほしくなかったことを私に言ってくれた。

もう少し、早く帰るよう促すべきだった。


決して返事はしない。

可愛いと思っていたと褒めてもやらない。

私もだなんて口が裂けても言わない。


死ぬのが決まっている幼女を愛することなど、もうしたくないのでね…


そして残念ながら、それが私からの瑠璃への愛なのだから皮肉なものだ。


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