第10話 敗北

肌を刺すような寒さを越え、春がきた。

当然、さくらは進級して5年生となった。

クラス代えがあっても、根回しで担任は助手だ。


5年生になってもさくらは元気に学校へ行った。

もはや調査は意味のないものなのだが、瑠璃と過ごす学校生活を楽しむ彼女に、もう学校は行かなくていいと言えるはずもない。


今日はさくらの開発を始めた日の1日前。

つまり彼女が10歳でいられる最後の日。


鬼が出るか蛇が出るか、といったところか。


考えられるいくつかのパターンに対しての対策はしている。

予想外のことが起きるとなれば、その時は誰にも都合のいい幸せな展開になるだろう。


「さくら、起きてこないな」


「そうですね。いつも早起きでご飯作ってるんですけどね」


朝から嫌な予感がしてならない。

昨日は普通に寝たのだが、それが最期の元気な姿で、このまま再起不能という最悪の自体が頭をよぎる。


「さくら、朝だぞ。遅刻ちゃうぞ?」


「さくらちゃん、さくらちゃん!」


「電源が切れている。解析できる状態だ。手伝え」


一向に起きないさくらの解析をするべく、私たちは急いでパソコンに向かう。

最重要のチェック項目はコアの変化だ。


急速で過剰なさくらの人間化の原因はここにある。

ここに原因がないと逆に困る。


予想通り、子宮はコアを派手に侵食し、コアが占める割合は1割ほどにまで減少していた。

小さな機体の中で、五分五分の拮抗した勝負を演じていたが、やはりバグ側の勝利となったか。


聖水器として使われる以外は、人間として扱われるほうが断然多かった。

遅かれ早かれこうなっていただろう。


「想定はしていたことだ。おまえも覚悟しておけ」


「残念ですけど、そうですね…」


私は今にも泣き出しそうな助手と共に、さくらの傍で彼女が起きるのを待った。

1時間が過ぎ、2時間が過ぎても目は開かない。


「おはよう…さくら…」


頭を3回撫でてそう言っても、さくらに反応はない。

悲しみを抑え、何度も同じ行程を繰り返すが、ただ時間だけが過ぎていく。


あと1日が遠かったか…


王子様のキスでお姫様が目覚めることもない。

頬を伝う涙と共に時間が流れていく。


私にもまだ流す涙があったようだ。


泣けるだけ私には少し望みはありそうだ。

だが、さくらが明日を迎えられなければ意味がない。


「おはよう…さくら…」


最近はすることもなくなった一連の行程も、何度試したか分からない。

残念ながら幼女型聖水器計画もこれで終わりだ。


諦めて最後の処理に向かおうとした時、さくらの指が少し動いたように見えた。


「お兄…ちゃん?お姉…ちゃん…?」


現実逃避の幻覚を見たわけでもなく、さくらは確かに目を開けてゆっくりと起き上がる。

しかし、立ち上がることも不安定で、表情に生気のようなものは感じない。


「ごめんね…寝坊しちゃった…ご飯、作るね…」


「お姉ちゃんが作るから大丈夫だよ。さくらちゃんに負けないように特訓したんだよ。まあ、もうお昼も過ぎちゃったけどね」


明るく振舞う助手が虚しく見えるくらい、さくらは特に反応を示さず、食卓に向かう際も何回かよろめき、私が支えていなければ満足に歩けなかった。


明らかに正常に機能しているとは言い難い。

座っているのも辛そうで、目も焦点が定まらない感じだ。


人間化したとはいえ、元が機械だから医者に診てもらってどうこうという問題でもない。

この様子では、修復不能も時間の問題だろう。


「先生…あっ…違った…お姉ちゃん…お水ください…」


「どうせ間違えるなら市キョンでいいのにー」


いつもなら舌打ちする助手の馬鹿さが何か癒しのように感じる。

この女からそんなものを感じているようでは、私も知れたものだな。


「おしっこ…しないと…」


さくらはふらふらと立ち上がり、パジャマを脱いでショーツを下ろして放水口を露出させると、飲み干した水の入ったコップを股間に近づけた。


「あれ…?おしっこ…出ない…」


末期には限りを感じさせないほど漏らしていた。

自分の意思でも求められていても出していた。

給水したのに出ない事例は、未だかつてない。


「さくらは…おしっこしなきゃ…なのに…」


閉ざされた裂け目を自ら執拗に弄り倒すが、放水が始まることはなかった。


無限に湧いてくるように放水していた頃から、もう異変は重大なものになっていたのだろう。

幼女型聖水器としての機能は、コアが乗っ取られたことで失われてしまったようだ。


放水こそされないが、愛液は垂れ流されるがまま、さくらの足元を濡らしていく。


「おしっこ飲んでほしいのに…気持ちいいだけなの…それじゃダメなんだよ…」


明らかに普通の状態とはかけ離れている。

声をかけるのも何だか躊躇われる。


しかし、開発者である私が何とかしないと。

そんなふうに思っていると、玄関のチャイムが鳴る音がした。


ほぼ間違いなく学校帰りの瑠璃だろう。

彼女はさくらの限界を超えさせた実績がある。

壊れていくだけのさくらの何か助けになることに賭けてみたい。


「瑠璃ちゃんですかね。心配してきてくれたんでしょうね」


「おまえはさくらを見ていろ。私が応対する」


玄関に向かおうとする助手を制止して、私は玄関へと向かう。

ドアを開けた先にいたのは、既に何かを察していそうな顔で俯く瑠璃の姿だった。


「さくらが心配で来てくれたのか?」


「はい。だってさくらちゃん、お休みだったし、先生も来てなかったし…」


「心配かけたな。君にはさくらを看取る資格はあるが、私は1人の大人として薦められない」


機械が壊れるわけでも、人間が死ぬわけでもない。

10歳の子供に見せるのは気が引ける。

私の言葉の重みを感じたのか、瑠璃は言葉に詰まる。


「私には君の人生を背負うことはできない。だから判断は任せる。難しいとは思うが、君が決めてほしい」


「一目見た時から好きでした。さくらちゃんが大好きでした。だから…わたしは…大丈夫です!」


「さくらにいい友達ができて私は幸せだよ」


決意を新たにした瑠璃を友達の待つリビングへと連れていく。

そこには未だ放水をしようと奮闘するさくらの姿があった。


「あっ…!中野さん…来てくれたんだ…でもさくらのお誕生日は、明日だよ?」


さくらは一度も瑠璃を苗字で呼んだことはない。

瑠璃は複雑そうな顔をしているが、そこに悪意はないだろう。


既にあらゆる回路に不具合が生じているはず。

単にさくらが壊れていっている証左に過ぎない。

正常に機能している回路のほうが少ないだろう。


「あ、中野さんは…お友達じゃない…んだ…瑠璃ちゃんがお友達だよね…」


「うん、そうだよ。さくらちゃんのお友達だよ」


「そうだ…みんなにおしっこ…おいしいおしっこ…」


瑠璃が来ても、さくらに変化はなかった。

愛する幼女がこれだけ乱れているのに、興奮より悲哀のほうが遥かに優る。


後光のように差し込む西陽に照らされ、ひたすら秘部を弄り倒すさくらを、私たちはただ見ているしかなかった。


「ごめんね…おしっこ、出なく、なっ、ちゃった…」


「頑張ったな。ありがとう。もうゆっくり休もう」


「うん…疲れ、ちゃ、った…ごめ、んね…」


貯水タンクの残量が充分なのは間違いない。

さくらは辛うじて生きているが、幼女型聖水器試作型CC01は故障した。


これ以上はさくらを苦しめ、更には残された時間まで短くすることになりかねない。

私はさくらのパジャマを戻し、ベッドに運んで静かに横たわらせた。


もう人間でも機械でもない。

治してやることも直してやることもできない。


私にできることは、たださくらの傍に寄り添い、死とも故障とも言えない時を待つだけ。


「るりちゃん…おともだち…に…て…くれて…うれし…かったよ…だいす…き…だよ…」


「うん…わたしもだよ。明日…お誕生日会、しようね…?」


「あした…は…みん…に…おしっこ…してあ…るね…」


声も途切れ途切れで掠れるさくらの手を握る瑠璃も涙を溢れさせる。

もう明日はないと悟っていても、明日があると思いたい気持ちは、私も同じだ。


寝かせてあげるのが最も楽だと思ったが、座っている時よりも立っている時よりも状態が悪い。


放水しようと最後の力を使い果たしたのか。

それでも聖水器であろうとするのは、さくらの本能なのかもしれない。


「おねえちゃん…だいす…き…だよ…」


「うん。大好きだよ、さくらちゃん。明日は…お誕生日だから、おいしいお水…いっぱい飲もうね…?」


「おみず…が…せかい…いちば…おいし…みもの…」


強がりな助手も涙を堪えることはできない。

そして、放水口から水を出せなかったさくらの目からも水が零れる。


「おにいちゃん…あい…し…てる…よ…」


「ありがとう。さくら、愛しているよ。明日は誕生日だから、少し早いけど…もう眠ろう…」


「うん…でも…い…しょに…い…てね…?」


「ああ…さくらが眠るまで一緒にいてあげるよ…」


さくらの頬に伝う誰のとも分からない涙を拭う。

その肌は冬に鉄でも触っているように冷たい。

10年前、もう11年前と言ったほうが早いか、その時に戻ったと思えばいい。


最初はただの金属だったのだから…

もうこんなものは鉄屑に過ぎない…

試作型なのだから次にまた作ればいい…

もう私にはそのノウハウがある…

試作型CC02はもっと早期に完成させられる…


自分にどう言い聞かせても、こんなに可愛く完成させたからには、そう簡単に割り切れるわけもない。


ここまで愛したからこそ、開発者の私が全てを終わらせなければ…


それが私が愛し、愛してくれたさくらにできる最後のことだ。


「だから…おやすみ、さくら…」


どれだけ流しても悲しみを流せない涙に視界が霞む中、頭を2回撫でられたさくらは静かに目を閉じた。


あと1回、撫でさせてほしかった…


もう目を開けることはないだろう。

さっき目を覚ましたのは、きっと奇跡だったのだ。


11歳になり、私に愛されなくなる可能性から逃げるように、私の傑作は壊れた。

夕陽が差し込む窓の外で散っていく桜の花のように、私の愛した幼女は死んだ。


「さくらちゃん…直り…ますよね…?」


瑠璃の震える声に助手が首を横に振る。

私と共にさくらを作ってきたから、もう手の施しようがないことくらい分かっていた。


「もう、さくらちゃんは直らないよ…」


「うぅっ…さくらちゃん…」


あらためて言葉にされて絶望したように、瑠璃は膝から崩れ落ちて大粒の涙を零す。


愛する幼女を失い、その友達の幼女まで悲しませて、ますます私の業も深くなったものだ。

こうもなると、いよいよ死んで詫びるしかないな。


だが、何も詫びる相手は幼女だけではない。

科学の敗北者となった私には、出資してくれた多くの人に謝罪して回る義務が残っている。


どれだけ悲しくても、死ぬ道しか残ってなくても、それだけはしなくてはならない。


――もう私は…幼女型聖水器を二度と作らないのでね…


「悪いな、瑠璃。最後に来てくれて感謝するよ。私はまだやることがある。いると危ない思いをすることになるだろうから、もう帰りな」


「まだ…さくらちゃんと一緒に…いたいです…」


「忠告はしたぞ。好きにしろ」


瑠璃はさくらの亡骸にすがりついて離れない。

気持ちは理解するが、その選択は危険を孕んでいる。


それも承知の上なのかもしれないな。

彼女も死ぬつもりなら、頑なでいることも特に不思議ではない。


「ただ、さくらにはもう触るな。爆発する」


「え…?爆発…?なんで…?」


「まあ、それがさくらの葬式だと思ってくれればいい」


さくらは機能停止してから5分以降、ある程度の衝撃を受けると爆発する仕様になっている。

バグが深刻化したために追加した完成時にはなかった後付けの機能である。


瑠璃が初めて研究所に来た時に付与した新機能だ。


「おいブス、最後の仕事だ」


私は瑠璃に寄り添う助手を呼び、パソコンに向かう。

出資者の方々への謝罪回りより先にやることがある。

幼女型聖水器に関する全ての記録を消去しなければならない。

これを残しておくと業を背負う者が増えるだけだ。


この天使の姿をした悪魔の機械は、二度と作られてはならない。

製作の記録も、そのバックアップも、全て抹消する必要がある。

そして、機体そのものも…


「消去…するんですね…」


「さすがは私の助手だ。褒めてやる」


「あたしでも、そうしますから…」


「私が…血迷った行動をしないよう、よく見ておけ…」


情にほだされてはいけない。

幼女型聖水器の形跡を残すことは愛ではない。

私は心を鬼にしてマウスをクリックした。


ただの金属だった頃から、バグを起こして機能停止になるまで、さくらに関する膨大な情報が消えていく。

試行錯誤した長い日々が無駄だったと私に突きつけるように、私の努力と愛の結晶が消えていく。


バックアップも抹消した。

もう幼女型聖水器を復元しようとしてもできない。


さくらの遺体が何者かに回収されたとして、いくら優秀な科学者が解析しても、私がどうやって本物の美幼女と遜色ない姿まで仕上げたのか分かるはずもない。


悲しいことに私は天才なのでな。

こうなると、こんなことができた自分の才が憎い。


世界のどこかに私に並ぶ天才がいた場合の奇跡まで考慮すると、機体から情報を得られないよう、さくらを解体して処分しなければならないが、瑠璃がいてはそんなことはできない。


どうせ私と同等の科学者などいないだろう。

仮にそんな者がいたとして、私が仕掛けた最後の罠によって爆死するだけだがね。

幼女型聖水器がこの世に再び現れることは、もう二度とない。


瑠璃を帰してからのほうが無難だが、出資者たちへの感謝と謝罪の時間へと行こう。


既に瑠璃には忠告した。

彼女に何があっても私は悪くない。


私と道連れになったとして、大好きなさくらの後をすぐに追えて本望かもしれないしな。


出資額の多かった順に連絡していくか。

政治家の大先生からいくとしよう。

千駄ヶ谷の旦那が最もさくらの完成を待ち望んでいたといっていい。


「お世話になっております、浅草橋です。残念なお知らせがありまして、お電話した次第です」


「残念とは何だね?まさか例の計画のことではあるまいな?」


「ええ、残念極まりないのですが、そのことです。試作型は重大な欠陥により、機能停止しました」


「ならば仕方ない。金なら用意する。再び君の夢と私の夢を、是非とも完成させてくれ」


「私はもう幼女型聖水器は作りません。大恩を賜りながら申し訳ないです」


「何故だ!?金か?まだ金が足りないのか?」


「…あんな悲しみを生むものは決して作ってはいけないからです。今までありがとうございました」


今にも発狂しそうな千駄ヶ谷を無視するように、私は一方的に電話を切った。


幼女型聖水器は悲しみを生むだけの代物だ。

また作れば同じ悲劇が起きるだけ。

もう作るわけにはいかない。


誰に連絡しても言うことは同じ。

出資してくれたことに感謝を告げ、事実を伝えて謝罪する。

もう次は作らないと言い残すだけ。

私は幼女型聖水器計画の終了を各所に電話した。


残るは資金面より人脈の開拓で貢献してくれたインテリヤクザか。

穏やかな仮面を被っていても、千葉も所詮は裏社会の悪党に過ぎない。

いざとなれば、手荒な真似も辞さない構えもお手の物といったところだろうな。


「瑠璃、そろそろ帰ったほうがいいぞ」


「うぅぅ…さくらちゃん…」


敗戦処理の足枷でしかなくなった瑠璃の心の整理がまだつかないようだ。

鉄砲玉が飛んでくるには時間もあるだろう。

その頃には精神状態も少しは回復しているはずだ。


私を殺してくれる分には結構なのだがね。

向こうもそこまで馬鹿なわけがないから、私が殺されることはないだろう。


「お世話になっております、浅草橋ですが」


「おお、博士さん。千駄ヶ谷先生から話は聞いてますよ」


今すぐ電話を切りたい。

政治家と繋がっているからには、連携も取れているという至極当然のことではあるが、随分とお耳が早くて困る。

外で車が乱暴に停まった音がするのは、気のせいということにしておきたい。


「お話を伺いたいのでね、若いのを寄越しましたので、お待ちしてますわ」


何かひとつ憎まれ口でもと思うのと同時に、研究所のドアを乱暴にノックする音が聞こえた。

私は即座に電話を切り、瑠璃の腕を掴む。


「恐いお兄さんが来た。窓からでも逃げろ」


「ふぇ…?でも…さくらちゃんが…」


「…さくらは死んだのだ。君はあの子の分も生きろ」


幼女の涙が私に余計なことを言わせる。

別に私の恋人でもなく、どうせ今年には死ぬ年齢だというのに、どうかしている。


何とか瑠璃を逃がそうと小さな身体を強引に引き起こすも、悪人面した連中が勝手にぞろぞろと入ってくるほうが早かった。


「おたくら、随分とオシャレなドアの開け方をするな」


「いやぁ、申し訳ない。鍵がかかってたもんでね」


「そちらの家は玄関のドアが毎日壊れて大変そうだ」


若頭が人畜無害を装っていても、下っ端は何のインテリジェンスもない連中ばかりのようだ。

この研究所も今日で閉鎖だから構わないか。


「ブツはどっちだ?」


「壊れたって言ってたんで、あっちかと」


「ブスじゃないもん!」


「いや、アンタに言ってないし、ブツって言ったんだよ。つーかアンタ可愛いじゃん」


「えっ?ナンパですか?ヤクザ式ですか?」


馬鹿なふりをして何か考えでもあるのか、単に真性の馬鹿なのか。

状況も何もない助手を無視して、下っ端の1人がさくらのほうへ歩いていく。


「そいつに触らないほうがいい。爆発するぞ」


「悪いねぇ。上からの命令なんでね。そんな脅しに乗るわけにはいかねぇんだ」


「話の分からない奴だ。爆発してこの研究所ごと吹き飛んだら、困るのはそちらではないのか?」


「…本当に爆発するのか?」


「ああ、嘘ではない。私にとっては、爆発してくれたほうが大体は好都合だから触ってもいいがね。おたくもこんなおつかいで死にたくはないだろう?」


さくらに触れかけた下っ端が口惜しそうに手を遠ざけていく。

学がない奴はゼロから説明しないと分からないから困る。


私から幼女型聖水器の情報を吐かせる。

助手も情報を握っている可能性が高いから同じ。

それができなかった時の保険として、機体を回収する必要がある。

連中の考えているのなんてそんなところだろう。


小賢しい奴の考えくらいお見通しよ。

全ての可能性を既に私は潰しているというのに、そうとも知らずに滑稽なものだ。


瑠璃さえ無事ならそれでいい。

こんなつまらないことに巻き込む理由もない。

私がいなくなれば、瑠璃を無事に帰せる。


手ぶらで行くわけにもいかないな。

満足されるかは分からないが、これなら土産くらいにはなるだろう。


「それでは行こうか。この幼女は、あの子の…さくらのただの友達だ。関係ないから解放しろ」


「まあいい。その女には来てもらうぞ」


「それは構わない。こいつとは一蓮托生だ。行くぞブス」


私は助手の背中を押し、自ら連中の車に乗り込んでいく。

抵抗しない助手も行く末を悟っているのだろう。


どうせ連れていかれる運命だ。

業を背負った私が簡単に死ねないのも必然か。


こやつらで言葉で言えば、筋を通さねばなるまい。

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