Re×vival
きいろいの あぐる
蒼き軌跡
晴天の日。学生達が大きなグラウンドで陸上競技をしていた。観客席の横にあるフェンスで人間より大きな観客が走る姿を見ていた。
「わぁ…速い…」
青い鱗を纏ったティラノサウルス。彼は近くのファームに生活している。レース用として育てられているがまだ小柄だ。名前はソラマメと呼ばれている。
「おいおい、そんなに人間観察が好きなのか?」
ファームの飼育員である柿原さんが声をかける。週に1回、ファームの中だけでなく外に出る事で人間との交流や生活を学べるので定期的に散歩をしている。
「だって、とっても楽しそうに走ってるんだもん」
ソラマメは鼻息を荒くして走っている選手を見ている。
「特にあの人!」
今戦闘に走っている選手にソラマメは夢中のようだ。余裕の笑顔を見せながら他の選手との差をつけゴールする。
「へぇ、学生さんの割にいいフォームをしてるんじゃねぇか」
「でしょでしょ?」
柿原さんはソラマメの眼が普段より身輝いているのを見て笑う。と同時にアラームが鳴り響く。どうやら散歩の時間は終わりのようだ。
「そろそろ帰るぞー!散歩じゃなくて観戦だなこりゃ」
はーいと言いながらファームに帰るソラマメ。帰った後もファームの人たちや一緒に住んでいるティラノサウルスにも今日のことを楽しそうに話した。
赤い色をしたティラノのパプリから
「人間の陸上競技の実況に向いているんじゃないか?」
と言われていた。そうかもしれない。
あれから約1年過ぎてもソラマメはグラウンドの陸上競技を見続けていた。彼が一推しの選手は渡海 勇人。楽しそうに走る姿に心を打たれたのだろう。勇人が走る400メートル競技は欠かさず観ている。周りの人間からは最初は珍しく思われたが、もう慣れてしまったようだ。柿原さんも「観るだけなら1体だけでも大丈夫だろう」とソラマメだけで観ている事が増えた。
夏の大会が近い日、代表選手を決める為に集められた選手を見てソラマメは違和感を気づく。
「あれ……いない……」
渡海 勇人がいないのだ。前に見に来た時には彼はいたはずだ。なのにいない。憧れの人間らしき姿がグラウンド内には何処にもいないのだ。
「どうしたんだろう…あの人の走り好きなのに…?」
渡海 勇人を見に来たソラマメにとってはショックだ。今回は何か理由があって休んでいるのだろうと思いながらグラウンド内をまた見ようとすると
「やぁ、また観に来てくれたのかい?」
横の観客席から声がした。その声の方に目を向けると
「あっ!」
初めて聞いた声なので誰かと思ったが、間違いない。長袖長ズボンのジャージ姿であるが渡海 勇人だ。暑さなど平気そうな顔で話しかけてきたのだ。
「どうしたんだい?恐竜なのに鳥類のような顔をしてさ」
それはそうだ。憧れがこんなにも近くにいるんだから。…と見惚れている場合じゃない。聞きたいことがあるのだ。
「あの…どうしてグラウンドで走ってないんですか?」
渡海 勇人は少しため息をつきながら答えた。
「…走る必要はないからさ」
ソラマメにとっては予想外の答えに驚いてしまう。
「なんで?あなたの走り、僕は好きだったのに…だって楽しそうに走ってて…」
走る必要がない。この答えに納得のいくような理由が知りたかった。知るのは怖いが憧れが無くなるのがもっと怖かった。
「楽しそうに…見えてたのか…」
渡海 勇人は苦笑しながら話す。
「幻滅しちゃうかもしれないけどさ、俺は楽しそうに走ってなんかない。楽しそうに走ってたふりをしてたのさ」
楽しかったふり…?
「どういうこと…?」
陸上競技で汗を流していた彼の姿からかけ離れた答えに動揺する。
「どんな生き物にも限界がある。人間にもあって限界が来ると痛みがやめろと訴えかけてくるのさ。それを誤魔化すようにどんなに苦しくても楽しそうに走る…そうすればコーチやチームメイトも安心させられる。単純に俺の能力を試してトップを勝ち取りたかっただけさ」
流暢に話しながら長ズボンのジャージの裾を捲りシューズを脱ぎ出す。その脚は包帯や湿布を貼り付けて肌が見えないようになっていた。
「だけど…限界を超えてしまったんだ…身体がボロボロになり過ぎてコーチに叱られチームメイトにも迷惑をかけた。医者にもドクターストップを言い渡されて今じゃ雑用係さ」
さっきまで笑いながら話してたが、ソラマメには彼の表情が若干曇っていたように見えた。
「……うぅ」
小さい眼からうるうると涙が出てきた。
「なぜ泣いてるんだい?君は無関係だろう?」
突然の涙に渡海 勇人は驚く。
「だって…僕にとっては憧れだったのに…」
「幻滅させて悪かった」
渡海 勇人は申し訳なさそうに謝る。だが、ソラマメは
「違うよ!苦しくても努力してきたのは事実じゃないか!なのに…もう走れないと思うと…」
ソラマメの優しさからか渡海 勇人は優しく言葉を返す。
「別に二度と走れないわけではないさ。ただ、陸上界での評判は良くないだろうし、復帰はしないかな」
少し乾いた声で笑い出す。
僕は彼に何かしてあげたい…彼がしてくれたように…励ましたい…元気になってほしい…
出来ればもっと近くで……
「じゃあさ!」
突然大きな声で渡海 勇人に話し出す。
「僕のパートナーになってくれないか!」
渡海 勇人はキョトンとした顔をする。数秒固まった感覚だった。
「…は…ティラノサウルスのパートナー?」
「今からでも遅くないと思うよ!勉強は必要だけども、トレーナーとしての資格を取って僕のパートナーになってください!」
ティラノサウルスのレースにはパートナーの存在が絶対条件であり、トレーナーとして鍛えてあげたり、競技での作戦指示をしたり、レースのエントリーなど様々な仕事を行う。勿論認定試験やティラノサウルスとの信頼関係が必要になる。
「あなたに本当の走る楽しさを知って貰う上で王者になってみせるよ!」
我慢してまで楽しく走った彼の為に今度は僕が楽しく走る姿を見せる番だと思いをぶつける。
「何それ…ティラノサウルスでも面白い事を言うじゃないか!!」
両手で叩きながら爆笑し出す。
「……ダメですか?」
じーっと見つめるソラマメに渡海 勇人は自信満々に答える。
「いーや、やってやろうじゃないか!限界を越え過ぎない程度に鍛えさせて貰う覚悟があればの話だがね?」
ソラマメはその言葉に対して嬉しそうに返す
「君の走りが証明してる。努力して鍛えられるならそのつもりだよ!」
「ははっ」
渡海 勇人はベンチにあったスポーツバッグを持ちだす。
「じゃあとっとと退部届けを出して専門書でも買って来るかな」
背中を向けて観客席から立ち去り際にソラマメに言う。
「正式にパートナーになるまでに病気や故障なんてするんじゃないよ?」
「うん!」
ソラマメは渡海 勇人と大きな約束をした。
「…そういえば、僕の名前を教えてなかった…なってこったい……」
「僕、ティラノレーサーになりたいです!」
ファームに帰った後に柿原さんとファームマネージャーの英島さんに頭を下げた。
「勝手に決めるな!お前はレーサーとして育てたわけではないぞ!力仕事さえ半人前だというのに…」
「柿原くん、落ち着きたまえ」
英島さんが柿原さんを止める。やっぱりそうだよね…僕はここで育ったから逆らえないよね。
「あの…変な事を言ってすみません…でした…」
英島さんは頭にはてなを思い浮かぶような顔をしていた。
「ソラマメはおかしい事は言っていないよ。自分なりのやりたい事を見つけただけじゃないか」
お茶をズズズ…と飲み話を進める
「実はね、の体格は昔活躍していたティラノサウルスの体格と似ているんだ。脚は丈夫そうに見えるというべきかな。君は不器用だけども、仕事の体力や場所の移動も他の子より速いんだと」
空になった湯呑みを置いて英島さんは僕に言った。
「ソラマメ、本気でレーサーになりたいならワシも手伝う。実はお前の母親もレーサーじゃったからなぁ」
「お母さん…?」
僕はお母さんの顔を覚えていない。病気で亡くなったお母さんもレーサーだったんだ。
「……僕、本気でレーサーになります!なので!頑張ってきます!!」
「英島さんが言うなら仕方ねぇな…絶対に途中で抜け出すんじゃないぞ!!」
柿原さんも応援してくれる…。
「はい!期待に応えて見せます!!」
「明日からソラマメに相性の良さそうな未成竜用宿舎を探しておくよ。今日は寝なさい」
英島さんに従いもう寝る事にした…」
「マメがレーサーとか大丈夫なのかー?」
「力仕事が嫌になっちゃった?」
「こっちに戻ってくるとかあるの?」
寝床に近い順に赤色のパプリと黒と白の柄をしたゴマコ、黄色のイチョウが問いかけてくる。
「レーサーになる。仕事は嫌になったわけではないけど、ここに戻ることないように頑張ってくる」
それを聞いた3体は
「うじうじしている時よりしっかししてんじゃん」
「走るなら仕事はこっちに任せて」
「戻らなくても応援しにきてもいいよね?」
その言葉を聞いて励まされた。いつもお仕事で迷惑ばかりかけていたのに…とても嬉しかった。
だから、中途半端では駄目、弱気になっても諦めても、僕もティラノサウルスなんだ。だから強くならなきゃ……。
そう思いながら眠りについた。
あれから3年後、僕は未成竜宿舎にで充実したトレーニングが出来た。最初は知らないティラノ達が敵視してくるかと思ったら意外とフレンドリーでトラックの並走もしてくれた。でも、みんな身体が大ききてびっくりした。
レースも非公式戦に参加した。
初めてのレースは明らかに走りティラノを選ぶ砂浜でスタート時点で思いっきりずっこけた。恥ずかしかったけど、勉強になったなぁ。
それからも同じ宿舎のみんなでレースをして1番は中々取れないけども、走るだけでも楽しかった。
ある日、英島さんのところのファームから電話がかかった。何かあったか気になるのでスピーカーモードにしてくれた。
「ソラマメくん、この声覚えているかい?」
その声を聞いて僕は心の奥から強い思いが込み上げる。
「勇人…さん…勇人さん!!」
「はっはっはっ!どんだけ僕のファンだったんだよ!」
電話越しでも大笑いをしていたのがわかった。
「でもどうして?僕は自己紹介してなかったと思うけど」
「ああ、柿原さんといっしょに来てたことも覚えていてね。近くのファームだったら英島しかないだろう?」
「確かにそうだけど…」
でもどこで何をしているのかわからないままじゃなくて良かったと思った。
「で、本題なんだが…」
「本題…何があったんですか?」
「何がって…君のためにティラノのパートナーになるための猛勉強をしてな…来年、正式に契約できる人間になったぞ!」
「正式な…パートナーに…」
僕は一瞬嬉しい咆哮をしてしまった…周りのみんな急にゴメン。
「おいおい…叫ぶなら来週にしろよ…嬉しさで勝手に体力を使ったらこっちとしては嬉しくない…
」
「…あ、そうでした……」
「勝てよ…ラストチルドレンレックスに」
「わかっている」
そう約束して電話を切り来週に備えて最終調整に入る。
ラストチルドレンレックス。通称LCR。
未成竜の部最後の公式戦になる。
ここに勝つ事が期待のティラノレーサーであり王者に近い者として讃えられる。
またレース結果によってはプロのレースチームとしてスカウトされる可能性もある。
毎年150体近いティラノサウルスが参加している。レースの組み分けは最初に雄と雌は分けられる。
予選は一回毎に5〜6体走り1位が決勝グループに進出する。決勝グループが複数あるがこれは複数のティラノの可能性が見たいという意味を込められている。
レースの一位には勝者しか味わえない巨大肉を食べる権利が与えられる。
「よし、頑張るぞ!」
ソラマメは小さな手を胸にペチペチと気合を入れる。
「ソラマメーがんばれー!!!!!!」
英島ファームのみんなに地元で会ったことある人までここまで応援しに来てくれてる。
それに……。
「さて、時計を見て待つのは飽きてきたぞ…」
観客席のゴールに近い位置でストップウォッチを押しては止めの繰り返している勇人の姿があった。
「僕の走り…見ていて!」
今を見ているのに気づいているのかはわからないけど、気合を入れてレースに挑む。
「ソラマメ選手、2番ゲートにお願いします」
「はい!」
いよいよ予選、ここを勝ち抜くのが最初の目標…
大丈夫、僕の背中を押してくれた人たちも、仲間もいるもん
「おいおい、こんなちっこいの逆に可哀想だわて!」
隣の言葉を信じるな…これは宿舎で習った。走るなら自分のペースで!
そしてゲートが……開いた!!
「1番乗りだー!!」
4番のティラノが前に出た。
全力で走り出すタイミングが来るまで距離を一定にして…
「させるかぁ!!」
3番…さっきのかな?追いかける体力があるかどうかになるか!
1番と5番は僕と同じ様子見かな。
「残りの距離半分来るよ…間に合うのかな」
イチョウが不安そうに見る。
英島「大丈夫じゃ、ソラマメの走り方がスタート時から変わってないってことは…」
「ソラマメくん、君はここで追い込みをかける気だね」
スタートから押したストップウォッチを手に勇人はレースを見る。
「あのフォーム…崩れかけてる…!」
ソラマメは低い体勢で脚に力を入れ速度を上げる。
1番と5番も追いかけるも追いつけない。
カーブの部分も柔軟な足首で速度を落とさずに走る。
3番を追い抜いて…4番を追い抜く!そのまま一直線に1位ゴールを決めた!
宿舎の仲間達は予選敗退者が多かった
「威圧のある奴があって怖っかったわぁ」
「あのスピードで体力がやばいって…」
「カーブで全力出す勇気でなかったよぉ〜」
「ソラマメは大丈夫だった?」
「あー、雨降ってて地面がぬかるんでいたらヤバかったかも」
次は決勝グループだ!猛者揃いになっても走り抜けるからね!
「決勝グループ第3レースの1位はホムラノヤイバ!迫力のある走りでした!」
1位のティラノサウルスは王者になったかのように咆哮を轟かせる。
次は僕が出る第4レースだ!これまでの頑張りなら出来る!そう信じてゲートに向かう。
「1番、ムードアップル。赤と緑のティラノです。予選ではペースを乱さずに快調に走っていました」
「2番、ライズナイツ。灰色のティラノです。1番強敵と思われるティラノに対して後方で待機。そして最後に差し切る作戦が得意のようです」
「3番、サンサイン。オレンジ色のティラノです。この子の動きは勘で走っている。…と言われていますが果たしてどうでしょうか?」
「4番、ヤマビコオウジ。黄緑色のティラノです。このレースの中で1番体格が大きく近くにいると地響きを感じるとか。このレースで影響は出るのか?」
「最後の5番、ソラマメ。青いティラノです。小柄なサイズでありながら状況を観察しながら走るティラノです。レーサー歴が浅い分1位を狙えるのでしょうか?」
彼らを見てわかる。強敵だと…。
でも負けない!何があっても最後まで走って1位の姿を見せるんだ!
「各ティラノ、ゲートの中へ」
大丈夫、僕は走れる…勇人との約束のために!
そしてゲートは開かれた!!
「5体ともいいスタートダッシュです!」
「順位は…サンサイン、ライズナイツ、ムードアップル、ヤマビコオウジ、ソラマメとなっております」
予想通りサンサインの調子が良さそうなとこから1番前に来るだろうと思った。ライズナイツも同じく警戒してた感じかな。
ムードアップルは逆にペースを乱されないように離れたか、ヤマビコオウジは最後に向けて力を溜めてそうだ…!
「おいおいこれで大丈夫なのか?」
パプリがソラマメの走りに不安を持つ
「ソラマメは何も考えずに走っているわけじゃないだろう。まだ距離があるゆっくり詰めてくるじゃろうて」
英島さんはじっと見守りながら話す。
「ソラマメくん、君の走り方は悪くない…ん?」
勇人が肌にポツリと雨粒が降り出す。
「レース中に雨が降り出しました!ここでまさかのゲリラ豪雨!」
「どうしましょう、一度レースを中断した方が…」
「しかし、ティラノ達は走るのをやめてませんよ!」
雨が何だってんだ!これぐらいで走るのを止める気なんてない!
他のティラノ達も同じ気持ちだろうか。脚を止めることはない。
「さあ!残りカーブを超えたら直線だ!5体のティラノの距離が縮まってきた!これは誰が1位になるか予想が難しくなってきたぞ!」
「このカーブを超えたら…行ける!!」
「ソラマメが急に距離を縮める!雨の中のカーブは怖くないかのようにヤマビコオウジを抜く気だ!」
「ここで抜かれたら力を出しても…くっ、抜かれる前に踏ん張って!」
ヤマビコオウジがカーブで芝生を強く踏む。
その時、ゲリラ豪雨によって芝生が滑り爪で地面を抉る形で態勢を崩してしまう。
「しまった?!」
そしてヤマビコオウジを追い抜こうとしたソラマメの目の前に…
「えっ」
破裂するような音がゲリラ豪雨の音に紛れた。
「着順は1位サンサイン、2位ムードアップル、3位ライズナイツ、4位ヤマビコオウジとなりました…」
暗い雰囲気の発表の中、カーブ付近で人が集まっている。
「脈はあるか!?」
「ありますが、意識がありません!」
「呼吸が浅いです!酸素ボンベを!」
「雨の中だと低体温になるぞ!早く運び出さないと!!」
ソラマメは態勢を崩したヤマビコオウジの尻尾に直撃してしまったのだ。体格差もあり頭部に強い衝撃を受けレース場の先まで吹き飛ばされてしまった不運な事故が起きてしまった。
ティラノレース界では稀に起きる事故である。
英島ファームのみんなは今の状況に泣きながら無事を祈るしかなかった…。
『寒いんでしょう?さぁおいで…』
うん
『一緒に入るお布団は気持ちいいでしょ』
うん
『…私がいなくても大丈夫だからね』
…やだよ
『貴方には明日がある…だから大丈夫よ』
お母さん…
『今でも貴方を必要としてくれる人がいるから…』
ソラマメくんは僕の走りを見たから走ることを決めた。
僕も期待を込めて約束をした。
だけど…だけど…!足が壊れたからなんだ!今でも痛いからって何だ!!
ソラマメくんを…あんな結果で終わらせたくない…約束を果たせないまま終わってほしくない!
死ぬな!僕との約束を果たしてくれ!そしてその先も、君の走る姿を見せてくれ!!
頼む!!
勇人は最初に観客席の位置から1番遠いカーブ付近の位置まで故障した足の痛みを耐えながら全力で移動した。持っていたストップウォッチはいつの間にか何処かに捨ていた。
そしてソラマメの近くまで来て叫んだ。
「ソラマメェェェェェェェェェェ!!!!!!」
その声は周りの観客も救助隊も驚いた。
それと同時に雨が上がってきた。
「起きてくれ!僕のために走ってくれるんだろ?僕と上を目指すんだろう?だったらここで寝るべきではない!寝るなら宿舎で寝ろ!」
勇人は涙を流しながら訴え続ける
「僕と君の約束はその程度じゃないだろう!僕は……君が必要なんだ!!!!」
「は…や…と……?」
ソラマメは意識を取り戻し目を開けた。
そして陽の光がソラマメと勇人の2人に差し込んだ。
「お、おは…よう…」
「ああ、おはよう」
その後1人と1体でアイコンタクトを取ったかのようにゴールのある場所までレース上と観客席側分かれて向かい出した。
「おい!まだ怪我が!」
救助隊の1人が追い出すと隊長である人か肩を叩いて止めた。
「あの子の目は走りたいという目をしている」
「勇人は足の痛みはないの?」
「あるに決まってるだろう!故障してから治療はまともにやってないし」
「そこはサボってたんだ」
「トレーナーに目指すようにお願いしたのは誰だったかなぁ?」
「あー…ごめんなさい!」
「それより頭は大丈夫かい?」
「まだふらつくけどぉ…俺は大丈夫!」
「ちょっと待て、一人称変えた?」
「あー…なんかこっちのほうがかっこいいかなって」
「かっこいいし被んなくて楽だね」
「あはは!そろそろゴール」
「インだね!」
周りを気にせずに話しながらゴールをした。
気づけば多くの人々が拍手喝采をしていた。
観客席から「ゴールおめでとう!」「頑張った!」「応援してるぞー!」と声をかけてくれた。
そしてヤマビコオウジが申し訳そうに頭を下げ
「本当に申し訳ない!何とお詫びしたらいいか…」
ソラマメはこう答えた。
「また一緒にレースをしてくれるだけでいいよ!今度は怪我しないように気をつけるからね!」
その言葉にヤマビコオウジは大粒の涙を流して「本当に申し訳ねぇ」と泣き続けてソラマメは慌てていた。
あれから4月まで時が流れた。
ソラマメは療養をしながら軽い非公式レースに参加したり、プロのレースを観察して勉強をしていた。
勇人は今年からティラノレース専門の学校に通いながらソラマメのトレーナーとしてパートナー契約を進めていく。
そして、LCRでは5位ではあったもののソラマメの頑張りと勇人のトレーナーとしての素質が認められて大手の傘下にある厩舎のチームメイトとして選ばれた。
「そういえばソラマメくん、パートナー契約を結ぶときにね。君の名前を変えられるんだ」
「俺の名前?」
「そう、名前がソラマメだとただの食べ物でもったいない気がするんだよ」
「むー…確かに…もっとカッコいい名前がいいなぁ」
「そのために既にいい名前を考えてあるんだ!」
「もう!?……どんな名前なんだい?」
「ブルートラジェクト」
「えっと…青い…何?」
「蒼き軌跡、これからみんなに君の走りを見せていこうという意気込みでね」
「蒼き軌跡…うん、いいね!」
「ちなみに僕はソラマメくん呼びで、英島さんところ以外はソラマメくん呼びは禁止にさせていただく方向でいくからね」
「それ意味ある?」
「昔からの親しみってやつさ」
「な、なるほど…?」
初めて会った時より絆が深かった1人と1体。
これからプロのティラノレーサーとして王者へ進んでいく。
「さぁ、このレースで君の軌跡を見せつけてやろう!」
「おう!俺は勇人と王者になるんだ!!」
「ブルートラジェクト!この直線の加速力はまさに蒼き軌跡だ!!」
Re×vival きいろいの あぐる @kiiroino
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