第7話


第6章 これからのこと


中国は台湾を自らの一省と認識し、台湾独立に断固反対している。

一九四九年(昭和二十四年)には、奥田さんらと訪ねた台湾海峡にある金門島で発生した毛沢東率いる共産党軍と蒋介石率いる国民党軍の戦闘は、唯一国民党軍の勝利に終わり、中国共産党は台湾を奪取し、全土を統一する機会を失った。現在、金門島は中国と台湾の対峙最前線になっている。

その時代の火種が七十五年経った今もまだ燻っているかのように、中国と台湾の悪しき因縁とも言える状況がひたひたと姿を現しつつある。

中国の習近平国家主席は二〇二二年(令和四年)に台湾「統一」は「必ず果たさなくてはならない」とし、そのための武力行使の可能性を排除していない。

その証拠に、中国軍は、度々軍事訓練と称して台湾に狙いを定めた演習を繰り返している。

就中、二〇二四年(令和六年)十月十四日、台湾周辺で空母も展開させて大規模な軍事演習を行なった。台湾国防部は、参加した軍用機は戦闘機など、一日としてはこれまでで最も多い、のべ百二十五機にのぼったと明らかにしている。

もし今後中国が本当の武力攻撃を台湾に仕掛けたなら、近隣諸国にも計り知れない影響を与えることになり、日本も決して例外ではない。

アメリカは、中国人民解放軍建軍百周年に当たる二〇二七年(令和九年)に中国が台湾を武力攻撃するというシナリオを繰り返し発している。

「よど号」ハイジャック事件から五十四年。そしてあの乗っ取り犯の会見から四十年が経った。赤軍派がわたしらとの会見で「総括」してみせた「北朝鮮の十四年」を今振り返ってみて、彼らの証言は今でも色褪せていないと感じる。

会見わずか一年後に噴出した「靖国公式参拝」「軍事費一%枠突破」「特定秘密保護法」という相互関係を持つ三案件の現状を見れば、彼らが指摘した非常に危険なキナ臭さが今日本を再び覆おうとしているように思えてならない。勿論、日本を取り巻く危うい状況は、中国・台湾問題に留まらない。

ロシアが不条理な戦争を仕掛けているウクライナに、ロシアとの協定に基づき、北朝鮮が約一万人にも上る軍人を送り込み、戦闘に参加させていることで、東アジアが思いもかけず戦争の惨禍に巻き込まれる恐れも現実味を帯びて来た。ウクライナの戦火は決して対岸の火事ではない。

しかし、だからと言って、軍備増強や国防軍創設、さらには憲法を勝手に捻じ曲げての「集団的自衛権」に伴う自衛隊の海外派兵まで暴走されると、黙ってはおられない。このままでは、若い自衛隊員の遺体が棺で祖国に空輸されて来る日があり得ないと誰が言えようか。

主権者たる国民が権力者をチェックするためにある立憲主義の憲法を、単に時の政界の意志だけで、中身を変えてしまうという暴挙を許すことは果たして出来るだろうか。出来るはずがない。

このまま手をこまねいていたら、特定秘密保護法、安保法に続き、世界唯一の被爆国・日本が戦後平和を維持するために機能してきた日本国憲法の息の根が止められてしまう恐れさえある。今水面下で進行している日本の危険な方向をこのままにしておくことは出来ない。それを阻止するためにはどうするのか。何が出来るのか。じっくり考えてみる時が既に到来している。


                             完

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見たまま朝鮮半島と台湾そして中国~わたしの取材ノートから~元毎日放送報道・安江俊明 安江俊明 @tyty

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