白馬の王子が通り過ぎるのを横目にプリンセスアニメを観る
うたた寝
第1話
私は男運が悪い。それはもう悪い。私に男を見る目が無い、と言われてしまえばそれまでだが、それを差し引いたって悪い。もうちょっと色々文字を足してラノベっぽいタイトルにしたいくらい男運が無い。ここまで悪いとなんかもう笑えてくるまでに悪い。
『男運が悪い』とだけ聞くとさぞ恋愛経験豊富に聞こえるかもしれないが、男性と付き合ったことはまだ無い。交際まで発展しない。ゆえに素敵な殿方との交際を夢見て色んな男性との出会いを増やしてきたわけだが、その経験値から一つ分かったことがある。
私に声をかけてくる男にろくな奴は居ない、ということ。
そんなことないよ、いい人も居るよ、とお思いだろうか? だが残念。少なくともいい人だった前例は無い。これから声をかけてくる人がろくでもない、という保証は確かに無いが、警戒するには十分な経験値である。思いつく限りで私に声をかけてきた男性でまともだったのは道を尋ねてきたおじいちゃんくらいである。
『まともの定義ってじゃあ何よ?』と聞かれると、これは確かに中々言語化が難しくあやふやな表現にはなってしまうが、頑張って言語化するのであれば『真面目に恋愛する気がある人』だろうか。これは別に『私と』じゃなくてもいい。
『女性とちゃんとお付き合いしたい』という動機を持っている人であれば、『彼女ほし~』くらいのうっすい動機の人でもとりあえずは『まとも』のカテゴリーに入れていい。実際私も『彼氏ほし~』くらいのあっさい動機ではある。
実際に交際まで発展するかは置いておいても、容姿も収入も性格も、まともというカテゴリーに入れる際には評価の対象外としていい。逆説的に言い換えるなら、『変な人じゃなければいい』と言ってもいい。
では今度は当然、『変な人』とは何だ? という話になるだろう。これはもう例を見せた方が早い。
初めて男性に声を掛けられたのは街中だったと記憶している。『キミ可愛いね!』と話しかけられ、その言葉を鵜呑みにしたのと、大声でそんなことを言われて恥ずかしかったのもあり、言われるがままに男性についていくと、『キミなら稼げるよ』と自称・男性と二人で話すだけ、という仕事を勧められたり。
絶対に話すだけじゃ済まないだろ、ナニさせる気だ? 私に……、と逃亡した。『スカウト? ナンパ? ああついに私の時代が!?』なんて浮かれる余裕さえ無かった。これは厳密に言うと『危ない人』かもしれないが、一端『変な人』のカテゴリーに入れておく。
次はマッチングアプリで出会った人の話。顔写真を載せるのに多少なり抵抗はあったが、女性は無料というものが多いため、試しに入れてみるか、くらいの軽い気持ちで始めやすかった。DMでセクハラまがいのメッセージを初手から送ってくる人も居たが、これは逆に言うと初手から分かる分『親切な変な人』の部類であった。大変変な日本語であるが、メッセージではまとも、のタイプの方が面倒くさいのである。
いざ会ってみるとまー宗教に勧誘されたり、投資を勧められたり、スピリチュアルな高級品を勧められたり、挙句の果てには何故か出会ってから解散するまでの2時間ほど『だから貴女はいい歳こいて未婚なのだ』という理由について延々説教されたり。どうでもいいけどそれ、貴方も未婚なんだから特大ブーメランじゃね? とか思ったものだった。
締めくくりは『だから貴女は私と結婚すべき』だったが、結婚アドバイザーもびっくりの口説き方ではないだろうか? これに関しては一応、相手に付き合う気があるため、前述の『まともな人』にカウントできないこともないが、個人的な主観において、変な人にカウントしておく。
まだまだまだまだまだまだたくさんあるが、これ以上はただの愚痴になりそうなので止めておく。要約すると私に話し掛けてくる男の大半は『金が欲しい』か、『エッチしたい』という目的であった。どうだ? 私に話し掛けてくるやつにロクな奴は居ない、と私が結論付けたところで誰が私を責められようか。まぁ、寄ってくるダメ男が悪いのか、引き寄せている私が悪いのか、は意見が分かれるところかもしれないが。
あくまで『私に話し掛けてくる』に限定していることに褒めてほしいくらいである。『男性はロクでもない』とまでは言っていないのだから。まぁこれは自分に対して多少希望を持たしている部分でもあるが。
こんなことなら学生時代、もうちょっと男と遊んでおくべきだったか、なんて、今更考えても仕方がないことを考えたりもするが、恋愛経験を積めなかったのはちょっと痛手だったな、とは思っている。
男性を見る目が養われていなかった、というのが恐らく一点あるのと、交際経験が無いから男性からちょろそうだ、と思われているのも恐らくあるのだろう。ちょろそう~、とブンブン羽音を立てて近づいてきた男たちを手で払い落とせなかったことが、ろくでもない男たちと出会うことになったきっかけであろう。
婚活をするタイミングにおいて、初めて男性と交際から始めようとする。この経験値の無さはやはり婚活において一歩出遅れた、と言わざるを得ない。出遅れているにも関わらず、変な男に引っ掛かりコースアウトで遅延。もうゴールテープ切れるのかな? と若干の不安さえある。
ある意味ではいい経験を積めた、とも言える。何となくの傾向は見えてきた、と言うべきか、メッセージをやり取りする最初の数ラリーで何とな~く、『あ、この人ダメそう』とは分かるようになってきた。積み重ねて溜め込んできたダメ男たちとのメッセージのやり取りの履歴。これと類似するメッセージを送ってくる人はもう怪しい。
このダメ男判定の技術を幼い頃から男性に声を掛けられてきた世の美女たちはとっくに養ってきたのだろう、と思うと、やはり出遅れ感が半端ではない。まぁ、羨んでも仕方がないので技術を会得して一歩成長した、とポジティブに受け取っておくべきだろうか。
女の子ならきっと一度は誰もが憧れた『女の子はみんなプリンセス』という言葉。いつか自分だけの白馬の王子様が迎えに来てくれるだろう、という無邪気な夢。
若いからまだこれから、と夢を見続けられないこともない。夢は持ち続けなければ叶わない、というのももちろんある。だから皆さんにまで強要する気は無いが、私はどうやらいつの間にか夢から覚めたか、その夢を捨てたらしい。
私はプリンセスではないし、プリンセスではない私のもとに白馬の王子はやって来ない、ということを可愛げもなくどこかで察してしまった。
向こうからやってこないのだから、白馬の王子様と結婚したいのであれば、プリンセスのもとへと向かおうとしている王子様を白馬から引きずり降ろして交際を迫らなくてはいけないらしい、ということ。夢の国のアニメであれば、間違いなくプリンスとプリンセスの恋路を邪魔する悪役として描かれることだろう。
まぁ何か、最近ヒール役も人気だからそれでもいいかな、なんて思ったりもするが。
白馬から引きずり下ろすほどの熱量は無いのである。昔からそうだ。ちょっといいな、と思う人が居ても、付き合っているのかも分からない、仲のいい女友達が居たりすると、もうその時点で諦めたりもしていた。
婚活をしてこそいるが、ものすごく結婚願望が強いのか、と言われるとそんなこともない。いい人居たらいいな~、くらいのあっさい理由ではある。
結構『いいね』来るよ、という話だったので、もうちょっと選り取り見取りで選べるものかと思っていたのだが、前述の通り、『いいね』をくれる相手は『体目当て』か『お金目当て』。自分が選ぶ側の立場ではない、と身の程を知ったと言えよう。
向こうから『いいね』が来ないなら、こっちから『いいね』をするしかないわけだが、こっちから『いいね』を送るほどの熱量は無いのである。これは半分くらい、『迎えに来てくれ王子様』思考もあるし、半分くらいは正直面倒くさいのである。
それこそプリンセスたちの爆速結婚アニメを見て、婚活の熱量が瞬間的に上がることはあるが、現実的に考えると、交際して~結婚して~子供作って~、って先まで考え始めると面倒くさくなって一気に冷める瞬間がやってくる。
『だから貴女は結婚できないんだ』と説教してくださったおじさま。あれ実は結構的を射ていたな~、と思わないでもない。まぁでも私はそんな自分を愛している。使い方としてあっているか分からないが、ありのままの姿を見せているのである。それでもダメならもういいや、って感じである。自分を偽ったって疲れるだけだ。
……というなんかそれっぽいカッコいいことを言い残し、私は今日も現実逃避がてら夢の世界のプリンセスたちの映画を観るのである。
それでは皆さん、ご一緒に。
ありの~、ままの~。
白馬の王子が通り過ぎるのを横目にプリンセスアニメを観る うたた寝 @utatanenap
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