第5話 これはもう?

 石段まで行ってしゃがみこんだ。無理! こんなのムリ! 

「こんな高い所から飛べないよ、死んじゃうよ」

「大丈夫、俺が支えるから」

「あんた、私の体でこんなデカい体支えないでよ。つぶれちゃうわよ」

「あっ そうか …… 」


「も~ ほなもう少し下でもええがな。飛べるとこから飛んでんか」

 私たちは少しずつ石段を下りて行った。先を行く〝私〟が時々振り返るが、そのたびに首を横に振って、残り8段くらいまで来た。


「ほんまにええかげんにしいや! これ以上はまかりまへんで!」

 それもそうかと覚悟を決め エイヤーと手をつないで飛んだ。やっぱり途中で

転がって、鉄平が転がりながらもわたしをかばった。けど、それ私の体やんか!


 石段の一番下に仰向けに長く伸びて気が付いた。目の前に覆いかぶさるように鉄平の顔がある。そう! 鉄平の顔だ! 思わず下から手を伸ばして顔を触った。

ぼーっと私の顔を見ていた鉄平が我に返って飛びのいた。

「ごめん!」

「戻ったようやな。ほなこれで貸し借りなしという事で」

おっさんが帰りかけたら  「まてっ!」鉄平が呼び止めた。

「おっさん今でもあのきったねえ社に住んでるのか?」

「だからきったねえのはお前たちの…… 」

「住んでるやつがいるなんて知らなかったよ。俺これからはこの町にいる限り、

月に一度は掃除に行くよ。約束する」

「えっ! ほんまか? 」

「ああ、親父にも相談して社も直せるところは直すよ。おっさんがあんなところにポツンといるのはなんか可哀そうだしな」

「可哀そうとは なんと無礼な… そ それに、わしはおっさんやない神さんや」

 とか言いながら、おっさん結構感動してる。

「とりあえず、次の土曜に行くからな」

とおっさんに言うと鉄平は私に「遅れるぞ」と声をかけて学校へと走って行った。

なんか体中痛かったけど、自転車に乗って振り返ったら おっさんの姿はもうなかった。


 自分の心と体がシンクロしているのって、なんて幸せで心地いいんだろう。世界中で今この思いを分かち合ってくれるのは鉄平だけだよなあ。

と思ったら土曜日 自然に裏山に行っていた。だって今まで学校でしゃべった事なかったから、急に話しかけるのもできなくて、でももっと色々話してみたくて…… 

もちろんそれだけだけど。


お昼前に行ったら、鉄平はもう社の周りの草むしりを終わりかけていた。

私をチラッと見て「よっ!」と言って作業を続行する。 それだけかよっ! 

 持って行った弁当は喜んでくれたけど、こっちからは、あんまり話す事がない。

「ここな、今日写真撮って、寸法計って帰って、親父に見せるんだ」

 鉄平のお父さんは設計士で、おじいちゃんは宮大工だったから二人に相談したら

おっさんのうち?のリフォームができるだろう。って鉄平は話してくれた。

本気でおっさんちを何とかしてやろうと思ってるんだ。

 お前、結構いい奴じゃないか。と鉄平を見てたら、急に鉄平がドギマギしだした。

「あのお、気持ちは分からないじゃないけど、そんなに睨みつけるのはやめてくれないか」 えっ、睨んでないけど?

「まあ、天井見てたよ、見てたけど、全然見なかったのか、って言われたらそういう訳にはいかないし…… 」

 ちょっと何の話してるのよ。風呂? 風呂の話!

 思わず、鉄平を突き倒して(揺れただけだったけど)叫びながら石段を駆け降りていた。あいつ、何言い出すんだよっ!


 あれから気まずい、というか廊下とかで会いそうになったら逃げてる。

卓也とのBL疑惑は文化祭で卓也と鉄平がコントをやった事で氷解した。

鉄平が姉ちゃんの服着て、とんでもない女装で現れたのだ。ずっと二人で練習してたらしい。卓也が胸を触りかけて「きゃぁあ~」というセリフもあった。

みんな大笑いで大好評、卓也の株がググっと上がった。今時は面白男子がもてるからね。

 弘美と梨香には「ライバル急増で大変だね」「だから早く告ればよかったのに」なんて言われたけど、もう関係ないもんわたし、私の心にはもっと告りにくい人が…… もっと鈍感な人が… もっとカッコイイ人がいる。

 えっ? 土曜日カラオケ行こうって? 

ごめん梨香,次の土曜日には行かなきゃならない所があるのよ、私。

うん お弁当作って大工仕事手伝いに ちっちゃい神さんがきれいに見えるようにね        

 

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ちっちゃい神さん 真留女 @matome_05

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