第10話 届いた招待状
舞踏会から一夜明けた翌日、一通の封筒が上杉家に届いた。その差出人は一条院侯爵家当主、すなわち美樹さんの父上だった。封筒を開くと、中には丁寧な筆致で書かれた招待状が入っており、翌週末に一条院家へ招かれる旨が記されていた。
「義之、お前にか?」
父が少し驚いたように封筒を手に取る。母や妹の玲奈も興味津々といった様子で俺を見つめていた。
「はい……多分、先日の舞踏会で美樹様と少しお話ししたのがきっかけかと……。」
その言葉を聞くと、父も母も「ああ」と納得したように頷いた。一条院家の当主から招待されるというのは、華族の中でも名誉なことであり、上杉家の一員として誇りを持つべきことだった。
招待状が届いてからの1週間、俺はそわそわと落ち着かない日々を過ごした。一条院家への訪問という責任感もさることながら、美樹さんとのやり取りが頭から離れなかった。
その週、美樹さんは普段以上に俺に話しかけてきた。
「義之君、来週の土曜日、楽しみにしているわ。緊張しなくても大丈夫よ。」
そう言って微笑む彼女に、俺はただ「はい」と返すのが精一杯だった。心臓がバクバクと高鳴り、平静を装うのに必死だった。普段なら落ち着いて話せるはずの俺が、彼女の一言で簡単に動揺してしまう自分に、少し苛立ちすら覚えた。
「落ち着け、俺……。」
自分にそう言い聞かせながらも、美樹さんからの声掛けのたびにまともに言葉を返せない自分がいた。
そして迎えた土曜日。一条院家から迎えの車が上杉家に到着した。父と母、そして玲奈が見送る中、俺は緊張で固くなった体を無理やり動かし、車に乗り込んだ。
「お兄様、頑張ってくださいね!」
玲奈の無邪気な声が背中を押してくれたような気がしたが、それでも不安は拭いきれない。車は静かに走り、一条院家の広大な敷地へと進んでいく。その途中で見える手入れの行き届いた庭園や威厳ある建物の数々が、一条院家の格式を物語っていた。
車が停まり、扉が開かれると、そこには美樹様が立っていた。純白のワンピースに身を包んだ彼女は、舞踏会で見た華やかさとはまた異なる、柔らかな雰囲気を纏っていた。
「義之君、よくいらっしゃいました。お待ちしていましたわ。」
その声に、俺の緊張は一気に頂点に達した。彼女が手を差し出してきたので、自然と握手をする形になったが、その手の柔らかな感触がまた一層俺の動揺を煽る。
「お招きいただきありがとうございます、美樹様……。」
「そんなに固くならないで。今日はリラックスして楽しんでちょうだい。父も母も、あなたにお会いするのを楽しみにしているのよ。」
その言葉に何とか頷きながらも、俺の心臓は破裂しそうだった。こんな状況でリラックスしろというのは無理な話だった。
美樹様に案内され、広々とした応接室に通されると、そこには一条院家の当主とその夫人が座っていた。侯爵家の当主らしい風格を持つ父上と、柔和ながらも品位を感じさせる母上。その二人の視線を受けた瞬間、俺の緊張は頂点に達した。
「上杉義之君、よくいらっしゃいました。一条院家の当主として、また美樹の父として、お会いできるのを楽しみにしていました。」
「ありがとうございます。本日はこのような機会をいただき、大変光栄に存じます。」
ぎこちなくなりそうな言葉を何とかまとめながら、頭を下げる。隣では美樹さんが微笑みを浮かべながら俺を見守っていた。
「お父さま、義之君はとても誠実で、私も尊敬している方なんです。中等部の頃から、色々と励ましていただいて……。」
「そうかそうか。美樹がお世話になったようで感謝するよ。上杉家の跡取りとして、将来を非常に期待している。」
当主の言葉に、俺の胸はますます高鳴った。美樹さんの視線、当主の評価、すべてが重く感じられる一方で、どこか心地良い高揚感も覚えた。
その後も談笑は続き、一条院家の両親が俺を歓迎していることがひしひしと伝わってきた。美樹さんが時折見せる微笑みや、何気ない会話の中での言葉に、俺の心は何度も揺れ動いた。
この訪問が、俺と美樹さん、そして一条院家との新たな関係の始まりとなるのだろう。 そんな予感を胸に抱きながら、俺は一条院家での時間を過ごした。
だが、その期待と不安が入り混じった思いは、これからどう形を変えていくのだろうか。それを知るには、後わずかな時間が必要だった。
一条院家の応接室で、美樹さんのご両親との対面を無事に終えた。緊張の連続だったが、当主である彼女の父上の落ち着いた態度と母上の優しい微笑みのおかげで、なんとか乗り切ることができた。ホッと胸を撫で下ろしながら部屋を後にすると、美樹さんがそっと俺に近づいてきた。
「お疲れ様、義之君。緊張したでしょう?」
「はい……けれど、ご両親が温かく迎えてくださったので、何とか……。」
彼女の優しい笑顔に、先ほどまでの張り詰めた気持ちが少し和らいだ。しかし、その次の言葉が俺の心を再び大きく揺さぶることになる。
「ところで、義之君……これが『お付き合いする前の両親からの面接』だって気づいてる?」
「えっ……えぇぇっ!?」
彼女の何気ない一言に、頭の中が真っ白になった。面接?お付き合い?その言葉の意味を理解するのに数秒を要した俺の反応に、美樹様は軽くさんを揺らして笑った。
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華族制度の残る日本に転生した。転生先が転生者の曾孫に転生したAI技術者 かねぴー @kanepi
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