第9話 美樹さんからのアプローチ

高等部に進学してから、俺と美樹さんとのやり取りは中等部時代以上に増えていった。生徒会の仕事を通じて会話する機会が増えたのはもちろん、廊下や休み時間にも彼女から話しかけられることが多くなった。


「義之君、今日の授業はどうだった?ちゃんとついていけてる?」


「ええ、何とかやっています。ありがとうございます、美樹様。」


「ふふ、頑張ってね。あなたには期待しているわ。」


美樹さんの柔らかな微笑みと包み込むような声に、俺の胸はいつも落ち着かない。それでも、彼女との会話は何よりの楽しみであり、日々の学園生活を支える大きな励みだった。


そんな中、美樹さんとの距離が近づくにつれて、俺に対する周囲の視線も変わり始めた。特にクラスメートたちは、俺と美樹様の関係をからかうような言葉を投げかけてくる。


「上杉、お前最近、美樹様とよく話してるね。もしかして、狙ってる?」


「いや、そういうわけじゃ……。」


「でも、美樹様の方から話しかけてくるなんて、羨ましい限りだよ。何か秘訣でもあるのか?」


からかわれるたびに否定するが、心の中では少しだけ得意げな気持ちを感じてしまう。俺のことを特別視してくれている美樹様の態度が、周囲にも伝わっているのだと気づくたび、胸の中が温かくなる。


そんな状況の中で迎えた、とある週末の舞踏会。華族や財閥関係者が一堂に会するこの場は、学園生活とはまた異なる華やかさと格式に包まれていた。


俺も上杉家の跡取りとして、家族と共に出席した。会場に入ると、豪奢なシャンデリアが輝き、格式高い装いに身を包んだ人々が談笑する様子が広がっていた。俺は玲奈をエスコートした。


玲奈と1曲踊り、軽食を食べていたらふと視線を感じて振り返ると、そこには美樹さんがいた。深紅のドレスに身を包んだ彼女は、気品と美しさを兼ね備え、まるで舞踏会の主役のような存在感を放っていた。


「義之君、今日は楽しんでる?」


「ええ、少し緊張していますが……美樹様もお美しいですね。」


公の場なので美樹様呼びしたら少し不満げだった。


「ありがとう。今日はせっかくだから、あなたと踊りたいわ。」


彼女の言葉に、俺は一瞬耳を疑った。まさか、彼女から直接ダンスを誘われるなんて思いもしなかったからだ。


「……光栄です。是非お願いします。」


そう答えると、美樹様は微笑みながら手を差し出した。その手を取ると、柔らかな感触が伝わり、胸の鼓動が一気に早まるのを感じた。


会場の中央に進むと、周囲の人々が視線を向けているのが分かった。少しの緊張と、それ以上の高揚感を抱きながら、俺たちはワルツのリズムに合わせて踊り始めた。


彼女と向かい合い、手を取りながら踊る時間は夢のようだった。彼女の動きは優雅そのもので、俺が少しぎこちなくステップを踏むと、そっとリードしてくれる。


「義之君、あなたって本当に誠実ね。そういうところが、私も好きだわ。」


「いえ、そんな……ありがとうございます。」


彼女の言葉に顔が熱くなる。彼女が続けて口を開いたのは、その直後だった。


「そうそう、父があなたのことを気に入っているみたいなの。一度、家に遊びに来てくれる?」


その言葉に、俺の胸はドキリと音を立てた。会場の音楽も、周囲の視線も一瞬でかき消されるような感覚だった。


「……僕が、ですか?」


「ええ。父が言っていたわ。『上杉家子爵家の跡取りは品格も教養もあって、将来が楽しみだ』って。」


その言葉を聞き、俺は胸が破裂しそうになるのを必死で抑えた。彼女の家に招かれるということは、単なる友人関係を超えた意味を含むのではないか――そんな期待が頭をよぎる。


「分かりました。お誘いありがとうございます。是非お伺いします。」


そう答えると、彼女は嬉しそうに微笑みながら言った。


「楽しみにしているわ。義之君ともっとお話しできるのが嬉しいもの。」


結局、美樹さんとダンスを3曲踊った。その後のダンスも、俺の心は完全に彼女の言葉に囚われていた。手を握り、目を合わせるたび、彼女の優雅さと温かさに心が奪われていく。


彼女が俺のことをどう思っているのか――その答えに近づいた気がする一方で、まだ確信が持てない自分がいる。だが、今日の彼女の態度や言葉は、確かに俺への特別な想いを示しているように感じた。


舞踏会が終わった後も、彼女との時間が頭から離れなかった。この高揚感と期待が、この先どのように形を変えていくのか。俺はその答えを探しながら、彼女に対する気持ちがさらに深まるのを感じていた。


美樹さんと踊った後、儀礼的に沙織様、千鶴様、真奈美さん、薫子さん、真奈美さん、由美さんと1曲ずつ踊った。


壁際で休んでいると玲奈が近づいてきて


「兄さん、疲れているみたいだけどどうしました?」


と聞かれ


「美樹様と踊ったんだけど色々あってね。帰ったら報告するよ。」


「最後に兄さんと1曲踊りたいのですけどいいですか?」


「勿論だよ」


玲奈はまだ、中学1年生だが美しい。きっとまだまだ美しく成長するだろう。まだ、兄離れ出来ていないが


「兄さんなんて嫌いです。」


なんて言われたら軽く死ねる。是非今の心根のまま成長して欲しい。


玲奈と1曲踊り、後は壁際で同級生や歳の近い顔見知りの人達とおしゃべりして時間を潰した。






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