第3話

「はぁ~~~。生き返るぅ~~~あったかぁぁい」


 結局、引きこもりの楽園城の門を死守することに失敗した僕は、どうやらしずくちゃんという名前らしい女子大生を家に引き込むことになってしまった。


 ちなみに、依頼票と一緒に見せられた免許証には十八歳を示す生年月日が記されていた。


 つまり、大学一年生らしい。

 しかも、僕が通っている高校のOBらしい。


 ……うん。なんかこう、恣意しい的な運命を感じるね。誰のとは言わないけど。


「……それで? 一応、本当に母さんと知り合いみたいだし、依頼票にも家政婦? みたいなこと書かれているけど、うちに何しにきたんですか?」


 玄関先で依頼票を見せられて、渋々家の中に入れることにした僕は、散らかり放題だったリビングにしずくさんを案内し、大慌てでそこら中の衣服やゴミ類を部屋の片隅にかき集めた。


 そのあとでソファーに座ってもらい、本当に仕方なくだけど、お茶を出した。


「あ、ありがとうございます~」


 しずくさんはにっこり笑ってから、ずずずと、湯飲みに口を付けた。


「一応、書いてある通りですよ。私は雄馬くんのお母さんとご縁があって仲良くさせてもらっているんですけど、雄馬くんって冬休み中、一人になってしまわれるじゃないですか」

「まぁ……そうですね」

「ですので、お母さんに提案してみたんですよ。私が冬休み中、面倒見ましょうかって」

「え……」


 しずくさんの話を聞いて嫌な予感がした僕は、思わず固まってしまった。だけど、それに気付いた風もなく、テーブル挟んで僕の真正面に座っていた彼女が、ミニスカサンタなスカートから覗くおみ足を組み替えた。


 一瞬、中身が見えてしまったのは内緒だけど、それに気を取られていたら、いきなり爆弾発言し始めた。


「それでですね? 私がそう提案したらキミちゃん先生――あ、先生っていうのは愛称なんですけど、先生、なんて言ったと思いますか? 『ちょうど花嫁修業にもなるから、ま、いっか』ですって。うふ」

「は? え、えっと、花嫁修業?」

「あら? 聞いていませんか? 私、今回の件に限らず、そのうち花嫁修業させてもらうために、こちらで住み込みの家政婦としてバイトさせてもらえることになっていたんですよ」


 ひたすら、うふふと声に出しながらにこにこしているしずくさん。

 僕は話の成り行きが急すぎて、ついていけなかった。


 いや、ていうか待ってちょっと。


 今日から二週間住み込みで働くだけじゃなくて、他にもどっかのタイミングでうちに来て一緒に生活するってこと?


 それだと、今回だけじゃなくて今後も自由気ままな一人生活が脅かされるってことか?


「いやいやいやいやいや……ちょ、ちょっと待って。花嫁修業のバイトってどういうこと? なんにも聞いてないんだけど? ていうか、どうしてうちでやるの? だって、母さん、家開けてること多いし、何も教えてもらえないと思うんですけど? ていうかそもそも、うちみたいな平凡な母子家庭でそんなことしても、何も身につかないと思うんですけど?」


 びっくりしすぎて、全身から冷や汗が吹き出してきた。

 背中を丸めて、恐る恐る彼女を見つめる。


 サンタ帽子被ったしずくさんは天使みたいな可愛らしい笑顔を浮かべながら小首を傾げた。


 長い黒髪が揺れ動く。

 背中についた天使の羽が……って、なんでミニスカサンタに天使の羽ついてんの?

 いや、そんなことはどうでもいい。

 しずくさんは――


「うっふふ。雄馬くん」

「は、はい……」

「とりあえず、将来的なことは置いといて、これから二週間よろしくお願いしますね?」

「え……? もしかして、それってもう決定事項なの?」

「はい。もちろんです。二週間しっかりと住み込みでお世話しますので、料理やお洗濯、お掃除についてはお任せください。もちろん、他にもいろいろお世話しますから」


 そんなことを言って、この真冬に半袖サンタな格好をした彼女は右腕曲げて力拳を見せてきた。


 ていうか、なんでそんな格好してるのとか、突っ込んだ方がいいのか?



 ――かくして、なんかよくわからないうちに、いきなり押しかけてきたミニスカサンタなどこかおかしなお姉さんと冬休みを一緒に過ごすことになってしまったのだった。


「あ……そうだったぁ。すっかり忘れてた~」

「ん?」


 いろんなことが一度にありすぎて呆然としていると、バッグをごそごそ漁っていたお姉さんが何かを取り出した。


「一応、これから私は雄馬くんの家政婦メイドみたいな立場になるじゃないですか」

「そう……らしいですね」

「えぇ。ですから、敢えて言うなら雄馬くんは私のご主人様になるんです」

「へ~……なんだか嫌な予感がするけど、それで……?」


 僕はニコニコ顔のお姉さんが手に持っている、ベルトみたいなものを見て頬がピクピクするのを感じた。お姉さんはそんな僕を気にせずこう答える。


「ですので、はい、これ。私の首にこれを付けてください」


 そう言って差し出してくる革ベルト。


「い、一応聞いておきますけど、これってなんですか?」

「はい? おかしなことを聞きますね。メイドといったらこれじゃないですか。く・び・わ♪」


 本当に楽しそうににこにこ笑っているお姉さんだったけど。


「こんなもんつけられるかぁぁ!」


 僕は容赦なく、受け取った首輪を絨毯の上に叩き付けていた。


 ……ていうか、何この人。

 メイド云々関係なく、首輪付けさせて喜ぶ系の人だったりするの?


 僕はおかしな震えに襲われながらも、今後の生活に一抹の不安を覚えるのだった。



 そして更に、このときの僕はまだ知る由もなかったのである。

 お姉さんが言った、いろいろとお世話するという意味の本当の恐ろしさを……。




~~ * ~~ * ~~


ここまでお読みくださりありがとうございます。

一応、本編部分はここまででいったん終わりです。


このあとは、文字数が許されるだけ、エクストラエピソードとして、いくつかシチュエーションラブコメを公開していく予定でいます。

あくまでも予定ですが。


この二人が今後どんな生活をしていくのか。

そのエピソードを見て、いろんな妄想を膨らませてください(笑


なお、このあとがき部分は完結表示を付けたときに、後日削除いたします。



~~ * ~~ * ~~


《おまけ》予定エピ一覧(順不同)


(カクコン期間中、時間があるときに追記していきます。気長にお付き合いください)


○ミニスカサンタは引退したい

○仏教徒にメリクリいらんよね?

 ていうか、何気に飯テロな気がする

○風呂う侵入で逮捕する

○陰キャの家に、クラスメイトの女子が遊びに来たんだが?

○荒縄……いやぁぁぁ

○膝枕しろって、あなたメイドですよね?

○ドエロコスプレなんかしないでください

○僕を抱き枕にしないでください

○なぜ、僕を巡って修羅場になる?


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突然やってきたドMで天然な美人女子大生と同棲することになりました ~ていうか、花嫁修業と称して変な要求ばかりしないでください 鳴神衣織 @szk_siroo

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