第2話
「え~っと……すいません。家を間違えてませんか?」
見るからに怪しい女性だった。
僕は決して鍵は開けまいと、この家の門を死守することに決めた――のだが、
『間違ってませんっ。ここ、雄馬くんのおうちですよね? 私、ここに行けって雄馬くんのお母さんに命令されてやってきたんです~! ですから開けてくださいぃ。ホンっト~にっ。寒いので早く!』
寒いんだったらそんな格好するなよとツッコミ入れたかったけど、今突っ込むべきところはそこではない。
「今、母さんって言ったのか? いったいどういうことなんだ? どうしてあなたに母さんが命令するんだよ」
『その辺も含めてちゃんとご説明いたしますから、とにかく開けてくださいぃ。今日、ホントに寒いんですってばっ』
「いや、寒いんだったらどうしてそんな薄着してるの!? ていうか、怪しすぎて開けられないでしょ。あなた、僕のこと知ってるみたいだけど、調べれば僕のことすぐわかるだろうし、もしかしたら、母さんが留守にしてることだって簡単に調べられるかもしれないし」
向こうからこっちが見えないことはわかっているけど、思わず睨み付けたくなってしまう。
そんな僕に彼女はじれたのだろう。
『んもぉ~~! 疑いすぎですよっ。ちゃんと証拠もありますし、とにかく入れてくださいっ。早くしないと、大騒ぎしちゃいますよ!』
げっ。
騒ぐとか近所迷惑もいいとこじゃないか。
ていうか、騒いだら警察来て、あの怪しいお姉さんを連れてってくれる?
これってラッキーなんじゃ?
そんなことを考えていたら、カメラ越しのお姉さんが地団駄踏みながら、依頼票なるものを手に持ち、必死になってカメラに映していた。ちなみに免許証まで。
「これ、ホントどうすっかなぁ……」
天井見上げてぼそっと呟いたときだった。
急に電話が鳴った。
こんなときになんだよと思って、受話器を上げたら。
「ちょっと、あんたっ。何してんのよっ。さっさとしずくちゃんを家に入れてあげなさいよ、このバカ息子がっ」
もしもし、という前に、聞きたくもない母さんのガミガミ声が聞こえてきて、危うく鼓膜が破れそうになってしまった。
しかも、
「あ、ちょっと! おいっ。母さんっ」
ツーツーツー。
一方的に言いたいことだけ言って、勝手に切られてしまった。
「おい、ふざけんなよっ。ていうか、しずくちゃんって誰のことだよ!?」
まぁ、うん。なんとなくわかってるけど。
僕はうんざりしながらインターフォンへと向かった。
カメラ越しに映っているお姉さんが、勝ち誇ったような笑みを浮かべてスマホ画面を僕に見せていた。
そこにはこう表示されていた。
『キミちゃん社長』と。
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