突然やってきたドMで天然な美人女子大生と同棲することになりました ~ていうか、花嫁修業と称して変な要求ばかりしないでください

鳴神衣織

第1話

 今年もあとわずかという年の瀬。

 十二月の二十一日。


 僕が通っている高校は晴れて冬休みに突入した。

 そんな矢先のことだった。


「じゃぁ、雄馬。明日から母さん留守にするけど、ちゃんとしっかりご飯食べるのよ?」


 そう言って、アパレル会社を経営している母さんは、朝っぱらから取引先がある大阪へと出かけていった。


 毎年のことだから特に気にしない。いつも長期休みに入るたびに、なぜかあの人は家を空けてふらふら~っと、遠いところに出かけていってしまうのだ。


 まぁ、僕ももう高二だし、その方が気楽でいいんだけどね。

 母子家庭で父親もいないし、正真正銘自由の身。

 神奈川にあるこの一軒家には僕しかいない。


 いやぁ~。ホント気楽でいいね。勉強しろだのいつまで寝てるだのうるさいこと言われずにすむし。


 ホント天国だよ。

 ……まぁ、唯一面倒といえば食事ぐらいだけど。


 一応簡単なものぐらいなら作れるんだけど、料理が趣味ってわけじゃないからね。メチャ凄いのは作れないのだ。


 そんなわけで、一応、冬休み中の二週間分ぐらいの食費+お年玉は置いていってくれたから、基本、コンビニでパン買ったり弁当買ったりお菓子買ったりして、ごろにゃんすることになりそうだ。


「あとは掃除と洗濯かぁ……面倒なんだよねぇ。一応宿題も出てるから勉強もしなくちゃいけないし」


 考えるだけでもうんざりしてくる。


 そんなわけで、面倒なことは後回しにして、毎日のように漫画読んだり、ネトゲやったりオフゲやったりアニメ見たりして、リビングや自室でゴロゴロ三昧の日々を送っていたら、あっという間に家の中がぐちゃぐちゃになってしまった。


「これは……さすがにまずいか……」


 リビングの絨毯の上や、自分の部屋のそこら中に脱ぎ捨てた服が散乱していた。


 ゴミが散らかることこそなかったけど、テーブルの上にはジュースの空き缶やスナック菓子の袋やらで既にものが置けない状態になっていた。


 台所の流しにも洗ってない食器がたまり、ゴミ箱にはコンビニ弁当のトレイがびっしり埋まっていた。


「やばいなぁ……」


 どこかの声優さんみたいな声した母さんの、さびを含んだガミガミ声が聞こえてきそうだった。


 思わずそれを想像してしまい、身体をぶるっと震わせたときだった。


 ピンポ~~ン。


 時刻は朝の九時。

 冬休み入って四日目の朝。つまり二十四日。クリスマスイブ。


 世間の陽キャどもがヒャッハ~浮かれまくっている日でもあり、引きこもり陰キャで仏教徒な僕にはまったく関係ない日でもある。


 そんな日の朝早くに来訪を告げるチャイムが鳴り、誰かがやってきた。


「ん? 誰だ? こんな朝早くから」


 ていうか、二週間の引きこもり生活に突入したんだから、誰も来ないで欲しいんだけど。


 そう思いながらも僕はインターフォンの液晶ディスプレイを覗き込んで小首を傾げてしまった。


『あの~……すいません。私、榊という者なのですけれど、少しお時間よろしいでしょうかぁ?』


 どこか間延びしたような、その辺の女の子よりもワントーン高い、やんわりとした声でそう訴えてきた女性。


 カメラ越しに顔がアップになっているその美人お姉さんはうふっと笑った。



 ミニスカサンタみたいな格好をして……。

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