第14話
子供の霊は本当に可哀そうだ。
自分たちの様に大人であれば、ある日突然死んだとしても、その事を理解して成仏も出来るであろう。
こう言っては語弊があるかも知れないが、成仏出来ない霊たちは自分自身が招いた結果である、自分はそう思って居る。
他人の声に耳を傾けず、頑固に自分の考えを曲げようとはしないのだ、そのことで自分自身が辛いのにである。
正雄もつい最近までは死んだら無になるだけだと思って居たのだ。
しかし魂は滅しないのである。
永遠に続くのだ、成仏がどう言うものかは分らないが、魂が浄化しても永遠に続くのだと思う。
成仏、浄化もせずに永遠にこの世を彷徨う魂もあるだろうが、それは自分で選んだ事なので仕方なく思って居る。
しかし本当に可哀そうなのは子供である。
特に三歳とか四歳位の子供の霊に何の罪があるのだろうか。
分らないのだ、いや、知らないのだ。
成仏して魂が浄化するなど、きっと永遠に気付きもしないだろう。
子供の霊をたまに観るのだけど、自分が霊魂に成っている事も気付かないで泣きながら母親を探して居る姿をよく観るのだが、心が張り裂けそうな気持になってしまう。
橘姫や田島であれば成仏させてあげられるのだろうが、正雄にはまだ方法も分らない。
言葉で説明をするのではなく、直接心に触れるのだと田島は言って居た。
そうすれば気持ちがダイレクトに伝わるから此方の伝えたい事が、全て理解して貰えるらしいのだ。
いくら言葉で説明した所で、相手には半分も伝わらないのだ。
それは人間社会では当り前の事で、言った言わないで喧嘩にもなるし、言葉が足りないで別れてしまうカップルも居るだろう。
心に語れる事はまさに理想形である。
正雄にはまだそれは出来ない。
この先出来る様になるのかどうかも分らない、出来る様になるのだろうか。
ただ観えるだけである。
話も出来るが、ただそれだけである。
ほとんどの場合、伝えて来るばかりで、此方の言う事は聴きもしない。
会話にならないのだ。
最近、正雄はこの自分の能力が嫌で耐えられなくなって来ていた。
子供の霊を観てからそんな気持になったのかも知れない。
なんの罪もない子供の霊は可哀そうだ。
一度田島に相談してみた事があるが、返って来た言葉は「キリがないよ」だった。
田島の様にもっとドライに考えた方が良いのだろうか。
人がこんな気持ちになって居るのに、隣にはババァが座って居る。
口も利かない。
子供は可哀そうだと思うが、ババァの事は可哀そうだとは思は無い。
逆に死ねば良いのにと思ってしまう。
実際には死んで居るので、願いは叶っているのだ。
考えると思わず笑ってしまったが、ババァは正雄を気にも留めない。
独りで笑っただけである。
「お前はいったい何がしたいのか」
「クソババァが、死んでしまえ」
言ってまた笑ってしまった。
暫くするとババァは壁に消えて行く。
同じくらいの時間に現れて、いつも同じ時間だけ座り、そして壁に消えて行く。
まるで版で押したように決まっている。
何だろうこのババァは。
後で分った事だが、残像思念と言うらしい。
死んだ後に魂ではなく、思念だけがこの世に残ると言う現象だそうだ。
魂はとっくに浄化しているのだろう、人の思いだけがこの世に何時までも残って居るのだ。
大切な物に思いが残ったりするのもきっとこの現象ではないかと思って居る。
大切にしていた人形に思いが残り、髪が伸びたりするのもこの残像思念が残っているのだ。
残像思念は結構起こる現象らしく、これを観た人は幽霊を見たと思うだろう。
人の念と言う力は底が知れない、怨念は死んだ後魂が念の力に支配され、怨続けるのだ。
佐代子もきっとこの念に支配されて成仏できないので居るのだ。
こんな世界があるはずは…… ちゃんマー @udon490yen
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