自分のことは好きですか?

WaKana

独りにしないで

Side1

 わたしの目に映る世界はいつも独りで、自分がいる意味を、見つけられなかった。


 少し肌寒い十月の昼休み、外で遊ぶクラスメイトを見ながら頬杖をつく。いつもの窓際の席、私は一人ため息を吐いた。

 ふと窓に映る自分が視界に入る。

 私の目は、いつもどこを見ているのだろう。

 何のために起きて、ご飯を食べて、歩いて、できもしない勉強をして、生きて。

 思えば私は、こんな事ばかり考えて生きてきた。 

 考えたってどうにもならないような、こんな

こと。


「なんで、、私だけ」


 記憶に残る小さい頃は、ただ”普通"な筈だった。 

だけど、人は変わってしまう。

 それは仕方がないことで、そんな思い出はただの過去で。

 この先私は、ずっとこんな思いで生きていかないといけないのだろうか。


「あぁ、苦しい。」


 誰か私を見て。少しでいい、私を認めて。

 愛想も悪ければ勉強も、運動も、何か得意なことの一つもない。

 朝起きれば静かなマンションの一室に私一人。

 学校に行けばただ勉強をして帰る繰り返し。

 誰にも求められない、そんなこの人生が、私にはどうしても辛い。こんな人生、大嫌いだ。


 クラスメイトの笑いあう声が聞こえてくる教室が嫌で、私は席を立つ。

 私の足は無意識にいつもの屋上へと向かう。

 重い扉を開けると、少し湿気のある生暖かい風が私の長い黒髪を揺らした。

 暗い空、静かな屋上、まるで賑やかな世界から私だけ置いていかれたみたいだ。

 柵に寄りかかり、空を見上げながら目を閉じた。

  

 神様は不平等だ。

人に話しかける勇気はない。でも独りは嫌だ。

 どうして私をこんな風に作ったの?

 どうしてみんなと違うの?

 誰でもいい。赤子でも、おばあちゃんでも、男でも、女でも、誰でもいいから、


「私を一人にしないで。」


 そう呟いた瞬間、何かが壊れる音が響く。


「え?」


 私の体が前のめりになる。

 私の髪がふわりと浮く。

 横から、柵の金具が落ちてくる。視界が遠く離れた地面を捉えた。 


『死ぬ』


 初めてそう感じた。

 頭に浮かんだのは、遠い記憶の中の両親だけ。

 遠かった地面は次第に近くなる。何を思う間もなく、私は意識を失った。




 暗い世界で、私は目を覚ます。

 何も見えない、聞こえない、感じることができない。そんな空間に、一つの画面が浮かび上がる。


『自分のことは好きですか?』


 手元にはYESかNOの選択肢。

 気づけば私は、NOへと手を伸ばしていた。




 目が覚めると、初めに聞こえたのは機械の音だった。白く、狭い空間。

 動くことができない私は周りを見渡す。

 すると、小さく空気が抜ける音がして視界が開

いた。

 重い体を起こすと、見えてくる知らない世界。

 体を動かすと感じる微かな違和感。

その、正体は一体?


「やったぞ、ついに!ついにだ!やっと成功した!」


 聞こえてくる男の人の声。

 私はびくりと驚き、視線を上げる。

 ガラス張りの大きな部屋。そのガラスに映った

私は、、、


「誰?」


 色の白い美少女だった。


「素晴らしい完成度。私はやっとクローンを作ることに成功した!」


 は、、?クローン?私が?

 理由がわからず周りを見る。

 隣には、私が入っていたものと同じカプセルが開いていた。

 瞬間、私の目に信じられないものが写る。

 そこに眠っていたのは、今の私とそっくりな一人の少女だった。



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