私の知らない誰かの世界
Side1
私の知らない誰かの世界は光り輝いていた。
自分をクローンだと認識した瞬間、私の脳に彼女の記憶が流れ込んでくる。独りじゃない、人に溢れた世界。
私が思い描いていた人生そのものだった。
世界にはこんな人もいるのかと、今までの自分を思い出す。
こんなにも恵まれた人のクローンになれるなんて、今までの悩みがバカみたいだ。
褒めてくれる周りの大人、駆け寄ってくれる学校の友達、テストを返されるたびに見る高得点数々。
頭へ流れてくるすべての記憶が輝いて見える。
そんな莫大な記憶を感じながら、私の意識は薄れていった。
次に目が覚めた時、私は記憶で見た少女の部屋にいた。
私の足は、自然と記憶の通りにリビングへと向
かう。
「おはよう」
聞こえてくる両親の優しい声。
温かい朝食。
くしでとけば引っ掛かりもしない綺麗な髪。
整った顔。
目に映るすべてが私のワクワクを大きくさせる。
私はこれから、私じゃない誰かとして生きてゆくんだ。
あぁ、楽しみで仕方がない。
やっと私は孤独ではなくなる。
学校につくと、周りから声をかけられる。
「おはよ!今日さ~、――、―!」
「先週のテストもよく頑張ったな」
「昨日のドラマ見たー?」
私は無意識に愛想の良い笑顔で明るく返事を返す。
昔の自分に、こんな事が出来たなら、、自分からの変化を感じながら、時間は流れるように進んでいった。
ある授業中、隣の子の机から一つの消しゴムが落ちた。それを、私は拾った。
するとその子が笑顔で、
「ありがとう」
そう言ってくれた。ただそれだけ。
みんなが当たり前にしていること。
漫画やアニメにも出てくるような、そんなこと。
"そんなこと"
でも私は、自分がその行動をとれたことに驚
いた。
前まではただ一人が怖いと同時に、周りが怖かった。周りに嫌われることがとても怖かった。
でもいざ自分から関わってみれば、想像とは全然違って。
きっと今までも優しかった周りが、その優しさを知ろうとしなかった周りが、温かく見える。
私を、受け入れてくれるように。
あぁ、一つ勇気を出せば私の世界も少しは変わっていたのかな。そんな思いまで出てきて。
私にとって初めてのことばかり。
ただ楽しみ、気づけば外は赤く光っていた。
夜、私は眠りにつく。
その夢の中で、見覚えのある一つの画面を見た。
『自分のことは好きですか?』
手元にはYESとNO。私は無意識に感じ取る。
ここでの自分は、きっとこの少女のクローンとしての自分だ。
NOを押せばきっと彼女は目を覚まし、私はいつもの孤独な自分に戻るのだろう。
つまり私は、この選択肢一つで病気で倒れた彼女を助けることができる。
でも、今の私にそんなことをするほどの善意なんて持っていない。
こんな素晴らしい新たな世界を手放すわけが
ない。
私はYESへと手を伸ばす。
私は今日から、自分ではない誰かとして生きていく。
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