独りにして

Side2

 私は、生まれた時から恵まれていた。

 明るく真面目な性格、勉強、運動、歌や絵なども特に難しいと感じることはなかった。


 人が好きだと感じたのは、幼い幼稚園の頃。

 私がある女の子を助けた時のことだ。

 当たり前のことをした。この子を助けることができるなら、自分がけがをしたっていいと思った。

 それが、私の当たり前だった。

 そんなことでも皆は笑顔で感謝をくれる。次の日から私に声をかけてくれる。

私の周りは、そんな子ばかりだった。

 きっと私だけが偉かったわけじゃない。

 そんなことに感謝できる周りの子もいい子ばかりだったのだろう。

 そんなことで周りが私を見てくれるなら、私は幾らでもやろうと思えた。


 学校に通い始めれば私の周りには多くの人が集まってくる。私の生活は、人から見られることが当たり前になっていた。

 他人がついてきてくれることは私にとって嬉しかった。

 人が私を見てくれることも、苦にはならなかった。

 この日常が、私は大好きだった。

、、、だけど、そんな幸せは壊れてしまう。

 中学一年生の夏、友達から見せられた一人のギタリストに、私は心を奪われた。

 あるバンドに所属する一人のギタリスト。

 その音の大きさも、普段聞くことがないようなその曲も、その音色も。目に映ったすべてが初めて見るものばかり。

 ただ自由なその世界に、私の興味は惹きつけら

れた。

 が、周りは違った。

周りから見る私は、成績優秀、才色兼備で真面目な期待の優等生。

バンドやギターに興味を持つことは望まれていなかった。

 その日から私に向けられる周りの目は、私を縛る呪いのように、重く、暗いものになっていく。


 家で聞くロックは魅力にあふれている。

 触ることすらできないギターのコードは私の頭に刻まれていく。

 知れば知るほど、私のギターに対する憧れは深くなってゆく。


"ギターが好きだ"


 その一言を言うことすら私にはできない。

 きっと受け入れてくれる人は山程いるだろう。

 それでも、たった誰か一人にさえ否定されてしまうことが、私にはどうしても怖い。


『そんなこと』


 自分でもそう思う。

 あぁ、人が好きだと感じられない。周りの目が鬱陶しい。

そんな周りの目は、私の過去の思い出や思いを消し去ってゆく。

 もう私から自由を奪わないで。

 私を見ないで。

 期待しないで。

 もういっそ、


「独りになりたい」


――ドクン――


 そう呟いたとき、私の心臓が大きく音を上げた。 

 息苦しい。頭が痛い。視界がぼやける。周りの声が、、聞こえなくなる。

 私の視界は、暗く落ちていった。




 目が覚めると、そこは真っ暗な世界だった。

 周りは黒一色。ここはどこだろうと周りを見渡していると、一つの画面が浮かび上がった。


『自分のことは好きですか?』


 手元にはYESとNOの選択肢。私は少し考えた。

 自分のことは嫌いじゃない。でも、周りから見られる本当を隠した自分は、大嫌いだ。

 私はNOへ手を伸ばした。




 機械の音で目が覚める。

そこは狭い、真っ白な空間だった。

身動きが取れない、カプセルのような空間。

 私は此処がどこなのか、何が起きているのか理解できず、動けない体を必死に動かそうとする。

 すると、それに反応したように、そのカプセルは小さな音とともに開き出した。同時に、聞こえてくる大きな声。


「やったぞ、ついに!ついにだ!やっと成功した!」


 男の人の声が頭に響いた。

 ふと視界にきれいな長い黒髪が映る。

私は自然と顔を上げた。

 ガラス張りの部屋の中。そのガラスに写った私は、知らない黒髪の少女だった。


「素晴らしい完成度だ。私はやっとクローンを作ることに成功した!」


 耳に入ってきたクローンという言葉。

理解できなかった。

 私はクローンになった?一体誰の?

 ふと横を見ると、そこに眠っていたのは、今の私とそっくりな黒髪の少女だった。

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