第4話
「返しなさい! そして、離れなさい! 二度と会わせないわ!」
大声で怒鳴りまくるので、どうしようかと思った。
……まぁ、たまに構っているだけだったので、お嬢様の持ち物だとは知らなかったよ。
というか、どこで飼ってたの?
使用人たちも呆気にとられている。
だって、当主様が『私が飼うので、見かけても追い払うな』って、そう言ったのに。
その娘さんが、私のものだって宣言しても……。
奥様が飛んできた。
「お母様! アレは、私のものです! 取り返してください!」
「落ち着きなさい! どういうことなの!?」
奥様はなだめるが、私のものだ返せの一点張り。
「……内緒で飼っていたとかですか?」
それで、抜け出してきたから出会った当初はあんなに汚かったのか?
私が尋ねたら……おっと、睨まれた。
「盗人!」
カッチーン!
――面と向かって言ってきたな。
今までは陰口や告げ口で、直接私に言ってこなかったので言い返せなかったけど、ようし、受けて立ってやろうじゃないのさ!
「セラフを飼え、って命令したのはアンタの父親だよ! なら、父親に盗人って言いなよ!」
私が反撃してきたのに驚いたらしく、ケイラお嬢様は目を見開いて固まった。
私は追撃をかます。
「そもそも、飼ってたなら周りに言っときなよ! どうせ、どっかに閉じ込めてたんでしょ!? このコと会ったとき、どうりでみずぼらしかったワケだ……! 飼うなら、ちゃんと責任もって飼え!」
ガンガン言い返していたら、ケイラお嬢様は真っ赤になって目を吊り上げた。
「勝手に決めつけないでよ! 内緒で飼ってなんかいないわよ!」
「周りが知らなかった、ってことは、内緒で飼ってるのと同義なんだよ!」
「同義じゃないわ!」
不毛な言い合いは、奥様に止められた。
「静まりなさい!」
私はこの時点で、もう屋敷を出ようと思っていた。
やっぱり冒険者になろう。
当主様にいろいろ聞いておいてよかったー。
奥様は、ケイラお嬢様に尋ねる。
「もう一度、貴女が説明しなさい」
「だから、それは私のもので――」
「そんなことは聞いていません。貴女がその獣とどうやって出会い、どこで飼っていたのかを説明しなさいと言っているのです!」
奥様が厳しく尋ねると、ケイラお嬢様はそれ以上言わずに唇を嚙んだ。
その様子に眉根を寄せた奥様は、さらに追及する。
「説明しなさい、と言っているのが聞こえませんでしたか? 貴女のものだと主張し、リリスを盗人呼ばわりするのなら、話しなさい!」
ケイラお嬢様は、うつむいてしまった。
「…………本当に、私のものなんです」
ボソボソと言うが、説明はない。
奥様はイライラした様子で再度同じ事を言う。
「説明しなさい。……三回目ですよ。次に同じ言葉を言わせたら、貴女の話は聞かず、問答無用でリリスに謝罪させます」
ケイラお嬢様が顔を上げて叫んだ。
「そんな!」
……だけど、それ以上言わないのよねー。
「ケイラ。もう一度、言わせたいのですか?」
「…………」
ケイラお嬢様は、再びうつむく。
「ケイラ。説明――」
「夢で見たのです! その子は、私のものだった! なのに、なぜあの子が従えているのですか!?」
奥様が最後通告しようとしたとき、ケイラお嬢様が叫んだ。
「「夢」」
私は奥様と声を揃えてしまった。
……冗談でしょ? え、本気で言ってる?
「……え? 夢で飼ってたから、それを現実で私が飼いだしたから、私を盗人呼ばわりしたの? は?」
私が低い声で唸ったら、ケイラお嬢様は睨んできた……が、
「ふざけんな!!!」
と、思いきり怒鳴ったらビクッとした。
「今まで私を陰で盗人扱いしてきたのも、全部!! 妄想じゃねーのかよ!! やってもねーことを言いがかりつけて人を犯罪者扱いするほうが、よっぽど犯罪者じゃねーか!!」
ブチ切れて怒鳴りまくった。
「あー! もーやだ! こんなのと一緒にいたくない! 我慢の限界だよ、ここから出てく!」
ガチギレし、家出宣言した。
お嬢様は私の剣幕に恐れを成して泣き出し、私は知ったことかと憤然と玄関へ向かおうとしたが、使用人たちに止められた。
とにかく落ち着けと、厨房に追いやられる。
「夢!? 言うに事欠いて、夢とか言いだしたよ! 飼ってねーじゃん!」
「落ち着け」
ダンさんが私に水を出しながらなだめる。
プンスカ怒っていたら、ママンが慌てた様子で厨房にやってきた。
「リリス! どうしてお嬢様に暴言を吐いたりしたの!」
「盗人扱いされたからだよ!」
ママンはぐっと詰まった。
「……それでも、我慢しないと。私たちは平民で使用人――」
「だから、ここを出る! 冒険者になる! 私の魔法なら、ここより冒険者になったほうがよっぽど役立つもん! もうやだ、あんなのと一緒にいて、始終睨まれて、挙げ句やってもいない犯罪を捏造されて、もう限界だよ! 別にここにいたくているわけじゃない!」
ママンの声を遮って怒鳴った。
すると、ママンが泣き出す。
「……ママン。私に泣き落としは効かないからね。泣いても、私は我慢しないから。そういう性格だから」
たぶん、父親似。
するとママンは泣きやんだ。
そして、ちょっと笑う。
「……旦那様も、そういうところがあるわね」
……やっぱり父親似らしい。
ママンが涙を流しながらも優しい顔で私の髪を撫でる。
「口が悪いところも旦那様に似て……。接点はないのに、血は争えないわね」
ごめん、ママン。
接点はあるんだ、そして、口調は伝染ったかもしんない。
「……わかったわ。ママンはリリスの意見を尊重するから。でも、早まらないで、旦那様が帰ってきてからにしましょう?」
そう。
元はといえば、当主様が悪い!
次の更新予定
聖属性の魔法使いの私、ドアマットヒロインと悪役令嬢から難癖つけられるけど知ったことかと我が道をゆく サエトミユウ @shonobu
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