第3話

 当主様がいないので自主練をしていたとき、ガサガサと音がした。

 ……私は杖を構えて油断なくそちらを見ると、ニュッと出てきたのは……。

「デッ……ッカ!」

 デカい猫だった。


 猫はキョトンとしている。

 デッカいが、どうやら子猫のモヨウ。

 虎とか豹の可能性は……ないな。顔が猫だもの。

「ヤマネコって、確かデカかったよな~」


 デッカい子猫は、私に近づきフンフンと匂いを嗅ぐ。

 おい、臭くはないはずだぞ。

 私の得意魔法、『聖浄』で、風呂に入れずともクリーンなんだからな!


 デッカい子猫は、私の手のひらにぐいぐい顔をこすりつける。

「んんん? ナニ?」

 何かしてほしいようだが……。

 もしかして痒いのか?


「『聖浄』」

 かけてあげたら、ピカッと光った。

「眩しッ!」


 薄目を開けたら、デッカい子猫が光っている。

 だんだんと光が落ち着き……。

 まだらに灰色だった猫は、真っ白い毛並みになっていた。


 デッカい子猫は、満足したように去っていった。


「なんじゃ、ありゃ?」

 痒かったのか?

 痒くて、私が聖浄の魔法をかけられるのを知って、近づいてきたのか?

 謎だ。


 ――以来、誰もいないときにちょくちょくとデッカい子猫が現れる。

 ハイハイ、お風呂要員ですね。わかってますよ。

「『聖浄』」


 最初はすぐに去っていったけど、いつの間にやらずっといるようになった。

 練習をしていると、杖にじゃれついたりする。

「コラッ! 遊んでるんじゃない! これは、稽古!」

 怒るがやめない。

 杖をブンブン振り回し、子猫もエキサイトしてじゃれつく。

 ちょっとした戦いになってしまっていた。


「ヒー……ハー……。疲れた~」

 子猫は満足したように去っていったし。

 次は、猫のおもちゃでも作って放り投げておこうかな?


 その後もデッカい子猫は現れる。

 魔法をかけた後、じゃれてくるのだ。

 それが終わった後、ドテッと近くに座って眠ったりする。私が練習を終えて撫でるとゴロゴロ言い出す。

 基本、魔法で綺麗にしたあと遊んでいるだけなのだが、なんか、懐いてくれているよね。


「セラフ、よーしよし」

 とにかく眩しい白さなので、天使っぽい名前をつけてみたら気に入ったらしく、最近ではいなくても呼ぶと現れる。

「美猫なったね~」

 出会ったときはまだらに灰色で、あちこちの毛が固まっていてゴワゴワしている、いかにも野良猫って感じだったんだけど、『聖浄』をかけまくっていたらサラツヤの真っ白い毛並みになった。瞳の色も澄んだ水色だしね。

「うん、肉球も柔らかい。爪は切らなくて大丈夫? 出来るだけ爪とぎして、古い爪を剥がすんだよ。あと……」

「……おい、何やってんだ!?」


 あ。


 セラフと戯れていたら、とうとう当主様に見つかってしまった。


「大丈夫なのか!?」

「大丈夫です。飼い慣らし……たワケじゃないんですけど、懐いています。まだ子猫みたいですし」


 当主様に心配された。

 元冒険者としては、大きな動物は殺処分したくなるんでしょうが、特に悪さもしていないようなのでやめてください。


 当主様に説明した。

 当主様がいないときに現れて、痒そうにしていたので『聖浄』をかけたら気に入ったらしく、以来、時々現れてねだられると。

 それで懐かれたようで、あと子猫だからじゃれてくるので遊んでいた……と。


 当主様は、頭をボリボリとかいた。

「……つーか、その白さはその『聖浄』って魔法でなのか?」

「そうです。かけたては、もっと白くなりますよ。『聖浄』」

 私は目を閉じながらかけた。


 ピカーッ!


「うぉおおお! 目が! 目がぁあ!」

 当主様が、お約束をやっていらっしゃる。

「……と、まぁ、こんな感じに光り輝きまして」

「異常だろ! なんで光るんだよ!?」

「さぁ……」

 としか言えない。


 目が落ち着いたらしい当主様が、私を半目で見つつ言った。

「……俺の予想としちゃ、ソイツを野放しにしちゃいけねーな」

 って言い出すのでビクッとした。

 とたんに、セラフが警戒をした顔で当主様を睨む。

「待て待て。違う。お前が飼え、って言ってんだよ」

 ……え。飼う?

 キョトンとしてしまった。


 当主様曰く、セラフは普通の動物ではない気がするのと、私が飼ったほうがいい気がするとのこと。

「幼獣だから、今から飼ってれば躾なんかも楽だろ」

 と、気楽に言ってます。

 私としては、今みたいに時々構うだけでいいんだけど……。

「お前、構うんだったら、ちゃんと責任を持てよ」

 と、先回りして言われてしまった。


 しかたなく、連れていく。

「ママン。この子、私に懐いちゃって、当主様が責任を取って飼えって」

「えええ!?」

 そりゃあ、驚くだろうね。


 セラフは、意外と人懐っこくてあっちこっちでかわいがられた。

 ちょっとしたお手伝いも出来るらしい。

 当主様も、みんなにお達ししたので全員知ってるはず……と思って油断したら事件が起きた。


 当主様、なぜかケイラお嬢様にだけは言わなかったのだ。

 なぜ、そこを抜かす!?

 一番言わなきゃダメじゃんかよ!?


 よって、知らなかったお嬢様が、私がセラフを連れて歩いているのを見て悲鳴をあげた。

 さらには。

「それは、私のものよ!」

 って言いだしたのだった……。

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