第2話

 シーン、とした雰囲気の中、朝食を黙々と食べる。


 おいしいけど、おいしくない。

 マナーの勉強だからしかたがないけど意識して食べないといけないし、お嬢様は事あるごとに私を睨んでくるし、気詰まりな空気だし、食事の時間はホンットつらいわ。

 ダンさんに言って「量を半分にしてくれ」と頼んでいるのは、食欲が失せるから。

 昼食は免除されているので、昼食をモリモリ食べるのである!


「リリスは結構です。今日もちゃんと出来ましたね。ケイラは、いつも言っていますが気を散らしすぎです。周りを見るな、とは言いませんが、リリスに気を取られて手元がおそろかになっていることがよくありますよ。自分の手元に集中しなさい」

「……分かりました。お母様」


 ケイラお嬢様は、いっつも同じ事を言われて怒られるのに、それでも私を睨むことはやめない。ある意味、根性があるね。

 いや、聞き流しているのかもしれない。


 食事が終わり、勉強の時間になった。

 ところで、『離して勉強』ってさ……部屋を変えるとかじゃないんですかね?

 同じ部屋で、違う方向を向いて……って、離れてませんよね??


 家庭教師も胃が痛いだろうなーと思うほどに苦痛の授業時間だ。

 家庭教師がちょっとでも私を褒めると、もう大変。

「……お二人とも優秀ですね。もうこの課題をこなし――」

「は?」

 ものすごい、合いの手を入れて遮る。

「今、なんて言いました?」

 家庭教師はしまった、という顔をして、

「ケイラお嬢様は、非常に優秀ですね。次の課題にいきましょうか」

 サッと言い直す。

 こんなことがしょっちゅうだ。大変に、めんどう。


 一緒にいたくないので課題をさっさと終わらせると、

「終わりましたー」

 と、宣言し部屋を出て、裏庭へ行く。

 途中離席はホントはしちゃいけないんだろうけど、お嬢様は一緒にいたくないだろうし家庭教師も私が一緒にいるとやりづらいだろうから引き止めない。


 ……そういえば、いまだにお嬢様は私が物を盗んでるって言いつけてるみたいなんだよねー。

 うっかり信じちゃったメイドのおばちゃんが私に諭してきたことがあり、

「その件は奥様に一任していますので、奥様に言いつけてください。私は、何があっても無視しろと奥様から言われておりますので」

 と、スンとした顔で言ったら以降は言われなくなったけど……ホントめんどい!!


「はぁ、しんどい。こんなんなら魔法が使えるのを隠し通せばよかったよ。いいことなんて一つもないじゃん」

 裏庭の片隅に座り込み一人愚痴っていたら、

「……悪いことをしたと思ってるよ」

 と、謝られた。

 驚いて声のほうを見たら、当主様が困った顔で私を見ていた。


 うへぇ……。

 聞かれていたか。


「当主様におかれましては、ご機嫌麗しく……」

 適当な挨拶をもにょもにょ唱えていたら、当主様が笑って私の頭を撫でた。

「父親にそういうのはやめろって」


 あ、父親の意識はあったんだ。


 当主様は、ここで鍛錬しているそうだ。

「腕が鈍るからな。……これでも昔は、超有名な冒険者だったんだぜ?」

 と、言ったので驚いた。

「冒険者!?」

 なんという心に響くキーワード!


 私の表情を見た当主様がまた笑う。

「お、目がキラキラしているな。……冒険者、興味あるか?」

 私はブンブンうなずく。

 私のなりたい職業ナンバーワンだよ!

 たった今、そんな職業があるのを知ったけど!


 以来、当主様の武勇伝を語ってもらえるようになった。

 お嬢様に見つかると大変にめんどうなので、ここでだ。

 奥様に見つかってもめんどうらしい。


「俺は、男爵家の五男坊でな。……ま、五男坊なんていないも同然の扱いだったから、そうそうに家を飛び出したんだ」

 学園へ行く前にスピンアウトし、あちこちをめぐって旅をしながら冒険者をやっていたらしい。


 ……デジャヴ。

 なんか、そんな夢を語っていた子がいましたねぇ……ココに!!

「……血が成せる業だったのか……!」

 カルマだわ。呪いだわ。


 当主様が笑った。

「お前もそうなのか! そっか! 冒険者はいいぞー。自己責任だが、自由だ! いろいろ失敗したが、それもまた楽しかったしな!」

「煽らないでください!」

 冒険者になりたくなるじゃん!

「悪い悪い」

 当主様は笑うと、私の頭をくちゃくちゃにするように撫でる。

「よし、勉強は家庭教師、マナーは妻に任せているし、俺は剣と魔法を見てやることにするか」


 えっ、マジ!?

 そう言いだした当主様を驚いて見つめた。


 ……というわけで、当主様の手の空いているときに魔法と戦い方の稽古をつけてもらっている。

 子どもだし、魔法を使うのなら棒術のほうがいいだろうと、杖での戦い方を教わっているのだ。


 ここでようやく、当主様のモテ要素が理解出来た。

 女好きではあるけれど、その前に当主様はモテるのだ。

 ママンも、たぶんに当主様に惚れている。


 どうしてこんな女にだらしのない男を!?


 ……って思ってたけど、イケメンで気さくで朗らか、面倒見はいいし、何しろ強い。

 当主様の現役時代は剣メインだったらしいんだけど、剣以外も使える。しかも、「棒術は苦手」とかいいながら全然苦手には見えない!

 魔法も、低級ながら全属性使えるとか……ナニこの勇者サマは!?


「低級は、訓練しだいでまんべんなく使えるぞ。お前も今から鍛えておけば、低級くらいなら全属性使えるようになるぞ?」

「頑張ります!」


 うっひょー!

 滾るわ!


 ――ということで、メイド手伝い、厨房手伝い、学習とマナー教育、魔法と戦い方の稽古という、お前はどこを目指しているのだという感じでいろいろと教わって、日々を過ごし、さらに二年が経ったのである。

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