聖属性の魔法使いの私、ドアマットヒロインと悪役令嬢から難癖つけられるけど知ったことかと我が道をゆく
サエトミユウ
1章 聖属性の魔法使い、貴族令嬢になる!
第1話
私は幼いころから冒険譚が大好きだった。
旅をして、時に危険、時に大笑いするような体験をして、時に出会い、時に別れ……ついに旅は終わり、少年は大人になり、でもきっと冒険したことは忘れない。
そんなワクワクハラハラ冒険譚を……。
ムニャムニャ。
「夢だったか」
みなさんおはよう!
私はリリス。
冒険者に憧れる七歳だよ!
ちなみにママンは、男爵家のメイドである。
「……ママンはもうお仕事か……」
メイドの朝はとっても早い。
朝っていうか、まだ夜中のうちから働きだすのだ。
私も起きて着替えて、手伝いに行く。
「おはよーございまーす」
「あら、おはよう。リリスは一人で朝早くから起きられて偉いわね。ウチの子なんて、放っておいたらずっと寝ていたわよ」
メイドのおばちゃんが頭を撫でてくれた。
いつも褒めてくれるのがありがたい。
「じゃあ、お掃除いってきまーす」
私はエントランスのお掃除担当。
エントランスに行くと、仁王立ちし、こう言う。
「『聖浄』」
とたんに、パァア……っと綺麗になる。
すみずみまでぺっかぺかである!
そう……私は、聖属性の魔法が使えるのだった!
目覚めたのは、高熱が出たとき。
私は前世の記憶と共に、魔法に目覚めたのだ。
というか、恐らく死ぬような状況下において、前世の知識……読んだ物語がよぎったんだろうね。「魔法で治ればいいのに!」とか願ったんじゃないかと。
そして、願いは叶った。
私は見事! 魔法を使えるようになったのである!
とはいえ、当初は判らなかった。
判ったのは転んだとき。
膝小僧をすりむいたので「痛いの痛いの飛んで行け~」と唱えたら傷が消えた。
あっはっは。とんでもない詠唱だよ。
というか、詠唱は魔法を使うスイッチなので、すごい人は無詠唱で使える。あ、間違えた、すごい人じゃなくても感覚的な人は使える。
私は、短縮詠唱。
無詠唱でもいける気はするんだけど、言ったほうが絶対にカッコいいので詠唱する!
属性が判ったのは、傷を治す魔法って聖属性以外にはないからだそうだ。
私はもちろん知らなかったけど、奥様がそう言ってた。
聖属性って言葉だけ聞くと何やら凄そうなんだけど、実際に一番使うのってさっき使った『聖浄』の魔法なんだよねー。
……掃除に使ってるんだけど。
聖属性というわりに、ずいぶん生活に密着した感じだなと……。
さて。
魔法ブッパで掃除を完了させると、次は厨房へ。
「おはよーございまーす」
「おう。おはようさん」
料理人のダンさんにあいさつして、下ごしらえのお手伝い。
まだ幼女なのでたいした手伝いはできないけど、お芋をむいたり豆をさやから取ったりすることはできる。
「おいも、むけたよー」
「ごくろうさん」
次はお豆さんをぷちぷちむく。
「おっちゃん、今日のメニューは?」
「ポテトのポタージュ、オムレツ、豆とフルーツのサラダだな」
「定番だね!」
そう言うとダンさんが笑う。
ダンさんとは、食いしんぼう仲間である!
他所の貴族の使用人の賄いは、あまりいいものが出ないそうだ。
ここ男爵家は、賄いが豪華で有名らしい。その代わり他に問題があるのだけれどね……。
以前、厨房に忍び込んでそっとプリンを作っていたとき、バレてこっぴどく叱られたんだけど、作ったものは評価された。
「一人じゃ危ねぇ。次からは俺もついてやる」
と言ってくれて、以来、ついて手伝ってくれたりする。
当主様も夫人もおいしいものが好きなので、私が出入りすることで味が良くなったと喜んでくれている。
アレなのよ、前世チートを使った(ちょっとした)改変!
前世の私は、料理が大好きだった。
体が弱かったけど、作ったり食べに出かけたりしていた。
今世、食事がまずいってワケではないけれど、前世ほど多種多様多国籍な料理ではないのよね……。
基本、バタクリ料理なのでサッパリ系を出したり、ちょーっと味付けが濃いよなって思うので足し算だけではなく引き算を取り入れたり。
ダンさんは私の話をバカにせず、真面目に聞いていろいろ試してくれたのだ!
そして、こうやってお手伝いするまでに至る。
時間が来て、メイドさんたちが料理を食堂へ持っていった。
私も行かねばならない。
「……はぁ。行ってきます……」
「おう。頑張れよ」
ダンさんに励まされながら、厨房をあとにした。
「……みなさま、おはようございます」
ヴァリアント男爵家当主の庶子である私は、現在令嬢教育真っ最中なのである。
*
私の遺伝子的な父親である当主様は、仕事は出来るし剣術もすごいけど、女好きである。
女好きである!
手を出したメイドは数知れず、そのたびに奥様と揉めている。
ママンも手を出された一人である。
しかも、ママンがまだ見習いメイドで可憐な少女だった時にである!
とんだクズ野郎だ。
当主様は、ママンのことがとっても気に入ったようで、赤子をこさえてしまう。
もう、この時の奥様の怒りっぷりはそりゃあもうすごかったと、どこかで聞かされた。
ママンは、もう嫁には行けない体にされたし、男爵家のお手つきになったメイドなんて働き手がないのでどうかメイドとしてここで働かせてくださいと奥様に頼み込み、奥様も折れた。
だって、どう見ても当主様が悪い。
まさか、まだ少女だったママンに手を出して、しかも赤子を産ませるまでいくとは思わなかったのだ。
そうとうしばかれた当主様は、しばらくはおとなしくしていたそう。
奥様に(口と物理と両方で)コテンパンにされ、幼気な少女に手を出したのもあり、反省を見せた。
……数年は保ったみたいだけどまた再発したみたいで、怒り心頭に発した奥様がメイドを全員既婚者子持ち、夫人よりだいぶ年上のおばちゃんにしたそうな。
そして、領民に、
『夫は病気なので、決して女性と二人きりにさせてはいけない、夫に求められた場合、夫人の名前を出し、夫人をまた悲しませるぞ、娘の名前を出し、娘に恥ずかしくないのか、庶子の名前を出し、これ以上庶子を増やすのか、そう諭すように』
と、布告した。
ものすごく恥ずかしい出来事である!
そんな父親を持つ私は、ママンと一緒にメイドをやってた。
ママンは追い出されたら後がないので真面目に働いていたし、私にも問題を起こさないようにと口を酸っぱくして言い聞かせていた。
ママンは私を自分の娘として育てる気だったし、もちろん私もそれが良かった。
私は、大きくなったらこの家から出て旅に出ようと思ってたから。
だって、せっかく傷が治せる魔法が使えるんだよ?
多少のことじゃ死なないってことじゃない?
なら、あちこち行きたい。冒険したい!
もっというなら、世界のおいしいものを食べ歩きしたい!
……なので、お手伝いで小銭を稼ぎ、そこそこの年齢になったらママンに謝って出ていこうと思ってたんだよ。
というか、ママンもここを出ていったほうがいいと思う。
ママンは綺麗なんだから、新しい男なんてすぐ見つかるって!
そんな野望を胸に秘め、お手伝いをしつつ独学で魔法の練習をこなしていたのですが……。
六歳になったとき奥様に呼ばれ、「大きくなってきたので貴族として最低限のマナーを教育する」というお達しがきたのである。
え、なんで?
……って、ママンとポカーンとしましたよ。
「その子が、聖属性の魔法が使えるからです。稀少な属性の魔法を持つ者が旦那様の血筋にいるというのに、そのまま婚外子にしておけません」
どうやら、「痛いの痛いの飛んで行け~」が、バッチリ見られていたモヨウ。
……私は、正式にヴァリアント男爵家の娘として認められ、教育されることになってしまったのだった。
とはいえ、扱いはさほど変わらない。
見習いメイドとして働くすき間に、マナー講座と座学をちょこちょこ受けるという感じ。
聖属性の魔法を使えるのなら、王都ローヤル学園に通わないとダメなんだそうだ。
……うーん。学園かぁ……。
断れない雰囲気なので、行くしかない。
まぁいっか。勉強は嫌いじゃないし。
……と、この時は思っていたのである。
*
それから二年。
正直、私のせいじゃないんだけどなぁー……と言いたくなることがあるのだ。
それは、当主様と奥様の娘であるケイラお嬢様のこと。
もうね、私のことを毛嫌いしているのよ!
奥様に、何度も私たち母娘を追い出すように言っているし、私が一緒にいるのを極端に嫌がる。
……まぁね、自分の父親が別の女とこさえた子どもが妹です、なんて認めたくないでしょうよ。
しかも、生まれが一年違わないという……最低。
だが、嫌うなら父親の所業を嫌え! ……と言いたい。
当主様と奥様から「対外的には、特に人目のあるところでは、『父様、義母様、義姉様』と言うように」と言いつけられているけれど、そんな呼び方をしたらお嬢様にマジギレされるんですけど。
それを当主様と奥様に伝えたら、お嬢様が「私を陥れようとしている」とマジギレしてきた。……私にどうしろと?
「あの、親子三人で話し合ってください。私は、全員が納得したら、そのとおりにします」
と、そう伝えた。
その後、「ケイラも納得しているので呼びなさい」と言われて「義姉様」と呼んだら、ものすごい顔で睨まれ、その後無視された。
……無視はいい。
だけど、一緒にいると睨んでくるし空気悪いし事あるごとに「陥れようとしても無駄だから」って言ってくるしで、辟易している。
陥れようとしているのは、ソッチじゃね?
って思うほど、奥様にやってもいない悪事をいろいろと言いつけているらしい。
奥様に呼び出されて、
「ケイラが、あなたがケイラのブローチをねだった上に奪った、と言っているのだけど」
と言われたときは、「メイドの子に戻してください」とお願いした。
「ケイラお嬢様は、私が気に入らないんです。そりゃあ、母親の違う、しかもメイドの子なんて許せないでしょう。妹なんて思えないでしょうし、一年も違わない私に『義姉様』なんて呼ばれたくないと思います。やってもいないことをやったと言われるほど毛嫌いされているのなら、私、ここからいなくなったほうがいいと思うんです。紹介状を書いていただけるのでしたら、母とともにここを出て行き、違うお貴族様のメイドになります。ご検討のほど、何卒よろしくお願いいたします」
一気にまくしたてて頭を下げたら、ため息をつかれた。
「……それは出来ません。たとえ貴女が旦那様の子でなくとも、その属性の魔法を持つのなら養子縁組みしました。それくらい稀少なんですよ、貴女は。……ケイラには、もう一度よく言い聞かせます。貴女ももう相手にしなくていいわ。ひたすらマナーと勉強をしなさい。家庭教師にも、貴女とケイラは離して勉強させるように伝えておくから、以後はケイラのことを気にしないようにしなさい。いいわね?」
出奔出来なかった。
そして、お嬢様はますます私を睨むようになったのだった。
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