内なる闇と外なる脅威

@Yukikato

第1話

プロローグ



モンスターが地球を襲う前の話。


あれは普通の日だった。


ゲームの音が部屋中に響いていた。テレビの前に座っているのは、9歳の少年、トウカ。その隣では、7歳年下の妹、シナが不満そうな表情でゲームコントローラーを握っていた。


「どうしていつも負けるの!?つまらない!」


シナはフラストレーションを感じながら首を振り、眉をしかめる。


俺は軽く笑って、気楽な表情で言った。


「はは…ただ下手なだけだよ。」


「バカ!」


シナは怒った顔で俺の耳を引っ張り、ゲームコントローラーを放り投げると部屋を出て行った。


「こわっ…」


俺は後ろを振り返り、薄く笑みを浮かべた。



---


その頃、地球の外では、15個の隕石が地球に向かって接近していた。だが、それらはただの岩ではなかった。中にはモンスターが潜んでいたのだ。

彼らの名は――オムニボラックス。



---


夜、俺は窓際に座り、夜空を見上げていた。それは静かな夜だった。月の光がカーテン越しに部屋を照らし、俺の心は遠くへ漂っていく。


「この幸せは永遠に続くのかな…?」


俺の目に映るのは幸せだけだった。母さんはそばにいて、妹のシナも元気だ。不安になる必要なんてない。

すべてが完璧に見えた。


夜空を見つめていると、空を横切る何かが見えた。15本の光の筋。それはまるで流れ星のように、暗い夜を照らしていた。


「うわぁ!」


その光景を見て、俺はふと父さんのことを思い出した。父さんは宇宙研究者だった。しかし、何年も連絡がなく、突然行方不明になったままだ。



...


そして翌日の午後――破滅の始まり


俺と母さん、そしてシナはリビングで一緒に過ごしていた。穏やかな日常が続いていた。


母さんは優しくシナの髪を撫でて微笑む。


「学校はどうだった?疲れたでしょう?」


シナは少し疲れた様子だったが、うなずきながら学校での面白い話を楽しそうに語っていた。


だが――すべてが突然変わった。大地を揺るがす轟音が響き、家全体が震えた。


シナは窓の外を見て、恐怖で震えた声をあげた。


「あ、あれ…!?何が起こってるの!?」


母さんはすぐに立ち上がり、慌てて叫んだ。


「早く!外へ出なさい!」


母さんは俺とシナを後ろに守りながら、裏口へ向かった。


だが裏口にたどり着く前に、外から爆発音が響き、家が大きく揺れた。壁が崩れ、天井が落ち、外から炎が迫ってきた。


その瞬間、大きなモンスターの影が現れた。そしてその咆哮が響き渡った。


「ガアアアアア!!!」


「早く逃げて!」


母さんはシナの手を強く握り、叫んだ。


俺とシナは全速力で走り、裏口へ向かった。しかし、その道も瓦礫と壁に阻まれ、母さんが崩れた瓦礫に押しつぶされてしまった。


「…母さん!」


シナは叫びながら必死で瓦礫をどかそうとする。


「くそっ!」


俺も何とかしようとしたが、瓦礫の量はどんどん増え、ついに俺は母さんとシナから引き離されてしまった。


「…母さん!早く!」


俺は叫んだが、もう遅かった。


その時、エーテル部隊が到着した。彼らはモンスターの注意を引きつけ、逃げる時間を稼いでくれた。


だが、状況はさらに悪化した。

エーテルは母さんとシナを救おうとしたが、モンスターの力に太刀打ちできず、結局彼らもモンスターの犠牲になった。そして建物に押しつぶされてしまった。火はあちこちで燃え盛り、モンスターはさらに凶暴化していった。


最終的に、生き残ったのは俺一人だけだった。

安全な場所から遠くの光景を見た俺は、その破壊を目の当たりにした。

巨大なモンスターが至る所にいて、家々が破壊されていた。


「えっ…みんな死んだのか!?母さん…シナ!?」


俺は震える声でつぶやき、その場に立ち尽くした。

何も言えなかった。ただ、もし俺がもっと強かったら…。

…彼らはまだ生きていたかもしれない。なんで大事な時に役立たずなんだ?なんでだよ!?…くそっ。


その日を境に、俺の世界は永遠に変わった。

すべてが一瞬で崩れ去ったのだ。


――


15年後 - 現在の生活へ戻る


土砂降りの雨が静かな街の歩道を打ちつける中、足音だけが夜の静寂に響いていた。


無表情な顔。感情のない目。


右手に握ったスマホが震え、画面に光が灯る。


「奴らを倒せる者は存在しない…」


画面に映るのは、15年前に家族を奪ったオムニヴォラックスの姿だった。


脳裏に渦巻くのは、ただ一つの強い感情——

復讐。


…15年前、全てが奪われた。家族も、友達も、未来も。

怪物どもによって全てが破壊された。


あの日以来、エーテルに入ることを夢見てきた。

だが、現実は甘くない。

試験に何度も失敗し、夢に近づけないまま、他に選択肢がなかった。


仕方なく選んだ仕事は、低賃金で重労働なものだった。それでも、生きるために必要だった。


スマホを握りしめ、拳を固く握る。


「…正しいか間違いかなんて関係ない。」


「…生き残るために…奴らを倒す。」


その時、俺はまだ知らなかった。

さらなる力を得るためには、何かを犠牲にしなければならないことを。


土砂降りの雨は止むことなく街を打ち続ける。街も、記憶も、俺自身も全てを洗い流すように。濡れた道路の上に立つ俺の身体は、まるで世界を背負わされたかのように重かった。息が浅く、苦しい。


その時だ。また聞こえてきた…あの足音。怪物の足音が近づいてくる。


「…くそっ、またかよ!」


崩壊しかけた建物の瓦礫から、それは姿を現した——小型のオムニヴォラックス。だが、“小型”とは到底呼べない巨大な姿だった。その黒い鱗は雷光を反射し、そこから漂う死の気配を肌で感じる。


「チッ…なんでいつもこうなるんだよ、クソが!」


手が震える。冷たさではなく、恐怖で震えていた。


逃げ道はないと理解していた。


しかし、その時、声が聞こえた。微かな小さな叫び声だ。


振り返ると、瓦礫の下に閉じ込められた子供がいた。その目は涙に濡れ、恐怖に満ちていた。


「…今じゃねえだろ!」俺はつぶやき、頭の中のパニックを無理やり押さえ込んだ。考える前に足が勝手に動いていた。


俺は走った。一歩一歩が痛みを伴い、体中が悲鳴を上げるようだった。それでも止まれなかった。今は無理でも、あの子だけは——助けなければ。


「おい、待ってろ!今行く!」


聞こえているのかは分からない。俺は彼の隣に膝をつき、荒い息を吐きながら瓦礫を掘り始めた。手は擦りむけ、血が滲んでいたが、止めることはできなかった。


「絶対に助けるからな…」誰に言うでもなく、自分自身に言い聞かせるように呟いた。


そしてついに——力いっぱいの一掻きで、瓦礫をどけた。


「まだ走れるか?」俺は崩壊の隙間を指差しながら言った。「早くここから出ろ!」


子供は一瞬躊躇したが、やがて頷いて全力で走り去った。


俺は深く息をつき、一瞬だけ安堵した。だが、それは一瞬のことだった。


地面が突然震え出した。


反応する間もなく、大きな爪がアスファルトを叩きつけ、目の前にクレーターを作り出した。俺は吹き飛ばされ、崩れかけた建物の壁に叩きつけられた。だが、痛みを押し殺して立ち上がる。肩から血が流れ、視界がぼやけ始める。


「…ふざけんな、この怪物め…!」


横に転がっていた鉄筋を掴んだ。これでは足りないと分かっていたが、他に何もない。


俺は突進した。


「…もし死ぬなら、せめてこれで罪を償えるだろ…」


鉄筋を振り下ろしたが、怪物の鱗に当たっても弾かれるだけで、傷一つつかなかった。


怪物は俺を見下ろし、その目には冷たい嘲笑が浮かんでいた。まるで、「お前に何ができる?」と言われているようだった。


俺は後退りし、力尽きて膝をついた。


「…なんで…なんで俺はいつもこうなんだよ…」


震える身体。悪化する傷。呼吸するたび胸が痛む。


その時、15年前の記憶が蘇る。火、叫び声、血と煙の臭い——泣いているシナ、恐怖に満ちた母の顔…


俺はその記憶を振り払おうとしたが、あまりにも鮮明で頭から離れなかった。


「…これで全部終わりか?」


苦笑いしながら、力尽きた身体が地面に倒れた。


その時だった——まばゆい光が視界を覆った。エネルギーの爆発がオムニヴォラックスを後退させた。


かろうじて目を開けると、黒い制服を着たエーテルの隊員たちが見えた。その中の一人が雨の中で剣を手にし、優雅に動いていた。


…彼女は——


「シナ?」俺はかすれた声で呟いた。


だが、考える間もなく意識を手放した。全てが暗闇に包まれ、俺は何も感じなくなった。



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