第6話 凍道チャンネル「本能寺の変正親町天皇黒幕論②」

「と、ここまでが実は俺が昔帝国大学にいた時に書いた最初で最後の論文のネタだったんだけどさ。アカデミアにおいては天皇になにか謀略やらを重ねるのってタブー中の超絶タブーでさ。Wikipediaとかで、えーと、『足利義満の毒殺について』とか、『孝明天皇暗殺説』とかについて調べてみたら、なんとなく雰囲気がわかると思うよ。本能寺の変朝廷陰謀論説についても同じことでさ、検索するとこういうのがでてくるでしょ


黒板にグーグルで検索したときに出てくる箇所を貼り付ける



本能寺の変の背後には朝廷が関わっていたという「朝廷陰謀論」が唱えられていますが、確かな史料に基づいた証拠はありません。

朝廷陰謀論の主な内容は、次のとおりです。

信長は安土城内に天皇の清涼殿を模した御殿を造営していたため、天皇を安土に迎える構想を抱いていた

公家勢力は、朝廷の実権が信長に握られると危機感を覚えた

正親町天皇の側近である近衛前久、勧修寺晴豊、吉田兼見らが光秀を取り込み、信長暗殺をけしかけた

しかし、この説は二次史料に拠る説や論理の飛躍による説で、史料を並べて語られていますが、肝心なところは憶測に依拠しており、ファクトではありません。


「こんなふうにさ、都合悪い話は「史料がない」なんだよね。朝廷が謀略を巡らせたとして、そんな手紙ご丁寧に残すわけないじゃん?でもアカデミアではこれがルール。そして、朝廷がなんらかの陰謀に関わったという説がそれっぽくなってくると、否定する説がでて、なぜか朝廷陰謀論出してた教授が説を変更するんだよね。わかりやすい例として、本能寺の変をWikiで見てみようか


『Wiki?』『ん?』『Wiki?』『Wikipediaですのだ』『Wikipedia、な』


「はいはい、Wikipediaね。まずこれね」


黒板を切り替える


鈴木眞哉と藤本正行は共著『信長は謀略で殺されたのか―本能寺の変・謀略説を嗤う』で黒幕など最初からいないとして、黒幕説には以下の共通する5つの問題があると指摘した。


①事件を起こした動機には触れても、黒幕とされる人物や集団が、どのようにして光秀と接触したかの説明がない。

②実行時期の見通しと、機密漏洩防止策への説明がない。

③光秀が謀反に同意しても、重臣たちへの説得をどうしたのかの説明がない。

④黒幕たちが、事件の前も後も、光秀の謀反を具体的に支援してない事への説明がない。

⑤決定的なことは、裏付け史料がまったくないこと。


「さて、そろそろ歴史を認知プロファイリングしましょうか」


『きたー』『まってましたのだ』『キリッ』


「まず、このWikipediaにもない結論からいこうか。朝廷、といっても公家の一部だけとかではなくて、朝廷の全部が陰謀の主体。つまり、正親町天皇から公家からみんなが一丸となって信長を暗殺した」


『いけませんよ!』『あーこれはいけません』


「そうそう、こういう学説はタブー中のタブーなんだよね。実はこの本能寺の変は俺がアカデミアを追放されたときの論文のネタでもあるんだよ。だからこのネタはずっと避けてたんだけど、今日やっと扱おうって気持ちになれたっていうか」


『追放?』『元アカデミアってネタじゃなかったの?』


「いやー、本当に俺帝国大学の院生だったんだけどさ。山崎教授に誘われて。全然しょぼい大学からの院ロンダってやつよ。でもさ、じゃあ論文書いてみようかって話になって、天皇が本能寺の変の首謀者って論文書いて、なんか名誉教授?とかいう人がこんな論文は認めないとか出すなとか癇癪起こすから、腹立って黙ってレターパックで論文の査読依頼だしたらめちゃくちゃ怒られた」


『院ロンダ・・・見損ないました凍道』『何しとんw』


「俺も若かったのよwほんとひどい目にあったよ。いろんな人に頭下げさせられたし。訓告?とかいう処分もされるし。研究室に居場所なくなるし。しょうがないから退学して、今はこうして歴史が趣味のVtuberになったってわけ」


『残当』『当たり前』『残当』『残当』


「うっせw。逃げ若とか見てればわかるけど、たとえば南北朝の時代は普通に天皇も戦争してるわけじゃんか。天皇が神輿みたいな象徴になってないかぎり、やっぱ当時の天下人である信長を暗殺するのは、部下である公家や朝廷が独断でやったというのはちょっと考えづらいと思ってて、天皇も含む朝廷の陰謀だと思うんだよね。タブーだけどwYoutubeはBANされねーよな?」


『それはそう』『ん?今花山天皇の話した?』


「花山天皇の話はしてねーw。で、もう一つ。従来の朝廷陰謀説は、公家が主犯という見方しかできないから、公家と明智が共謀したって説じゃん?俺はさ、明智は最初から天皇の命を受け戦国武将達を探ってたスパイだと思うの。当時朝廷はかなり弱ってて、こんなに弱ってた朝廷って足利義満のときと信長のときくらいじゃないかな?だからどこかの武将と協力関係になって力を取り戻したかったと思うんだよね。実際、秀吉と朝廷はかなり仲良くやってたわけで。豊臣って姓も正親町天皇から賜ったものだからね。豊臣政権で朝廷も力を取り戻した」


『はえー』『光秀スパイか』『スパイ映画の見すぎでわ』『やめろ』


「光秀は朝倉義景、足利義昭、そして織田信長に伝えたとされている。上洛を求める足利義昭に、織田信長を引き合わせたときに信長に仕えることとなり、朝廷との交渉役を任されるようになった、と。これ朝廷のスパイなら朝廷に顔が利くの当たり前じゃん?」


次回予告

光秀スパイ説


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2024年12月13日 12:00
2024年12月14日 12:00

認知プロファイリング探偵松尾光 暇空茜 @himasoraakane

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