消えた駅の秘密

あさき いろは

消えた駅の秘密

 青山奏斗は、地元で有名な都市伝説に興味を持つどこにでもいるごく普通の

高校生だ。

その都市伝説というのは、ある駅が一夜にして姿を消したといわれている荒唐無稽こうとうむけいな話である。


 駅の名前は「桜影さくらかげ 駅 」

今現在保管されている地元の古い地図や、鉄道会社の資料には一切載っていない。

さらに奇妙なことに、その駅を覚えているという人はほとんどいないのだ。

「本当にそんな駅があったのか?」

 興味心を抑えきれない奏斗は、休日を利用して桜影さくらかげ 駅があったといわれる場所を、訪れることにした。


 そこは住宅街の中にある小さな公園になっており、特に目立った特徴もない。

しかし、古びたレンガの壁が一部残っており、ここに何かがあったのは確かだ。

 彼がレンガの壁に手を触れると、不意に冷たい風が吹き抜けた。

空気が変わったような感覚に、奏斗は一瞬息をのむ。

 次の瞬間・・・・目の前のは古びたプラットフォームと、錆びついた駅名標が現れたのだ。

桜影さくらかげ 駅・・・・・!!」

 驚きつつも、興奮した奏斗はそのまま駅の中に足を踏み入れた。

その中は空気が張りつめ、音も消え去り、すべてが凍りついたかのように静寂に包まれていた。

薄暗いホームをさらに奥に進むと、古い待合室らしきものが見え、薄闇の中で視線を集中させていると、待合室の中にひとりの中年男性が座っていた。

 彼は灰色のスーツをビシッと着こなし、エリートサラリーマン風に見えた。

奏斗を見ても特に驚いた様子もなく、ゆっくりとした口調で話しかけてきた。

「君もここにきてしまったのか・・・」

「ここって・・・?この駅は一体何なんですか?」

 男性は少し考え込むような仕草の後、重々しい声で話し始めた。

「この桜影さくらかげ 駅は、忘れられた存在が集まる場所だ。人々の記憶から消されたものや人間、時間の隙間に取り残されたものたちが流れ着くんだよ。

私もそうだ・・・」

 奏斗の頭の中は思考が一時停止した状態に陥っていたが、とにかく男性の話を聞き続けた。

「昔、この駅には多くの列車が行きかっていたが、ある日を境に突然すべてが失われた。誰もこの駅の事を覚えていないし、戻る方法もわからない・・・君もきをつけないと、ここから出られなくなるぞ」

「出られないって・・・?」

 つぶやいた次の瞬間、なま暖かい風が吹き抜け、ホームに列車が滑り込むように入線してきた。

黒光した重厚感のあるボディーだが、窓ガラスがすべて割れている奇妙で不気味な列車で、車両の中には誰もいない。

「君がここから出られる最後のチャンスだ!乗れ!!」

 男性は必死に叫ぶ。奏斗は躊躇していたが、何か得体の知れない恐怖感を感じ取り、意を決して列車に飛び乗った。

 列車が動き出すと、周囲の景色が一瞬で歪みはじめた。

過去と現在が混ざり合い、時間そのものがねじれるような、無限の闇と光が交錯する渦に吸い込まれていくと同時に、奏斗は気を失っていた。


 突然鳴り響いたスマートフォンの目覚まし音で飛び起きると、奏斗は自宅のベットの上にいた。

時計表示を見ると、彼が桜影さくらかげ 駅に向かった時刻から一切進んでいない。あの出来事が、まるで夢だったかのように。

 奏斗は頭を抱えながらふらふらと机に向かうと、そこには一枚の古びた切符が置かれていた。

その切符は片道切符で、切符を裏返すとさらに驚くべきことが印字されていた。

 ―次の列車は君を迎えに来る―


 その日以降、奏斗の姿を見たものはいなかった。

青山奏斗という人間が存在した事実すら、忘れさられたように。




          

 













 


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