第3話 初めてのコミュニケーション

 私はようやく彼女とコミュニケーションが取れて死ぬほど嬉しかったが、相手が怯えている以上、そのような思いに浸るのは後回しにした。


「えっと……フローラ様、どうか落ち着いてください。僕はあなたの味方です」

「そんな事を言って、私を敵国に売り渡す気なんでしょ?!」

「い、いえ、そんなことは……」


 すると、フローラはテーブルの上に置いてあったハサミを手に取って僕の方に向けた。


「さぁ、白状しなさい! ここはどこなの? あなたは誰? マーリジャ帝国の手先? それとも絶縁したルドルラーの子分か何か? どちらにせよ、少しでも近づいたら刺すわよ!」


 計画は成功した。完全に僕が作ったロボットは『フローラ』として自覚している。だけど、怯えてしまっている以上、どうにか友好的である事を示さない限り、心を開くことはないだろう。


「分かりました。今から服を脱いで武器を持っていない事を証明します。そしたら、少しは信用してくれますか?」

「え?」


 フローラは僕の行為に驚いている様子だった。僕は白衣を脱いで、シャツ、ズボンになりパンツ一枚になった。


「ちょ、ちょちょちょっと! なに?! なにをしているの?!」


 彼女は顔を背けながら叫んでいた。明らかに僕の裸を『恥ずかしい』と認識している。


「ほら、ご覧ください。僕は丸腰でしょ?」

「わ、分かりましたから、服を脱いでください!」


 フローラは顔を背けながら命じてきたので、私は素直に応じた。すると、彼女はハサミを手から滑り落としたかと思えばしゃがみこんで苦しみ出した。


「だ、大丈夫ですか?!」

「あ、うぅ、あぁ……」


 お腹を抱えるように悶える彼女に、何か体内で異常事態が発生しているのかとハラハラした。


「……すいた」

「え?」

「お腹空いたの! 味方なら何か食べさせて!」


 なんだ。ただの空腹か。大事だいじじゃなくて安堵し、すぐにバナナを持ってきた。フローラは奪うように取って皮ごと食べた。


「うんうん、初めて食べたけどおいしい」


 余程お腹空いたのか、あっという間に完食した。少しだけ元気でたのか、まっすぐ立ち上がった。


「あなた、名前は?」

「えっと……シュタイン博士です」


 私の本名は死ぬほどダサいので、かっこよさそうな名前にした。


「シュタイン……ここはどこなの?」

「えっと、ニーホンという国でございます」

「全然知らない国……あぁっ、またお腹がっ!」


 さっき食べたばかりなのにもう空腹を感じていた。思っていたよりも消費量が激しいのかもしれない。


「では、詳しい事は食事をしながらにしまう。食堂に参りましょう」


 私はそう言って彼女をリビングに案内した。

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ピグマリオンの恋 和泉歌夜(いづみ かや) @mayonakanouta

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