第2話 試行錯誤の末に完成

 生成AIに彼女の事を熟知させるために必要な資料は有り余るほどあった。主にアニメを中心に投与させ、不足は漫画などで補った。


 肉体に関してはラブドールを基盤にした。皮膚はシリコンなのは確定だが、骨や臓器はどうしようか悩んだ。当然ロボットになるのだが、動く際にギィとかカチャカチャなどの機械的な動きが問題となる。


 それを突破したとしても動力源をどうするのか。スマホや家電みたいに常にコンセントに差すわけにはいかない。本当の人間のようにするためには電池や太陽光などではなく、食事や睡眠などで動かせたい。どうすればそれらの条件をクリアできるか。私は三日三晩考え続けた。


 その結果、ある方法を思いついた。具体的な方法は省くが、体内の構造を簡単に説明すると、食物を消化させた際に出るガスをエネルギーに変える方法だ。いわゆる永久機関というやつだ。これを使えば、いちいち充電しなくてもすむし、電気代もかからないだろう。


 だが、常に食べ続けないといけない可能性もある。それは完成してから考えよう。ちなみに動く際に出る機械的な音はある程度解決した。我々と同じく筋肉を使う事でより人間に近くなった。


 さて、体内であれこれと考えているうちに、生成AIの方は順調に彼女の事を吸収し終えたみたいだ。


 早速音声だけでテストしてみた。文字を入力して読み上げてもらうと、彼女の声は近いが機械音声のような不自然さがあった。


 少しずつ微調整を繰り返して、ようやく聞いていても違和感を感じない喋り方になった。さて、あとは最終関門である感情をどうすべきか。


 試しに表情筋を作って喜怒哀楽のテストをしてみたが、ガチャガチャうるさかった。かといって、それを最小限に留めておくと、氷のように無表情になってしまう。


 それに人間の感情は複雑で、どの出来事を嬉しいか悲しいかを捉えるのは個人差がある。でも、それは彼女が体験してきた出来事を元に喜怒哀楽の価値観を作れば問題ないだろう。


 さて、試行錯誤の末、表情筋も柔らかくなった。機械的な音はほとんどでなくなった。あとは頭の形は完成してるので、頭脳を入れるだけだ。


 頭脳は万が一の時に備えて、箱みたいなのを作った。それに生成AIを搭載させた頭脳を入れて、頭だけ動かしてみる。


 すると、声は出るようになったが、頭の方から煙が出てきた。どうやら体内の熱がこもって発火してしまったらしい。慌てて消火し、次の策を考えた。


 ふと人間の頭の中は脳みその他に髄液がある事を思い出した。それを浸せば冷却し続ければいいのではと考えた。


 頭脳は防水機能のある箱に入れれば問題ないが、どうやって常に冷たい水を脳内に供給させるのか、それにいつかその水も腐って、彼女の鼻から悪臭漂う液が漏れたらどうする。


 それを解決するためには、かなりの時間がかかった。何度やってもうまくいかなかった。一回冷却ジェルで冷やす方法もやってみたが、交換に手間がかかるので止めた。あらゆる方法を試した結果、管を入れて新鮮な水と汚れた水を交換する原始的な方法で妥協した。こればっかりは先の技術が進歩に期待するしかない。


 また長時間外にいても中の水がぬるくなったり熱くならないように、魔法瓶みたいに長時間冷たい水を維持できるようにした。


 さて、肉体と頭を合体させてAIからの指令が肉体と連動できるかのテストを行った。これに関してはそう時間はかからなかった。ジャンプ、またぐ、しゃがむなど――基本的な動きはマスターできた。


 ここで、発声機能をつけるのを忘れていた。急遽作って、キチンと口から出ているか、食べ物を摂取する際に壊れないか否かを念入りに確認した。


 ここまで来れば仕上げだ。表情の動きや発声、関節の動きなどの最終確認をして微調整をした後、ベッドに寝かせた。


 もちろん服を着させた。もし目が覚めて裸だと知った時、私を暴漢扱いして攻撃してきたら困るからだ。


 格好はセーターと長ズボンというあまりキャラに相応しくない格好だが四の五の言ってられない。


 いよいよ再起動する時が来た。このスイッチ一つで彼女は目を覚ます。私は意を決して、エンターキーを押した。予め水は入れておいた。ショートとかはしないだろう。


 あとはもう神頼みだ。起動するまでの間、私は神に祈った。恐らく娘が分娩台にいる時の親の心情はこんなものなのかと思うくらいハラハラした。


 画面の中に表示されるパーセンテージが上がる度に私の鼓動も速くなった。いよいよ彼女が目覚める時がきた。


(95……96……97……)


 心の中でカウントした。百まであと少しだと思うと心臓が張り裂けそうになった。


(99……100!)


 私はベッドの上を見た。彼女はまだ眠っていた。まさか失敗かなと思い近づいてみると、突然目を開いた。


「いやああああああ!!!」


 急に彼女の口から甲高い悲鳴を出した後、上半身を起こし辺りを見渡していた。


(成功……なのだろうか)


 私は不安だったが、取り敢えず接触を試みた。


「あ、あの……」


 声をかけた瞬間、急にバッと私の方も見た。


「うわっ?!」

「きゃーー!!」


 思わず声を上げてしまったが、向こうも同じように叫んでいた。


「だ、だだだだだだ誰なの?!」


 彼女は逃げるようにベッドから降りた。

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