ピグマリオンの恋
和泉歌夜(いづみ かや)
第1話 ある狂った愛の男の独白
※この作品はあくまでフィクションです。
今までの人生の中でこれほど愛した人はいないだろう。しかし、残念な事に一度も会った事がない。会えたくても会えないからだ。
海外にいるとか、この世にいないとか、そういう話でない。私がこの上なく愛する人はアニメや漫画でしか見る事ができないのだ。
これを聞けば『ただのオタクか』と鼻で
彼らの愛はどこか肉欲の香りを感じる。つまり、大人の同人誌みたいに官能的な展開を好んでいるのだ。
彼女の麗しい唇に無理やりキスをして、清らかな身体を
一方、私は彼らのようにそんな感情は抱いていない。まるで聖母のように崇拝している。最初はビジュアルで一目惚れしたが、時が経つにつれて、彼女の生き方、思想まで好きになり、これほど清らかな人は私が住んでいる世界にはいないと思うようになった。
このように彼らと私の愛情表現は雲泥の差があるが――彼らに対する偏見にも近い批判は私が彼女に対する愛が強すぎるあまり、彼らを
あるいは、彼女は私だけのものと頭の片隅で思っているのかもしれない。事実、そのキャラに対する賛美が書かれたコメントをたまたまSNSで目撃した時は平静を装いながら『危害の恐れのあるアンチコメント』として運営に通報したほどだ。
彼女に会いたいと思うようになったのはいつか――はっきりとは覚えていないが、十年前から抱くようになったのは頭の中の記憶にあった。
キャラに会う方法は一般的な考えであれば、いくらでも選択肢はある。電源を付ければ彼女の活躍を堪能できるし、本を見開ければ躍動的に表現された彼女の絵を鑑賞できる。あるいは、彼女に
私も初期の頃はそうやって楽しんできた。しかし、時が経つにつれて、段々それだけでは満足できなくなってきた。
全て疑似体験に過ぎないのだ。アニメで彼女が敵に殺されそうになった時に『後ろ!』と声をかけても声はモニターで弾かれて、重傷を負ってしまう。
彼女に扮した人物に会いに行ったって、所詮『偽物』である事に関わりない。彼女が出ている時の映像や漫画で発せられた台詞や挨拶ぐらいはできても、それ以外の会話をしたら困惑してしまう。大抵は係員に剥がされて強制終了だ。
私は彼女本人と話したい。きちんとしたコミュニケーションを取りたい。脚本家や原作者の手による言葉ではなく、彼女自身が自分の頭で考えた言葉で話してほしい。
しかし、それができるのは私の頭の中だけだった。仕事をしている時や寝ている時まで、いつでも頭の中に彼女が現れて、私に色んな話をしてくれる。時には励ましたり相談にものってくれたりする。イマジナリーフレンドならぬイマジナリーパートナーと呼んでもいいかもしれない。
だが、やはり、私は会いたい。でも、会えない――そんな葛藤を続けているうちに、あるニュースが飛び込んできた。
ある男が生成AIにアニメキャラの台詞などを学習して原作にはない台詞を売って販売した罪で逮捕されるという事件だった。これを見た私はたちまち稲妻が落ちるほどの衝撃を受けた。
生成AI――その技術を使えば、私の妄想で留まっていたのが現実になるかもしれない。けど、頭脳だけじゃ駄目だ。肉体も必要だ。幸いな事に恋心を抱いた当初より技術は恐ろしいほど進歩していた。人間そっくりな肉体なんてすぐに手に入るだろう。
私は居ても立ってもいられず、早速パソコンを開いて設計図を作った。
タイトルは『ピグマリオン計画』と名付けた。
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