第5話杞憂

 王城前までやって来た。


「二人とも、すぐに戻る。今後のことは戻ったら話し合おう」

「わかった。ジャスティン、気を付けてね」

「ジャスティンさん、どうぞご無事で」

「二人とも、大袈裟だ。では、行ってくる」

「勇者様、陛下がお待ちです。どうぞこちらへ」


 衛兵が謁見の間まで案内してくれている。

 一応『勇者様』と呼ばれているので敬意は払われているようだ。

 セシリアとマティアスを追放したことは王宮まで伝わっているはずだが、勇者を無下に扱うということはないようだ。


「ジャスティン、よく来たな。話は聞いているぞ」

「は、陛下。お騒がせして申し訳ございません」


 アレクサンドル・ローマス・テルシェリア陛下。

 この国を治める王だ。

 セシリアとマティアスを追放したことに後悔はないが、改めて陛下の目の前までやってくるとぞの威厳に圧倒されそうだ。


「そう堅くなるな。儂はそちに期待しているのだぞ。魔族を打倒出来るのはそちだけであると信じておる」

「は、ありがたきお言葉。私などにはもったいないです」

「そう謙遜するでない。勇者学院始まって以来の努力家ということは聞いておる。それも二人とはな。勇者学院の教官が口を揃えて言うておる。『勇者が二人誕生した』と。これまで莫大な国費をつぎ込んできて良かったと思うておるのだ。魔族打倒の好機がやってきた」

「は、ご期待に沿えるように尽力いたします」


 二人か。陛下からノアのことを認めてもらえて涙が出そうだった。

 でも、ここはそんな場ではない。

 本題がまだ残っている。


「ダルクロア家の三女とノルト家の次男を追放したそうだな」


 やはり伝わっていたか。

 どういう処分が言い渡されるのか。


「は、申し訳ございません。どういう処罰も甘んじて受ける所存です。ですが、どうか私の仲間には不利益なきようにお願い申し上げます。このことは私一人が行ったこと。全ての責は私自身にございます」

「処罰? 何を言うておるのだ?」

「ダルクロア家の者とノルト家の者を追放した処罰でございます。陛下にはご迷惑をおかけしました」

「ジャスティン、舐めるなよ……」


 陛下の表情が見る見るうちに変わった。

 眉間に皴がより、憤怒の表情を見せている。


「は……?」

「いつ儂が迷惑をかけられたといった!? 貴族側が何を言ってこようが知ったことか! 儂が信用しているのはジャスティン、そちだけだ。むしろ気分が晴れたくらいだ。勇者パーティーに家柄が良いだけの無能がいることが儂は許せなかったのだ! 勇者学院の教官たちから報告は受けておった。『貴族家の二人は怠惰すぎて勇者パーティーにふさわしくない』とな。追放してくれて清々しておる!」


 陛下は勇者学院の生徒のことをかなり熟知しているのだな。

 教官たちも家柄にとらわれず、正当な評価を下してくれているのが嬉しかった。

 それに王家側に貴族側から圧力がかかり、陛下に迷惑をかけているというのは、俺の杞憂だったようだ。

 いや、実際に圧力はあったのだろう。

 それでも、陛下はそんな圧力に屈するほど器が小さい人間ではなかったようだ。


「陛下、無能は言いすぎではございませんか? 一応少し前までパーティーメンバーでしたから……確かに自分勝手な行動で足並みを揃えることはありませんでしたが……」


 二人には腹がたつこともあったが、勇者学院の時代からの付き合いだ。

 度々身勝手な行動が目立ったが、それでも情は残っていた。

 無能と呼ばれてあまりいい気はしなかった。


「わっはっは! ジャスティンらしいのう。他人を無能呼ばわりされて腹をたてるところも勇者学院の教官たちから評価されておったぞ。逆に熱くなりすぎて、冷静な判断を下せなくなるところが欠点だともな」


 確かに俺は熱くなりすぎるところがある。

 教官たちから『戦場で生き残りたければ冷静になれ。さもなくば、仲間を危機に陥れるぞ』と度々釘を刺されていた。


「申し訳ございません、陛下。非礼をお許しください」

「なぁに気にするな。そちの性格はよく知っておる。そういうところも儂は評価しておるのだぞ。貴族側からの干渉など気にするな。そちの信じる道を行けばよい。今回のことを借りだと申すのなら、その借りは魔族を打倒することで返せばよい。期待しておるぞ」

「は、必ずや」

「それから儂からも詫びなければならぬことがある」


 詫び? 陛下から謝られる覚えなどないのだが。


「何でございましょう?」

「儂は二人の勇者の誕生に浮かれておった。そちが出発の挨拶に来た時に援助を申し出るつもりが、とんと忘れておったのだ。もちろん、テルシェリアは勇者学院への拠出で国の財政は芳しくない。だが、兵士を遣わせることは出来る? どうだ?」

「ありがたきお言葉、ですが……」

「魔王の呪いか?」

「はい」


 数代前の魔王の時代。

 人間側は圧倒的な戦力差で魔族側を圧倒した。

 その魔王が圧倒的な劣勢を覆したのが、呪いだったのだ。

 人間側に徒党を組ませない呪いをかけた。

 その呪いの範囲は全世界に及ぶものだったが、魔法使いや僧侶の研究により、今は魔族領のみになった。

 人数も最初は一人だったのが、徐々に増え、今は解除が進んで四人までパーティーを組めるようになった。

 現在の呪いの範囲は魔族領だけとはいえ、結局四人でしか魔族領に踏み込めないので、魔族領以外でも四人で行動するのが慣例となったのだ。


「陛下の申し出はありがたいのですが、私のパーティーに新しく一人加入しました。ですので、残りの枠は一人となっております。陛下の推薦ですので、大変優秀な方でしょうが、最後の一人は信頼できるものを、私自信の目で選びたいと思います」

「そうか、わかった。納得できるまで妥協するでないぞ」

「かしこまりました。必ずや信頼できるものを見つけてまいります」


 最初は処罰を受けることも覚悟していた。

 それだけのことをしたのだからな。

 幾ばくかの期間、獄に囚われたとしても、戻ってノアとシアラの二人と絶対に旅を続ける気だった。

 それは完全に俺の杞憂で、それどころか、陛下は俺を評価してくれていたのだ。

 その期待に応えないといけないと改めて思うのだった。

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幼馴染をパーティーメンバーが追放しようとしたので逆にそいつらを追放してみた~ついでに別パーティーを追放された奴らを仲間にしたら最強のパーティーが出来上がった~ 新条優里 @yuri1112

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