第4話倹約家勇者

「ジャスティン・クロスウィン、王城まで出向いてもらおう」


 冒険者ギルドを出ると、黒装束の男が俺の後ろに立っていた。気付かれずに背後を取ったつもりのようだが、魔力を可視化できる俺からしたら気配がバレバレだ。

 あちらの出方を探るために敢えて背後を取らせていた。

 セシリアとマティアスを追放したことがもう伝わったのか。

 気乗りはしないが、無視するわけにもいかないだろう。


「かしこまりました。まもなく登城させていただきます。陛下にそうお伝えいただきますと幸いです」

「かしこまった」


 そう言うと黒装束の男は音もなく去っていった。


「大丈夫、ジャスティン?」

「ああ、心配するな、ノア。すぐに戻ってくる」

「あ、あの……」


 そうだった。シアラは俺たち勇者パーティーが何故二人になったのか言ってなかった。

 ノアの名誉があるのでシアラに話そうか逡巡したが、俺たちのことを知ってもらういい機会だ。シアラに俺たちのことを話すことにした。

 もちろん、ノアに非がないことは強調して。


「そうだったんですね……ノアさん、大変でしたね」

「ジャスティンがいるから大丈夫だよ。まあ、ちょっとむかついたけどね、ははは」

「私も実はむかついてました、ふふ。私たち、追放仲間ですね」

「不名誉な仲間だね。まあ、これから見返せばいいんだけど」

「そうですね。見返してやりましょう!」

「二人とも、気合十分だな。今後のことは戻ってきたら話す。しばらく冒険者ギルドで待っていてくれ」

「ジャスティンが心配だよ。城で何か変なことされないかな? 僕も付いていったら駄目かな?」

「私も心配です。付いて行かせてくれませんか?」

「しょうがないな。これは俺自身の問題だと思ったんだが。付いてきてもいいが、二人は城内には入れないぞ。国王が呼んでいるのは俺だからな」

「わかった。城の前で待つよ」

「わかりました」




 俺に登城するよう告げた黒装束の男が去っていった後も、別の黒装束が俺たちの後を付けている。

 こちらも隠れているつもりでも気配がばれている。

 俺が逃げださないように見張っているのだろう。

 勇者だというのに信用がないものだ。


「ごめんね、ジャスティン。僕のせいで」

「もういいって言ってるだろ。気にするな。それに取って食われるわけじゃない。陛下と雑談してくるだけだ」


 城に向かう道すがらノアが謝罪してきた。

 こいつは気にしすぎなんだ。


「本当なの? 何か罰がない?」

「まあ、多少のペナルティがある可能性はあるが、冒険を辞めさせられるということだけはないから心配するな」

「そうなの?」

「魔族は国王や王家にとって懸案事項だ。いくら貴族側が何か言ってきたとしても、ほっておくわけにはいかないだろ? 現状魔族を倒すことが出来るの可能性があるのは俺たちだけだ」


 冒険者たちは日々のクエストに追われて、とてもじゃないが魔族を討伐しに行くことなんて出来ない。

 まあ、俺たちも現状懐事情は寂しいので境遇的には変わらないが。

 勇者になれば魔族討伐に専念できるかと思っていたが、そんなに甘いものではなか

った。 実力的な面でも俺たちだけというのはあるが。


「確かに。僕たちが旅をやめることは陛下にとっても不利益だもんね」

「ああ。だから心配するな」

「ジャスティンさんは陛下とよく謁見されているのですか?」

「ああ。色々と報告義務があるからな。勇者というのはこんなにめんどくさいものなのかと思ったよ。戦闘より事務作業の方が多いんじゃないかって思わされる。勇者になったら胸躍る冒険が出来ると思っていたのに、実際は結構地味だな」

「へ~、そうなんですね。勇者様ってもっと近寄りがたい存在なのかと思ってましたけど、意外と庶民的な生活を送ってるんですね。なんだか親近感が湧いてきました」

「庶民も庶民。いや、庶民レベルにも達してないな。極貧勇者だ」

「確かにね。シアラ、ジャスティンはかなりの節約家なんだよ。いつもどの店で買い物したらいいか頭を悩ませている。節約勇者だよ」

「シアラ、幻滅したか? こんなケチな勇者で」

「いえ、いいと思います。冒険は戦闘で倒される可能性があるだけでなく、金銭的な問題で行き詰まることもあると思います。倹約いいじゃないですか。今後は倹約したお金で装備や道具を揃えるんですか?」

「ああ、そのつもりだ。命に直結するから装備だけはケチることは出来ない。俺は回復魔法が使えるが、魔力が尽きることもある。薬草類も常備しておきたい。慎重すぎるくらいが丁度いいと思う」

「なんだか安心しました」

「何がだ?」

「これだけ慎重でいてくださると全滅の可能性は低そうです。ジャスティンさんに付いて来てよかったです。貴方が勇者に選ばれたわけが分かりました」

「そういえば勇者学院の教官たちも言ってたな。『お前は最後まで生き残る』って。『最後まで生き残った者が魔族を討伐する』って。確かに慎重さなら負けないな。俺は勝てない勝負はしない」

「そうそう。勇者学院時代のジャスティンは手ごわかったな。実技で全然隙を見せないんだもん。逆に他の生徒たちはどんどん疲弊していって自滅するパターンが多かったな」

「へ~、そうなんですね。お二人の勇者学院の話をもっと聞きたいです。今度聞かせてください」

「ああ。追々な。そろそろ城が近づいてきた」

「わかりました。どうぞご無事で」

「そんなに心配しなくてもいい。すぐに戻る」


 さて、あちらはどう出てくるだろう。

 多少めんどくさいことになるかもしれないが、それは致し方ない。

 覚悟を持って二人を追放したのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る