第3話シアラ
「あ、あの……」
「ああ、すまない。余計なお世話だったかな?」
追放された女性がこちらをおずおずと見ている。本人を置いてけぼりにしてしまっていたな。
モヒカン頭たちとの諍いは、彼女がパーティーから追放されそうになっている場面に出くわしたからだった。
「い、いえ。勇者様が私を庇ってくれたのは嬉しかったです。でも、どうして勇者様がこちらに?」
「ああ、ちょっと野望用で……」
仲間が幼馴染をパーティーから追放しようと画策して呼び出されていたなんて、他人に口が裂けても言えない。
「そうなんですね。申し遅れました、私はシアラ・スノーリッジと申します。モンスターテイマーをしています」
「よろしく、シアラ。俺はジャスティン。ジャスティン・クロスウィンだ」
「もちろん、存じ上げています。テルシェリア国内だけでなく、この世界で貴方のことを知らない人はいません」
「こっちはノア。俺の幼馴染でパーティーメンバーだ」
「よろしくね、シアラ。さっきは大変だったね」
「よろしくお願いします、ノアさん。私が悪いんです。私が無力だからパーティーから追放されてしまいました。てへへ……」
「君が無力? そうは見えないが。俺の目がそう告げている」
「目……ですか?」
「俺の目は他人の魔力を見ることが出来るんだ。君の魔力は優しくて安心感がある。動物に好かれそうだ」
「そう言っていただけて嬉しいです。私は動物が好きなんですけど、動物からは好かれなくて。臆病なのが伝わってるんですかね……」
「そうなんだ? 何か原因があるのかな、ジャスティン?」
「モンスターや動物は自らが認めた者にしか仕えないと聞いたことがある。優しいだけでは駄目ということだろう。でも、君のその優しさはテイマーの才能だと思うぞ」
「そうなんですよね。力を示さないとモンスターは仲間になってくれません。だからパーティーから追放されちゃいました。モンスターテイマーをしているといったのに、一匹も手懐けられていないのなら当然ですよね」
「今はそうなんだろう。だが、今後は必ず立派なモンスターテイマーになると思う。追放した奴らも後悔すると思うぞ。だろ、ノア?」
「ジャスティンが言うなら間違いないと思うよ。追放した奴らの悔しがる顔が目に浮かぶよ。シアラはテルシェリア一のモンスターテイマーになると思うよ」
「ジャスティンさん……ノアさん、ありがとうございます……私、頑張ります。では、失礼ます」
「ちょっと待ってくれ。どこに行くんだ?」
「お二人に励まされて改めて頑張ろうという気持ちになりました。街の外でモンスターを仲間に出来るように頑張ってみます」
「やる気になったのはいいが、一人で行く気なのか?」
「ええ。お恥ずかしいことにパーティーから追放されて一人になってしまいましたから。お二人から勇気をもらいましたから、私は一人でもやっていけます!」
「元気になってもらってなによりだ。だが、街の外は危険だろう?」
「それでもやらないといけないんです。私、決めましたから!」
「これは命令ではなくて、お願いなんだが」
「はい?」
「俺たちの仲間になってくれないか? シアラ。君は優秀なテイマーになる。いや、優秀だからだけでもいない。君と一緒に旅がしたいんだ。ぜひ勇者パーティーの一員になってほしい」
「え? 私が勇者様のパーティーに……?」
「ちょっと、ジャスティン。シアラが戸惑っているよ」
「ああ、すまない。でも、さっき言ったことに嘘はない。俺は君を認めている。俺たちの旅に君が必要なんだ」
俺の悪い癖だ。つい、暴走してしまう。でも、自分の直感を信じたい。ここで諦めたら後悔することになるだろう。
「嬉しいです。お二人のおかげで私これから頑張ろうと思えました。でも、本当に良いのでしょうか? まだ一匹もモンスターを手懐けたことのないモンスターテイマーですよ? ご迷惑をおかけするかもしれないです。こんな半人前にもなれない私じゃ勇者パーティーにはふさわしくないです」
「君の本心はどうなんだ?」
「え?」
「俺は君と一緒に旅がしたい。でも、無理強いするのも違うと思う。君の本心を聞かせてほしい」
「一緒に行きたいです! 貴方たちといられれば、私は私自身のことを認められるかもしれない! お願いします、一緒に連れて行ってください!」
「こっちが頼んでいるんだ。こちらこそよろしく頼むよ、シアラ。ようこそ勇者パーティーへ」
「よろしくね、シアラ。歓迎するよ。ようこそ勇者パーティーへ。まあ、勇者パーティーと言っても二人しかいないんだけど。君が加入して三人になったね。賑やかになって嬉しいよ」
「改めてよろしくお願いします。ジャスティンさん、ノアさん」
追放に次ぐ追放の場面に出くわし、かなりフラストレーションが溜まっていたが、ここにきて最高の仲間が加わってくれることになった。
最悪な場面の連続だったが、その分、これから最高のパーティーになっていくだろう。
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