#6.条件

俺たちが転移した理由、それは親族に罪を消す条件に売られたから。



とんでもない事実が出てきたな、オイ…。



「ううっ…、そんな…、そんなことって…」


信頼していた祖父に、自分が売られる映像を見た竜崎りゅうざきは、完全に参ってるみたいだ。


…こういう時にかけてやれる言葉が思いつかないのが悔しい。



そして何より…。



『一応、転移者共全員の映像があるのじゃが、どうする?』



竜崎の映像があったなら、そりゃ俺たちのもあるよな。



「て、てことは…俺も、だ、誰かに売られる映像があるって…ことすか…?」



鳴上なるかみが震えながら言う。



『何度言わせる。そう言っておるじゃろ。』



「ま、マジかよ…。」



鳴上も、腰が抜けたのか、その場に座り込む。



みんな、自分が親族の誰かに売られたなんて、ありえないって感じだろうな。





でも俺は…、俺を簡単に売るような人間を知っている。





「…イヴァ様、ひとつ聞いてもよろしいでしょうか。」



『ん、なんじゃ。言うてみろ。』



…。



「…俺を売ったのは、俺の父、偉刀英成いとうえいせいですね?」





『…ああ、そうじゃ。』




…はぁ、やっぱりか。


あの野郎…。




俺は昔のことを思い出す─────









「────お前は今日から俺の息子じゃない。気安く父親なんて呼ぶなよ。」


「え、急に…なんで…?」


ある日突然、アイツが俺との親子関係を絶った。


アイツは昔から世間体を気にして、自分の息子は自分の思う通りでなくてはならない。世間に出しても恥ずかしくない、むしろ褒められるほどの存在でなくてはならないと言っていたらしい。


12歳まではしっかりと育てられた俺だが、その間にあいつのお眼鏡に叶う成長が無かったらしく、呆気なく捨てられた。


そのせいか、それまで半ば強制的にやらされていた勉強が反動で一切やらなくなった。


おかげで、中学高校は結構苦労したんだよな。



だが、そんな中でも良かったことがある。



それは俺の母親だ。



母さんは、アイツと離婚した後も、引き続き俺を養ってくれたから、ここに飛ばされてくるまでは何不自由なく暮らせていた。



…なのに今更、アイツの利益のためにこの世界に飛ばされることになるなんてな。



…まあ、母親に裏切られた訳では無かったことが不幸中の幸いだな。


母さんはそんなことする人じゃないって分かってたが、竜崎の祖父みたいに、信頼していた人にされた方がダメージがデカかっただろうしな…。


竜崎には申し訳ないが、俺は改めて、裏切ったのが母親じゃなくて良かったと思う…。



すると、イヴァ様が少し笑った。



『そちは目先の利益のため、こやつ共に飛ばされたことを、さぞ理不尽に思うじゃろうな。…じゃが、そちにも好機はあるぞ。』




…好機?




「え、お、俺たちここから助かる方法があるんすか…?」



鳴上がイヴァ様に聞く。



『うむ。そちも知っておるじゃろうが、転移者共はそちも含めて50おるじゃろ。』



やっぱり、今まで報道されてた行方不明の高校生は、全員この世界にいるのか。



…話題に出してくるってことは、今後飛ばされた他の高校生も関係してくるのか?



そして、イヴァ様は話を続ける。



『その50の転移者共全ての考えが、国に帰還することを望む考えで一致した時、元の国へ戻れるというものじゃ。』



「……え?」



なんだって…?!



「え、そ、それマジで言ってるんすか?!」


鳴上が驚く。



『事実じゃ。妾はつまらぬ嘘などつかぬぞ。』



おいおい、次から次へと起こりすぎだろ…。



…少し頭がこんがらがってきた。



「…イヴァ様、俺たちで少しまとめる時間を作ってもよろしいですか?」



すると赤嘴が、イヴァ様にそう聞いた。



赤嘴、俺の心を読んだのかってタイミングだな…。だけどすげぇ助かる。



『ふむ…構わぬぞ。じゃが、妾はこの後も死者の選定が控えておる。手短にな。』



「…助かります。」



赤嘴はイヴァ様に軽く礼をすると、俺たちにこっちに来るよう合図をして、1箇所に集まる。


「じゃあ、今回俺たちに起こった現象について、その周りに色々ありすぎてゴタゴタしてるやつもいるだろうから、簡潔にまとめる。」



そういうと赤嘴は、転移について、自身でまとめた内容を説明をする。



「まず、俺たち高校生50人は、身内に罪を帳消しにする代償として、イヴァ様の力でこの世界に飛ばされることになった。そして、元いた日本に戻るためには、俺たち50人が全員一致で帰りたいと願うしかない。ここまではいいな?」



俺たちは頷く。



赤嘴…流石だな。


こんな冷静になるのも難しい中、俺たちに伝えるために、今回のことを上手くまとめてくれた。


俺や鳴上たちはともかく、まだフラフラな六北さんや、竜崎なんかは、イヴァ様の話が耳に入ってない可能性もあるしな。



「て、てことはさ、俺たちはこれから他の高校生を探さなきゃ行けないってことか?」



…そうか、最初に飛ばされた高校生がここに来たのは、1年以上前だもんな。



今頃どこにいるかも分からないから、こりゃ長くなるぞ…。



「…そのあたりの話については後だ。今はイヴァ様の話を聞くぞ。」


「…そうだな。」



俺は赤嘴に答えて、イヴァ様に向き直る。



『…終わったか?では続けるぞ。』



イヴァ様は、俺たちが話し終わったのを確認して、足を組み直す。



『じゃが、転移者共の考えが一致しただけでは、帰還はできぬ。』


「えっ、じゃあどうすればいいんすか!」



イヴァ様の言葉に驚いたのか、鳴上がイヴァ様に被せるように話す。



それはまずいぞ鳴上…、イヴァ様の話を遮るのは下手すれば…。



「あ、やべっ…。す、すみません!つい!」



鳴上は遮ったことに気づいて、イヴァ様に頭を下げる。



『…はぁ、話は最後まで聞かんか、せっかちな奴よのぅ。』



イヴァ様はため息をついたが、鳴上に能力で制裁を加えるは無かった。



「…ふぅ。」



鳴上が息を吐く。


内心ヒヤヒヤだったろうな…。



『…続けるぞ。帰還するためには、転移者共の考えが一致したまま、この大聖堂に集う必要がある。』



俺たちは黙ってイヴァ様の話を聞く。



『というのも、妾がこの大陸で呼出よびだしに応じるのは、妾を信仰する者共の本拠地であるここだけじゃ。妾自らがおもむくことでも無ければ、如何いかなる理由でも他の場所には行かぬ。』



なるほどな、だからここに集まらなきゃ行けないわけか。



『これで、妾からの説明は終わりじゃ。』



イヴァ様が組んでいた足を下ろす。



すると、



「イヴァ様。質問よろしいでしょうか。」



今までほとんど黙っていた明堂みょうどうが手を挙げていた。


質問ってなんだろうか。



『よかろう。なんじゃ。』



「ありがとうございます…。では質問ですが、イヴァ様は日本へ帰還するには、転移した高校生50人全員が、帰ることを望む考えで一致する必要があると言っておりましたが、万が一、先に転移した高校生がこの世界で命を落とした場合は、どうなりますか。」


「…!確かに…。」


赤嘴が明堂の質問を聞いて、少し目を見開いた。


なるほどな…、確かに言われてみればそうだ…。


にしても、赤嘴が見落としていたところを突くなんて、多分明堂も相当頭がいいな…。



『ほぅ、それについては説明しておらんかったのぅ…。』



イヴァ様が手を顎に当てる。



『うむ、転移した者が死んだ場合、それは意思あるものとして数えぬ。5人死ねば対象となるのは45、と言った具合じゃな。』



そうか、死んだ人は含まれないのか…。


無い方がいいが、もし俺たちより先に転移した誰かが死んでいても、帰還には影響しないんだな…。



なんか複雑だな、もし死んでるって分かっても安心出来るって。



人の…、しかも日本人の死をそんな感じに扱っていいのか…。


「…なるほど、理解出来ました。ありがとうございます。」


明堂がイヴァ様に頭を下げる。



『うむ…。意見はこれでいいかのぅ。』



イヴァ様が、軽く俺たちを見渡す。



『…なさそうじゃな。』



イヴァ様は、俺たちからの質問がなさそうなのを見て、スクリーンを出した時と同じように指を鳴らす。


その瞬間、イヴァ様が眩い光で包まれる。



「眩しっ…」



俺は目を瞑る。


『妾はこれで戻る…。妾を信仰する者共よ。苦労をかけた。引き続き、妾への忠誠を期待しておるぞ。』


眩しくて目を開けられないため、イヴァ様の声だけが聞こえる。


…イヴァ様、天界に戻るのか。


「勿体ないお言葉です。我らが神イヴァ様。今後とも、我らの忠誠心をどうかお受け取りくださいませ。」



ルーゼスさんの声が聞こえる。



『うむ…。では。』



その途端、光がさらに強くなり、明るさが消える。


目を開けると、イヴァ様と、ルーゼスさんの作った玉座は無くなって、イヴァ様が来る前と変わらない状態になっていた。



「…ぶっはぁ、マジで緊張したぁー。」



鳴上が、その場にへたり込む。


それに合わせて、俺たちはその場に座り込んだ。


生死を司る神イヴァ…。とんでもない神様だったな…。



でもこれで、この世界での目標ができた…。


今この世界にいる転移した高校生達と合流して、ここに戻ってくる。


中々時間がかかりそうだが、帰れるなら絶対帰ってやる。



アイツに罪を償ってもらわなきゃ行けないしな…。



そんな感じで、俺が考えていると。




「皆様方、大変申し訳ございませんでした。」




突然、ルーゼスさんが俺たちに頭を下げてきた。


「え…。」


ルーゼスさん、突然どうしたんだ…?

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Lost50 -ロストフィフティ- しえりす @cielis

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