#5.転移の真実

俺たちの前で玉座に座る、全身が雪のように白い女性…。


ルーゼスさんたちがイヴァ様と呼び、信仰する神。



『そちが、わらわの呼び出した転移者共であるな?』



思わず息を飲む。



…このイヴァって神様、とにかく威圧感がやばい。思わずうずくまりたくなるくらいの圧迫感だ…。



「うぅっ…」


バタッ



威圧感に耐えられなかったのか、六北ろっきたさんが倒れる。


伊乃いのちゃん…!」


六北さんを気にかける竜崎りゅうざきだが、顔をしかめて辛そうだ。



『ふん、この程度の威圧で倒れるとは、貧弱よのぅ…』



イヴァが足を組み直し、吐き捨てる。



…なんか、ムカつくなこいつ。



勝手に呼び出しといて、なんなんだよ…。


こんな風に威圧までして、俺らが普通の人間なのわかってんのか…?







『おい、貴様今、妾を愚弄ぐろうしたな?』







「えっ…」



イヴァの顔が、いつの間にか俺の間近にあった。



嘘だろ…、いつの間に俺の近くに…。




『貴様、死にたいのか?この妾を生死をつかさどる神と知っての愚行ぐこうか?』




こいつ、心読めるのかよ…?!


いくら神とはいえ、そんなのなんでもありじゃねえか…!



「あ、わ、我らが神イヴァ様!申し訳ございません!この方々はイヴァ様のお力を何も知らぬのです!どうか、どうか怒りをお鎮ください!」


ルーゼスさんが俺を庇う。



やべぇことになったかもな…


「うぉっ…?!」


その途端、俺の体に上からすごい負荷がかかる。


「がごぅっ…!」


俺は、顔から思い切り、床にたたきつけられる。



くっそ、痛ぇ…。



どくどくと鼻血が出る感覚が分かった。



お、起き上がれない…。



「う、嘘でしょ…。」


明堂みょうどうがつぶやく。


「ひ、ひさっち!」


鳴上なるかみが俺のもとに駆け寄ろうとするのが見える。



「鳴上様!おやめください!」



その時、ルシーナさんが声を上げる。


「イヴァ様に逆らうことは、貴方様方あなたさまがたでも許されません。」


「…くっ…。」


鳴上が動きを止める。



ルシーナさん、あんな顔するのか…。


俺、現実味なかったとはいえ、神様相手にやばいことしちゃったな…。



『ふん、この程度にしておいてやろう。』



「も、申し訳ございません!我らが神イヴァ様!寛大なお心!誠に感謝致します!」



ルーゼスさんの焦り方を見る感じ、下手したら殺されてたな…、俺。



そう思うと、体に恐怖が来る…。



もう次は無いんだ…。気を引き締めよう…。



その時、俺にかかる力が抜けて、感じていた威圧感もなくなる。


俺は鼻頭を抑えて、ゆっくり起き上がる。


身体中が痛い…。



うわっ、床にも服にも血が…。



こんなに鼻血出たの初めてだ…。






『して、そちが妾の呼び出した転移者共であるな?応えよ。』



再び、俺たちに緊張が走った。



俺が…、この状況を作ったんだ…。


ここは、俺が何とかしないといけない…。



俺は痛む体を無理やり動かして、片膝をついて、頭を下げる。


「…その通りでございます。我らが神、イヴァ様。」



俺は最大の敬意を払って、イヴァ様に応える。


「偉刀…。」


「ッ…、ひさっち?」


「偉刀くん…」


赤嘴、鳴上、明堂がつぶやく。



俺の行動に驚いたからだろうな…。



…どうだ?どうなんだ?


これで殺されたりしないよな…?



……。



『…ふむ、そうであるか。良かろう。』



ッはぁ…!



息が詰まったぁ…。



良かった…、これでいいみたいだな…。


これで、俺が気になっている、何故転移させられたのかについて知れる…。



「偉刀様…。」



リィシアさんが心配そうに、こっちを見ていた。


…後で皆さんに謝らないとな。




『…おい、そやつを起こせ。寝たままでは話も進まぬ。』



するとイヴァ様が、倒れる六北さんを指刺す。


「ッ…あ、はい…!伊乃ちゃん!しっかりして!」


それにすぐ反応して、竜崎が六北を起こしに行く。


ずっと心配してたもんな。


「竜崎様、少し離れてください…。汝の病を癒せ…『治癒ヒール』!」


ミュイさんが、六北さんに治癒魔法をかける。



「うっ…うぅん…」



六北さん、目を覚ましたみたいだな。良かった。


「伊乃ちゃん、伊乃ちゃん、大丈夫?」


「…麗華れいか…さん?私…倒れて…。」


「はぁー、良かったぁ…。ミュイさんも、ありがとうございます。」


「いえ、私は私の仕事をしたまでですので…。では。」


ミュイさんは素早く元いた場所に戻った。


…イヴァ様の前だからかな。


竜崎は、さっきの場所から移動して、六北さんのそばに立った。



『…では、此度こたびに妾が、そちを呼び出した経緯を話そう。』



来た…。



パチンッ



イヴァ様が指を鳴らすと、投影魔法プロジェクションを使った時と同じようなスクリーンが出てくる。



ずは、これを見よ。』



イヴァ様がそう言うと、スクリーンに映像が流れ始める。


そこに映し出されたのは、誰かの一人称視点映像だった。


…これ、映ってるの日本の建物だよな?


どこかまでは分からないが、間違いなさそうだ。


…にしても、どうやって撮ったんだこれ?


いや、今はそんなことを気にしている場合じゃないな。



[ひ、ゆ、許してくれぇっ…!ほんの出来心だったんだぁ…!]



すると、場所が少し変わって、何かに怯えた中年の男が映る。


[ほんの出来心…ですか…。人1人殺しておいて、よくもまぁそのような言葉が出てくるものだ。]


誰の声だ?画面に映っていない、中年の男とは別の男の声が聞こえる。



「あれ、この人って…。」



竜崎が、画面に映る男に反応する。



にしても、この中年の男。本当かどうかは分からないが、人を殺してこの態度なら中々のクズ野郎だな…。



[この中から罰を選べば、あなたの罪は帳消しになります。さあ、早く選びなさい。]


[ほ、本当に、この中から選べば、許してもらえるのか?!]


[ええもちろん。約束しますよ。]


怯える中年の男は、声だけの男にすがってるみたいだな…。


[あなたが選べる選択肢は3つ、1つ目は普通に刑罰を受ける。2つ目は全財産の消失。3つ目は今後生まれる子孫の不幸…。さあ、選びなさい。]


[……。]


中年の男が、声だけの男に選択肢を迫られて、黙り込む。


そこで映像が止まった。



『…投影魔法に映っておるこやつは、竜崎りゅうざき謙蔵けんぞうと言ってな、まあ、見ての通りのクズじゃ。』


「りゅ、竜崎謙蔵…?!」


イヴァ様が、画面に映る男を説明していると、竜崎が声を上げた。


「竜崎、苗字が同じようだが、その反応を見るに、この男は身内か何か?」


赤嘴が竜崎に聞く。


「竜崎…謙蔵…。私の…おじいちゃんだよ…。」


…マジか。


「何…?」


「レーちゃん、それマジ?」


赤嘴と鳴上も驚く。



『…残念じゃが、そちの祖父は救いようのないクズであるぞ。』



「そ、そんな!私の祖父に限ってそんなことなんて…!」


イヴァ様の言葉に、動揺する竜崎。



『…これを見ても、そちはこやつを信じられるのか?』


するとイヴァ様が、映像を再開させる。



[さあ、どうします?どの罰で罪を帳消しにしますか?]


[ぐっ…]


声だけの男が、中年の男に、条件を迫ってるみたいだな…。


[早く決めないと、この条件は消えますよ?]


[…わ、わかった、決めた、決めたぞ!]


[…どうしますか?]


[み、3つ目!3つ目の罰でいい!]


[…本当によろしいのですか?これを選べば、今後あなたの子孫の誰かが不幸…最悪の場合死ぬことになりますが?]


[ふん、子孫の1人死んだところで、私にはなんの損害もないんだ。どうでも良いわ。]


[…そうですか。本当に3番で、いいんですね?]


[そう言っているだろ?!早くやってしまえ!私の罪を帳消しにしろ!]


[…分かりました。あなたの罪はこれで帳消しになります。それでは、私はこれで。]


[ったく、早くどこかへいけ。気味の悪いやつだ。]


そこでまた、映像が止まる。



「う、嘘……今のが…、本当に…おじいちゃんなの…?」


竜崎が頭を抱える。


『こやつは20年ほど前、人を殺めた罪を消すために、妾の側近の力を使うた。その代償が、そちが今ここにおる理由じゃ。』


「そ、そんなのありえないっ!そんなことなんてっ…!」


竜崎が耳を塞ぐ。…イヴァ様の言葉を耳に入れたくないんだろう。


『事実じゃぞ。』


「い、嫌だ…。そんなことなんて…。あ、ああっ…。」


竜崎が膝から崩れ落ちる。


「れ、麗華さん…。」


今度は六北さんが、竜崎を支える。



なんて事実だ、ヤベェなこれ…。


にしても、本当にそんなことが…有り得るのか?


イヴァ様が事実と言っているとはいえ、ちょっと信じられないな…。


「…にわかには信じ難いが、イヴァ様が使われていた力を見る感じ、過去にこういう能力を使った事件のもみ消しが、現実として起こっていてもおかしくは無い。」


「ジローちゃんの言う通りかも…、俺たち実際、イヴァ様の力でここに飛ばされてるわけだしね…。」


…なるほどな、赤嘴と鳴上の言う通りかもしれない。



…待てよ、てことは…。



「ということは、イヴァ様。もしかして俺達も竜崎と同じような代償として、この世界に飛ばされたのでしょうか?」


俺は、イヴァ様に思ったことを聞く。


「い、いやいや、流石にそれは無いでしょー。」


鳴上が、ないないと手を横に振る。



俺もないと思いたいよ…。



だが、おそらく…。










『ああ、そうじゃぞ。』




…ッ!やっぱりかよ…。



「嘘っ…」


「ま、マジぃ…?」


「……。」



明堂と鳴上がありえないと呟き、赤嘴と六北さんは黙り込んでしまう。




くっそ…。


ここにいる全員が売られたパターンか…。



…1番最悪の展開だ。

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