#4.同郷の人たち
「ここです。」
「おお…。」
リィシアさんに案内されて着いたそこは、俺が最初に飛ばされた第四聖堂の数倍はでかい、真っ白で立派な聖堂だった。
「あれ、
その時ちょうど、ルシーナさんが住宅街の方から現れる。
「ルシーナさんも、用事は終わりましたか。」
「はい、先程。…随分と遅かったですね。どこか寄り道でもしていらしたんですか?」
ルシーナさんの目線が俺からリィシアさんに向けられる。
「あ、あはは、すみません。少し食事をしておりました。」
「すみません。」
リィシアさんだけに謝らせるのはなんか違う気がして、俺も一応謝っておく。
「気にされないでください、偉刀様はお腹も空いていたことでしょうしね。仕方ありませんよ。」
「そ、そうですか!よかったです。では、行きましょうか、偉刀様!」
「あ、はい。」
俺はルシーナさんとリィシアさんと共に、大聖堂に続く階段を上る。
「そういえば…、リィシア、偉刀様に、大聖堂にいるほかの転移者の方々についての説明は済んでいますか?」
「えっ」
「あっ」
ルシーナさんの言葉に、俺とリィシアさんが同時に反応する。
えっ…?
「え…、ちょ、えっ?!ええっほ、ほほほほかの転移者ぁ?!聞いてませんよ!」
「す、すすすすみません!重要なことなのに説明し忘れておりましたぁぁ!」
リィシアさんが俺に謝る。
「す、過ぎたことは仕方ないんですけど、俺の他に転移者がいるんですか?!」
俺以外に日本人がいるって、マジかよ。
「は、はい…。実は、偉刀様よりも前にこの世界に転移した、日本人の方々がいらっしゃいます。」
マジか!俺一人だと思ってた…。
「詳しいことは、大聖堂についてからになりますので、とにかく向かいましょうか。」
「わ、わかりました。」
ルシーナさんに言われ、俺とリィシアさんは階段を上る。
「…では、開けますね。」
リィシアさんが、扉のノブを引く。
俺は思わず息を飲む。
この先に…、俺と同じ日本人がいる…。
ガチャンッ
大聖堂の大扉がゆっくりと開く。
「うおわっ…」
大聖堂の中は、本当に凄かった。
さっき見た第四聖堂よりも豪華な作りで、白一色の壁に、ズラリと並らんだ長椅子、そして奥域の広い広場の先には、色つきガラスで出来た女性の絵が外の光で輝いていた。
一瞬、日本人に会う目的を忘れるくらい、その聖堂はすごかった。
「あちらにいるのが、偉刀様と同じ転移者の方々です。」
色つきガラスの絵の下、祭壇の前に数人の人がいた。
…こっちを見てるな。
祭壇に近づきながら人数を数える。
5人いるな、みんな見慣れた学生服や私服を着た若い男女だ。
…ん?この5人、どこかで見たことあるな…。
「…あれれ、君、報道にはなかった顔だよね?もしかして50人目?」
「うぉ、え?」
すると、明るい色の髪を後ろで結んでいる男子学生が、駆け寄って俺に話しかけてくる。
「あーごめんごめん、急にそんなこと言われても分かんないよなー。俺、
鳴上と名乗った男子高生は、俺に右手を差し出す。
俺は思わず右手を出して、鳴上と握手を交わす。
「へへっ、よろしく50人目。君の名前はなんて言うんだ?」
「え?や、い、
「じゃあ…ひさっちだな!よろしくひさっち!」
「えぇ?」
きゅ、急にあだ名呼び?この人ぐんぐん前進んでくからついていけねぇ…。
50人目ってなんのことだよ…。
てか、鳴上惺って…やっぱりどこかで聞いたような名前だな…。
「おい鳴上、彼は状況が分かっていないんだ。あまり混乱させるな。」
すると、鳴上とは別の男子高生が、鳴上をさとす。
ツンとした赤髪と三白眼の、いわゆるカッコイイ系って言うやつだろうか…。
いかにも女性にモテそうな見た目ではある。
「もー、ジローちゃんは固すぎるぞー。」
「余計なお世話だ。あとその呼び方はやめろ。」
ジローちゃん?あだ名だろうが、鳴上は誰にでもあだ名呼びするタイプなのか?
「偉刀と言ったか、俺は
「わ、わかった。よろしく。」
赤嘴と名乗ったこの男子高生、ちょっと怖いが、悪い人では無さそうだな。
てか、廉次郎だから鳴上にジローって呼ばれてるのか、なるほどな…。
「あ、ねーねー、レーちゃんたちもひさっちに自己紹介してあげてよー。」
すると、鳴上が残りの3人の人を呼ぶ。
…3人とも女性みたいだな。
「もう鳴上、呼ぶならレイカでいいっての。」
それにすぐ反応した、多分鳴上にレーちゃんと呼ばれていた女性が、俺の近くに来る。
残りの女性2人も近づいてきた。
「えっと、偉刀さん。私は
「…ああ、こちらこそよろしくお願いします。竜崎さん。」
初対面の人には礼儀正しいんだな、鳴上との会話では想像できなかった。
けど…。
「えっと、竜崎さん。敬語だと堅苦しいから、お互い高校生だしタメ口でもいいと思うんだけど、どう?」
「そう?わかった…。じゃあ、敬語は無しね。私も敬語はやめるから、偉刀くんも、私のことは竜崎呼びでいいよ。」
「わかった竜崎。改めてよろしく。」
「うん。よろしくね。」
意外と飲み込みが早いな。俺の提案をすぐに受け止めてくれた。
竜崎といったこの女性、いや女子高生か。ポニーテールにした長い藍色の髪が目立つ、明るい印象の女子高生だな。
最初、挨拶の前に、ピシッと軽く一礼してきたから、少し驚いたが。
すると、
「…私も、自己紹介させて頂いてもよろしいですか。」
竜崎の後ろから来た、2人の女子高生のうちの一人が、そう言う。
竜崎が察して、サッと俺の前から移動する。
代わりに、さっきの女子高生が俺の前に来る。
「
そう言って六北さんはへその辺りで両手を添えて、お辞儀をした。
「え、あ、はい。よろしく…お願いします。」
六北さんも竜崎と同じですごく礼儀正しくて、俺もつい敬語で返してしまった。
「伊乃ちゃんは誰にでも敬語だから、偉刀くんはなんでも好きに呼べばいいと思うよ。」
竜崎からの補足が入る。なるほどな。
「はい。私は家柄の関係上、このような接し方をさせて頂いているだけですので、お気になされないでください。」
どんな家柄か気になるけどなんかすごそうだな。
「そ、そうか。よろしく。」
六北…、すごい凛としてると言うか、落ち着いてるというか。紫の髪と口元のほくろが特徴の女子高生だ。
同年代離れした礼儀正しさには、竜崎の時より驚いた。
…あれ。
「…そういえばもう1人は。」
そう、まだ1人名前を知らない人がいる。
六北と一緒にこちらに歩いてきた女子高生だ。
「あー、イナっちだね。」
「いなっち?」
鳴上にそう呼ばれた、女子高生。
1番後ろに立って、腕を組んでいる、緑の髪を1つ結びにした人だ。
…なんか睨んでる?
「…えっと、名前はー…。」
俺は恐る恐る聞く。
「…
少しの沈黙の後、そう答えて黙ってしまった。
「ごめんなー、イナっちはここに来た時からずっとこんな感じなんだよねー。」
「そ、そうなんだ。」
なんというか、ツンツンとしていて、あまり話すのが好きじゃないのかもな…。
明堂イナギか…。
…明堂?
またどこかで聞いたような名前だ。
いや、なんならつい最近見た気がするぞ?
明堂…高校生……あっ
「…なあ、違ったらゴメンなんだけど、君らってもしかして行方不明事件の高校生なのか?」
俺は5人に聞いてみる。
「え、ひさっち今気づいたのかー?」
「うん、そうだよ。」
「その通りです。」
…え?
鳴上、竜崎、六北がイエスと言う。
そして、
「…そうだ、俺たちは
赤嘴がそう言う。
「…マジか…。」
行方不明になった高校生、こんなところにいたのかよ…?!
「え、じゃあなんだ、他にも行方不明になった高校生がいるのか…?」
「ああ、それは…」
赤嘴が俺の質問に答えようとした時、
「皆様方、お集まりでしょうか。」
祭壇の後ろの扉から、男性と女性の聖職者の人が、歩いてくる。
「お、また聖職者の人ー?」
鳴上がニマッと笑う。
そしてその2人は、俺たちの近くまで来る。
「まずは初めまして。私はこの大聖堂で大司教を務めております。ルーゼス・ヒューゼントと申します。以後お見知り置きを。そしてこちらが、私の補佐をしております。」
「ミュイ・ライエンスと申します。」
ルーゼスと名乗った眼鏡をかけた青髪の男性。身長は180以上あるな…、でかい。
物腰の柔らかい整った顔で、すごい優しそうだ。
そしてミュイと名乗った女性、身長的にはリィシアさんより少し小さい?か。
薄紫の髪と整った顔立ち…、なんというかここの聖職者、美男美女揃いだな…。
その後、ルシーナさんとリィシアさんも、ルーゼスさんとミュイさんの隣に並び、4人一列になる
「…では、改めまして皆様方。この度はよく、この大聖堂にお集まり頂きました。」
ルーゼスさんが話し始める。
「皆様…特に偉刀様に至りましてはつい先程の出来事でしたので、混乱されていると思われますが、今回はこの惑星ジェリタへ、皆様方が転移なされた経緯を、このお方よりお話させて頂きます…。」
来た…ルシーナさんたちが口にしていたあの方とやらだ。
すると、聖堂の窓にカーテンがかかり、あかりが消される。
「…儀式か?」
赤嘴が言う。
すると、
「
そうルーゼスさんがつぶやくと、祭壇がみるみるうちに、まさに神が座るような玉座になっていった。
「す、すご…」
竜崎がつぶやく。
そして、
「おお、我らが神よ!どうか我らの願いにお応えください!光が
ルーゼスさんが、さっきの様子からはまったく想像できない、力強い声で言葉を放つ。
それくらい迫力が凄かった。
まさに大司教って感じだ。
その途端、ルーゼスさんの作った玉座に、白い魔法陣のようなものが出てくる。
なんだ、なにか出てくるのか…?!
カッ…!
その時、魔法陣から、縦に眩い光が出てくる。
「ぐわっ」
「眩しいっ!」
「くっ…」
俺たちは眩しさに目を瞑った。
『来たぞ』
眩い光の中、そんな声がした。
そしてパッと、瞼の先から光がなくなる。
目を開くとそこには、
『どうやら揃っておるようじゃな』
玉座に座る、まるで雪のように白い女性がいた。
「おお、我らが神イヴァ様!この度はお忙しい中御足労頂き、誠に感謝いたします!」
その途端、ルーゼスさんたち聖職者の4人は一斉に両膝を地面につき、手を組んで頭を下げる。
「え、な、何コレ?」
さっきまでへらへらしていた鳴上の顔が、引きつっていた。
「これ…、本当に現実か?」
冷静だった赤嘴も、困惑している。
ルーゼスさんたちは、座っている人をイヴァ様と呼んで、頭を下げた。
イヴァ様って、ルシーナさんが話してた、俺たちを転移させた神だったっけか…。
後ほど、あの方からお話がある…か。
おいおい…。
あの方って、転移させた神本人かよ…!
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