#3.アストニカの住人

俺はリィシアさんについて行き、大聖堂に行くために城下町を歩く。


にしても、ほんとこの街ゲームの世界みたいだな。時代的には中世って感じか。


…でも、日本じゃ見慣れた電線とか車とかは無いわけか。



この世界での生活、ちょっと不便かもな。



「ああ、そういえば、偉刀いとう様に説明しそびれていたことがございました!」


俺が色々考えていると、リィシアさんがこっちを振り向く。


「ん?なんですか?」


「なぜ偉刀様が、私たちジェリタの人間の言葉が分かるのか、についてです。」


「…あぁ!」


なんか色々あって忘れかけてた、そうだよ、なんで通じるのか気になってたんだ。


「実は偉刀様が思っているよりも複雑じゃないんですよ、転移した時の恩恵で、言語理解コンプリヘンションといいます。全くのゼロからこの世界での生活を始めるのは、流石に酷ですからね。」


ああ、ゲームで言う初期値とか、最初からある能力みたいなもんか。


「へぇ、じゃあ、他にも何か恩恵があるんですか?」


「はい、先程話した言語理解の他に、異次元に物をしまえるアイテムボックスや、投影魔法プロジェクションがありますね。」


「投影魔法…?」


「ええと、例えば自分のステータスを出したい時や、頭の中の映像を相手に見せるのに使用できます!」


ああ、ルシーナさんが俺に使ってたあのスクリーンみたいなやつか。


便利な能力だな。


てかリィシアさん、意外としっかり説明してくれるし、前言撤回しよう。この人で大丈夫か?なんて思ってしまってすみません。


心の中でリィシアさんに謝る。



すると、リィシアさんが俺に近づいて、少し声を抑えて話し始める。


「でも気をつけてください…。恩恵が使えるのは転移者と一部の職業の者だけです。安易に人前で使うと騒ぎになってしまいますので…。」


「な、なるほど…。分かりました。」


確かに、面倒事に巻き込まれるのは嫌だしな。気をつけよう…。


そんな感じで話していると、繁華街に出る。


色んな露店が出ていて、人も結構いる。


…ただ、


「なんか、あんまり活気がないですね?」


そう。イメージしていた店主の元気な声も、人の笑い声もあんまり聞こえてこない。


みんなどこか暗い感じがするんだよな。


「はい…、実は先日から貿易路が止まってまして、商品の輸入ができていないんです。」


「ああ、それでか。」


品薄だと店側も客も困るよなぁ。



「おい、こんなにすんのかよ?!」



「ん?」


奥の露天から男のでかい声がする。


少しできた人だかりを避けながら、声のした方へ向かう。


「高いって言われてもな、今は品薄でどうしても高くなっちまうんだよ。」


「でもよ、トマト1個に銅貨2枚は高いだろ?!」


銅貨…?


「リィシアさん、銅貨ってなんですか?」


「銅貨はこの世界の通貨です。銅貨1枚は、日本で言うと100円くらいになりますね。」


てことは、銅貨2枚は200円か…!


トマト1個に200円は確かに高いな…。


「ちなみに、銀貨1枚が1000円で、金貨1枚が1万円くらいだと思ってもらえれば大丈夫です。」


…これからしばらく買い物とかするわけだし、覚えておくか。


「なるほど、分かりました。…てか、値段が高いのは貿易路が止まってるせいですか?」


「はい。ここアストニカは果物は豊富なのですが、ほかは輸入に頼っているので、こういう状況だとほとんどの物価は高くなってしまいますね。」


日本でも物価高騰とかで値上がりしてたしな、どこの国でも抱える苦労は同じってことか。



グッ〜



「あっ」


「ふふっ、お腹、すきましたか?」


割と大きめの音が出てしまった、恥ずい!


何か露店で買って食べたいけど…、あっ


「でも、俺お金ないです。」


「あ、そうでしたね…、では今回は私が奢ります!」


「え、い、いいんですか?!」


「こういう時のために手持ちは結構ありますので、問題ありませんよ。」


うーん…、初対面の女性に奢ってもらうのはなんだか申し訳ないが、仕方がないか…。


「…じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね。」


「大丈夫です!悩める人を助けるのが聖職者の仕事ですから。」


おおっ、初めてリィシアさんの聖職者っぽいところ見たかも。


「では、私のオススメの店に行きましょ…ぐへっ!」


…と思った途端にリィシアさんが道の石畳につまずいて転ぶ。


「ううっ…痛い…。」



やっぱこの人ドジっ子キャラなのかもな…。



「大丈夫ですか?」


「あ、あはは、すみません…。」


俺はリィシアさんの腕を掴んで、引っ張り起こす。


「おわっ、い、偉刀様、意外と力あるんですね…。失礼ですが、何か体を動かすこととかしてたんですか?」


「え?そうですか?特には何もして無いですけど…。」


強いていえば高校デビューの為にと思って、しばらく続けてた筋トレくらいか。


「そ、そうですか!あ、あはは。」


「…何かありました?」


「い、いえ!なんでもないです!ほんとに!はい!で、では、改めて、お店に行きましょうか!」


「…?」


リィシアさん、なんか焦ってるな…。


まあ、なんでもないって言ってるし、深く聞くのも良くないか。


腹もすいたし、早く店に行こう。



俺は、何故かさっきより歩くのが早くなったリィシアさんの後を追う。



















「ここです!私イチオシの店になります!」


「おお…。」


店はザ・洋食屋という感じで、看板に大きく「食事処アストニカ1番」と書いてあった。


てか、言語理解のおかげで文字もスムーズに読めるな…。


「ここはお店の名前とおり、アストニカで一番美味しいお店で、王都の人にも人気なんですよ!」


「へぇ、それは楽しみですね。」



期待が高まるな。



カランカランッ


「いらっしゃい。」


店のドアを開けるとベルが鳴り、店主さんが厨房から顔を覗かす。


…髭面にコック帽。これまたイメージ通りだな。


ちょっと顔が怖いけど。



店には数人の人がいた。



「こんにちはノルグさん!」


「お、なんだリィシアじゃねえか。今日はいつもより早いな。」


店主…ノルグさんがリィシアさんに話し掛ける。知り合いなのか?


「はい。今日はこの方がいるので、早めに来たんです。」


「そうかそうか、兄ちゃん、この店は初めてだよな?これがメニュー表だ。好きなのを選んでくれ。」


ノルグさんが俺にメニューを渡してくる。


なんだ、意外と気さくな人だな。


「あ、はい。ありがとうございます。」


俺は近くの席に座り、メニューを開く。



おお、色々あるな。



ええっと…トータスと野菜の季節風炒め…?


こっちは…ブラックボアのステーキ…?


なんだ?どんな生き物なんだこれ?


あ、ロブスターのグラタンはわかるな…って銀貨5枚?!高っ!


「あのー、リィシアさん。このトータスとか、ブラックボアってなんですか?」


「え、ああ!えっとですね…、ちょっと待ってください。」


そういうとリィシアさんは、肩にかけているカバンから分厚い本を取り出す。


そしてパラパラと本をめくって、指で字をなぞると、


「…ああ、ありました!えっと、トータスはリクガメのことで、ボアはイノシシですよ。」


「あ、ああ、そうなんですね…。」


なんだ、もしかしてあの本、日本人向けのマニュアルみたいなやつなのか?



にしても、リクガメって食えるのね…。


…待てよ、日本でもボアってイノシシって意味じゃなかったか…?!



うーん、勉強してなかったせいで分からない…!


なんか、リィシアさんに余分なことを聞いたみたいで申し訳ないな…。


「あ、てか、ロブスターってこんな高価なんですね、驚きました。」


「ああ、それか…。兄ちゃんも知ってると思うが、今は貿易路が止まっててな、そのせいで港からの輸入品も来ないもんだから、特に海鮮物は高くなっちまうんだよ。すまねえな。」


ノルグさんが俺の質問に答える。


そりゃそうだよな、港から距離のある場所なら尚更か。


「いや、ノルグさんが謝ることじゃないですよ。貿易路が止まってるのはあなたのせいじゃないですし…。」


「そうか…、ありがとうな。」


ノルグさんがニカッと笑う。


…いい人なんだな、よし。


「いえいえ、…じゃあ、このブラックボアのステーキでお願いします。」


「おっ、兄ちゃんそれを選んでくれるとは嬉しいぜ。リィシアはいつものでいいか?」


「あ、はい!お願いします。」


「よしわかった。今から作るから待っていてくれよ。」


ノルグさんは俺たちの注文を受けて、厨房へ戻って行った。


「あの、」


すると、リィシアさんが話しかけてくる。


「偉刀様、ノルグさんの得意料理、どこで知ったんですか?」


「え?いや、何となくですよ。」


やっぱこの料理、何かしらあったのか。


この料理見出しも大きいし、ノルグさん、話しながら時々ステーキのページに目がいってたしな。


結果、喜んでもらえたみたいでよかった。


「…偉刀様って実は、とんでもなくすごい方なのでは?」


…ん?


「え?いや、そんなことないと思いますけど…。」


「…そうですか?」


「そうですよ。」


学校に馴染めなかったせいで、常に人を眺めてばっかだったから、人間観察はちょっと得意だが、それくらいのもんだ。


褒められるほどのことでもないと思うが。






















…めちゃくちゃ美味かった。


イノシシ肉って聞いて一瞬美味しいのか?と思ったが、めちゃくちゃ美味かった。


ノルグさんの味付けもあるんだろうな、美味かった。



美味かったって3回も言っちゃったな。



ちなみに、リィシアさんはナポリタンだった。この世界にナポリタンあるんですねー。



「ごちそうさまでしたー!」


「ごちそうさまでした、美味しかったです。」


「おう!また来てくれよな!」




腹も満足した俺は、リィシアさんと一緒に洋食屋を出た。

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