第一章 王都アストニカ編

#2.二人の聖職者

「うっ……」


俺は、硬い地面の感触で目を覚ます。


うつ伏せの状態から体を起こした。



…ん?



あれ、俺生きてる?嘘だろ?



あの高さから落ちたんだぞ?



目の前の光景が現実か確かめるために、自分の手を開いたり握ったり、硬い大理石のような地面を触る。



…そういや、ここはどこなんだ?



分からないことだらけだ。



まだぼやけている目を擦りながら、周りを見渡す。


俺がいるのは、白一色で出来た天井の高い建物。


ここは教会…いや聖堂か?


昔やったゲームで見たような建物が、そのまま出てきた感じだな。



「目が覚めたようですね。」



その時、横から女性の声がした。


俺は声のした方へ視線を向ける。


そこにいたのは、いかにもゲームに出てきそうな聖職服を着た女性だった。



…てか、めちゃくちゃ美人だなこの人。



長い銀髪、シュッとした顔。青い瞳。


どう見ても日本人では無いとは思うが…、外国の人か?



思わず目が釘付けになる。



…ん?



いや待てよ、なんで俺この人の喋ってる言葉がわかるんだ?


待て待て、ほんと分からないことだらけすぎるぞ?!


こ、こうなったらこの人に聞くしか…!



「あ、あの、あなたは誰ですか?!というかここはどこですかね?!なんであなたの話してる言葉分かるんでしょうか?!てかなんで俺は生きてるんですか……。」



あっ…。



俺は思わず、聞きたいことを一気に喋ってしまった。



「…焦る気持ちも分かります。ですが、まずは落ち着いてください。」


「あ、はい。」


女性は少しだけ微笑みながら言う。



諭されてしまった。恥ずい。





「…では質問にひとつずつお答えしますね。」


女性は、胸の前で両手を組む。


「私は聖職者を生業としております、ルシーナ・ウェルティスタと申します。以後お見知り置き下さい。」


へー、ルシーナさんって言うのか、名前もオシャレだな。



てかやっぱ、外国人風の名前だな。



「次に、この場所についての質問にお答えしますね。」


そういうとルシーナさんは、持っている白い杖を自分の前にかざす。


投影魔法プロジェクション…」


ルシーナさんがボソッとなにか言う。


その途端、空中にテレビのスクリーンのような何かが現れる。


「うおっ」


思わず声が出た。…なんだこれ、魔法ってやつか?


てか、映ってるこれは…大陸…か?見たことない形だな。


「あなたが今いるここは、大陸セレイユの東側にある、王都アストニカの第四聖堂です。」


セ、セレイユ…?アストニカ…?


聞いたこともない地名だな。


俺が知らないだけで、地球のどこかにあったのかもな。


「……。」


俺が考えていると、ルシーナさんは黙り込んで、俺の目を見つめてくる。



しっかり見てもほんと美人だなこの人。



………。



「…申し訳ないのですが、あなたは何か勘違いされているようです。」


「…え?」


俺がほうけていると、ルシーナさんが口を開く。


「ここは、あなたの知っている世界ではありません。」


…何だって?


「…どういうことですか?」


「ここは、あなたが来た世界とは別の世界、この国がある星のことは皆、『ジェリタ』と呼んでいますよ。」


「じぇ、ジェリタ…?」


え?つまり?どういうこと…?


ここ、地球じゃないってことか?!


「え、いや、どういうことですか?!ここ地球じゃないんですか?!てか、なんで俺こんな所に飛ばされてるんですか?!」


「お、落ち着いてください!」


思わずルシーナさんに迫って聞いてしまった。


ルシーナさん、意外と焦るんだな…。









「す、すみませんでした。」


「いえ、お気持ちはよく分かりますから。気になされないでください。」


俺はあの後ルシーナさんから、一通り話を聞いた。


まとめるとこうだ。


ここは、俺のいた地球とは違う別の世界、別の星である惑星ジェリタという星であること。


そしてこの建物は、そんなジェリタにある大陸セレイユの東の大国、王都アストニカの第四聖堂であること。


そして俺は、この大陸全土で崇められている、イヴァという神の召喚魔法でこの地に飛ばされたこと。



ふむ、なるほど…。



……。



「いや、何で俺飛ばされたんですか!」



1番重要なこと聞いてませんよルシーナさん!



「えっと……」


「…ん?」


「それについてなのですが…。」


なんだ?ルシーナさん、急に言葉を濁すようになったな…。


「私の口からは説明できないのです。申し訳ございません。」


ルシーナさんは頭を下げる。


…どういうことだ?


「え、いや、なんで謝るんですか?てか話せないってどういう…。」


「私の口から話すことは、あるお方から禁じられているのです。いずれ、そのお方からお話があると思いますので、その時にでも。」


「…なるほど。」


なんか、これ以上は聞き出せそうにないし、飛ばされた理由がすごく気になるが、ひとまず置いておこう。


知りたかったら、そのあるお方とやらに直接聞くしかなさそうだしな。



バンッ



その時、俺の後ろからドアが思い切り開く音がする。



「お、遅れて申し訳ございません!」



開け放たれた聖堂の入口の前には、ルシーナさんと同じ聖職服を着た、金髪の女性がいた。


ルシーナさんに比べて少し幼いだろうか。


「リィシア…、遅刻厳禁と言ったはずですよ?」


「す、すみません!準備に時間がかかってしまいま…うわぁっ!」


ルシーナさんにリィシアと呼ばれた女性が、自分の足を絡ませて盛大に転ぶ。



痛そうだな…。



「いたたたっ…」


リィシア?さんは立ち上がり、おでこをこすりながらこっちに向かってくる。


「事前準備はしておくようあれほど言ったはずですが…。」


「はい、おっしゃる通りです…。」


ルシーナさんの前で落ち込むリィシアさん。



なんか、遅刻したり転んだり、アニメによくいるドジっ子キャラみたいだな…。



「リィシア、彼が昨日話した転移者の方です。ご挨拶を。」


ルシーナさんが俺に手を向ける。


「あ、はい!えっと、初めまして!聖職者を生業にしています、リィシア・エルフィースと申します!よろしくお願いします!」


リィシアさんが俺に頭を下げる。


そして被っていた聖職帽が落ちる。


「あ、あわわ、す、すみません!」



なんか、本当にドジっ子キャラだな。



「はぁ…。」


ルシーナさんが小さくため息をつく。多分色々苦労してるんだろうな。



「す、すみません…。取り乱しました。」


リィシアさんが聖職帽を被り直して、俺に向き直る。


「で、では、偉刀いとう様。このリィシアが、しばらくあなたのサポート役を致しますので。よろしくお願いします!」


「…サポート?」


リィシアさんの言ってる意味がよく分からなかった。なんだ?サポートって。


「はい。偉刀様はこの世界に来たばかりですから、分からないことも多いかと思いますので、しばらく私がサポートとしてお付きさせていただきます!」


あ、なるほど。確かにガイドがいてくれた方が頼もしいしな。


…でも、リィシアさんか…。



いや、初対面ですごく失礼なのは分かっているが、ルシーナさんの第一印象が優秀そうなのに対して、リィシアさんはドジっ子みたいな部分しか見てないからなぁ…。


ガイドをしてくれるのは凄くありがたいんだが、リィシアさんよりは、ルシーナさんにガイドを頼みたいなと、すこーしだけ思ってしまった。



「…偉刀様。心配はございません。リィシアはこう見えて優秀ですから。」


「え、あ、そうですか…。」


…この人、実は俺の心が読めるんじゃないのか?


さっき俺が、ここを地球だと勘違いしていた時もそうだ。ルシーナさんの見えない能力がちょっと怖い。


「ゆ、優秀…!ルシーナさんが私を…!はわわわ…!」


そして当のリィシアさんはルシーナさんに優秀と言われたのが嬉しかったのか、両手を頬に当ててくねくねしていた。



…本当にこの人で大丈夫なのか…?







「では、これからアストニカ大聖堂に向かって頂きます。私は別の仕事を済ませてから向かいますので…、リィシア、偉刀様をしっかりと案内してくださいね。」


ルシーナさんが、リィシアさんにそう言う。


大聖堂か、ここは第四聖堂と言ってたし、多分ここよりでかくて立派なんだろうな。


「承知しました!偉刀様、参りましょう!」


リィシアさんがさっきより目に見えてワクワクしている。


…まあ、元気じゃない人よりはこれくらいハキハキしてる人の方がいいか。


「はい、よろしくお願いします。」



俺は元気よく歩き出すリィシアさんの後を追い、第四聖堂から出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る