Lost50 -ロストフィフティ-

しえりす

第0章 光

#1.あの日のこと

「んっー…はぁ、疲れた。」


背伸びをして、凝った肩を軽く回す。


いつもと違って、随分と遅くなっちまったな。


俺、偉刀久哉いとうひさやは、すっかり暗くなった道を歩きはじめる。



こうなったのも1週間前─────





「──よーし、これが今回の中間テストの結果だ、今回は全体的に問題の難易度が低かったのもあって、平均点は例年より高めだなー。」


俺のクラスの担任が、黒板に中間テストの結果を張り出す。


その結果にクラス内では喜ぶ声や悔しがる声が聞こえる。


それをボッーと眺めていると…


「おい偉刀!」


「うぇ、…はい?」


唐突に担任に名前を呼ばれる。


「まったく…、ボッーとしてるんじゃないぞ。お前はまた赤点ばかりじゃないか!もちろん赤点教科は補習だからな!忘れるんじゃないぞ!」


「え…あ、はい。すみません。」


「はあ、それに、髪とピアス!いつになったら直してくるんだ!何度も言わせるんじゃない!」


「すみません…」


担任の言葉に俺は力無く答える。


「あいつ、またかよ。」


「怒られてやんの〜」


クラスメイトの声が聞こえる。


髪とピアスについても言われてしまった。


高校デビュー気取りで金髪に染めて、ピアスも両耳ひとつずつ開けたけど、初日から思い切り失敗した。


そこからやめるのもなんだか負けた気がして、惰性で今日まで、注意されても続けてきたんだが…。


そろそろヤメ時かもしれないな。



てか、まじ?また赤点ばっかなのか。


うーん、今回の中間は上手くいったと思ったんだが…。


黒板に貼られているテストの結果を見る。


俺の結果は…、うん。理科の植物のテスト以外全部ダメだった。


…いや、なんなら植物のテストもギリギリだなコレ。」


「はぁ…」


思わずため息が出る。


「はぁ…じゃない!嫌なら最初から勉強しておけー!」


担任がそんな俺に怒る。


「す、すみません!!」


俺も声を大きくした。






その後の今日、四教科しっかり補習になって、他にいた何人かの生徒が帰っていく中、俺は1人、三人の先生に囲まれて日が暮れるまで再テストをした。


終わった頃には、先生たちも目に見えて疲れていたから、なんだか申し訳なかった。



………よし、髪とピアス。明日にでも戻すか。



反省だ。流石に学校に迷惑をかけすぎてるしな。


勉強も…、頑張ろう。


俺は反省しつつ、スマホで時間を確認する。時刻は午後8時前。


想定してたより遅くなったなと思いながら、通知で入っていた『しゃべったらー』の投稿を開く。


投稿内容は、行方不明になった高校生49人がどこに行ってしまったのか…という考察だった。


「またこの話題か。」


『高校生連続行方不明事件』。


文字通り、現状49人の高校生が次々と行方不明になっている事件だ。


1年くらい前から始まったこの事件は、物的証拠が全くなく、共通点は高校生であること、謎の光が現れることだけらしい。

そんなこともあって、この事件は今世紀最大の未解決事件として色んなところで話題に上がっている。


「はぁ……、ええ?またか…。」


そのせいで、どれだけスクロールしても同じような内容ばっか流れる時がある。


おかげで見たい投稿が遮られて、正直なところ困っている。


第一、人が居なくなってる事件を面白おかしくまとめてる投稿とか、関係者に失礼だと思わないのか?


そういうのもあって、最近は関連投稿をブロックしてるが、たまにこうしてまとめて流れてくる時があるんだよな。


ため息をつきながら俺は、慣れた手つきで非表示設定作業に入る。


スマホの画面に集中しつつ、モノにぶつからないよういつもの帰路を歩く。



すると、目の前から白い光に照らされた気がした。


「車か?」


確認するために画面から目を離して、前を見た。



「…ん?」



目の前にあったのは…、白い光で出来た、俺くらいの大きさの楕円みたいな''ナニカ''だった。


「え、なにこれ…。」


そのナニカは、その場から動かない。


なんか、ゲームとかによくある魔法のゲート?みたいだな…。


その光を何となく眺めていると、


「あれ…なんか、でかくなってる?」


ナニカが大きくなってるような気がした。


いや、大きくなりながら、近づいてきてるのか…?



…なんだか、嫌な予感がする。



あれ、これってもしかして…。



俺は、行方不明事件関連の投稿を思い出す。



今までの事件で全て関連するのは、行方不明者が消える時に必ず



…これって、その謎の光だったりするのか?



いやとにかく、この光はやばそうだな…。



俺はそのナニカから離れるために、来た道を戻ろうと後ろを振り返った。


が、



「え…」



その後ろにも、俺の前に現れたナニカと同じようなものがあった。


そして、その後ろにあるナニカ?も少しずつ大きくなっていた。


…逃げ場が無い。


「あれ、これやばくね…?」


そう思った時だった、ナニカがぶわっと大きく広がり、俺の視界を眩い白1色にした。


「うわ、眩しいっ!」


思わず目を瞑る。









その途端、体が宙に浮くような感覚になる。


「えっ」


思わず目を開ける。






そして、体にブワッとする感覚が走る。


こ、この感覚って…!




「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ?!」




俺、高いところから落ちてる?!




だんだんと白い光が消えて、視界がはっきりしてきた。


俺の目に映ったのは、すごく下に見える、一面緑だらけの地面だった。


め、めちゃくちゃ高ぇ!!



てか



「こ、これ、絶対死ぬやつうううう!!」



まだ地面までは距離があるけど、これ間違いなく死ぬやつだ!やべえ!


こ、こういう時どうすればいいんだっけか?!



全力で思い出す。



なんか、水よりは木とか牧草の塊とかの方が生存率上がるとか、『よーつべ』のショート動画で言ってた気がする!


とりあえず、全力で森を探す。


左の方に、大きめの森が見えた。



よし。



俺は意を決して、左の方へ体がむくように、そこに落ちるようなイメージで体を動かす。


死ぬよりはマシだぁぁぁぁ!!



が、



「あれ、体が…。」



左に進もうとしても、体が自然と右側に逸れていく。


右の方には街があるっぽいけど…。


て、そんなこと言ってる場合じゃねえ!



「こ、このままじゃ、街に落ちるっ!」



どんだけ体を左へ向けても、引っ張られるように街の方へ落ちていく。



そうこうしているうちに、どんどん地面が近づいてきた。


俺の体は、中世のような街の端にある、白一色の建物に落ちようとしていた。



あ、あああ…!



「し、死ぬううううううう!!」



俺は目を瞑った。














「はぁ…、はぁ…、遅れちゃう…!」


私は聖堂に向かうため、聖堂に続く階段を急いで登る。


まさかこんな大事な日に寝坊するなんて…!


聖職服を昨日のうちに整えておかなかったのが悪かったんだ…。


うぅ、昨日のことを悔やんでも仕方がない。


今は一刻も早く聖堂に行かなくては…!



その時、



ドーンッ!



大きな音と共に、聖堂の方に落ちる白い稲妻のようなものが見えた。


あれは…間違いない、昨日伝えられた今回の儀式の始まりの合図…!



「わ、わぁぁ!始まっちゃう!」



私はさっきよりも早足で階段を上った。

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