第3話 喫煙所とアメスピ

「しかし喫煙所も少ないねぇ。」


「時代だな。昔は駅のホームで吸えたの信じられないよ。」


「タバコって吸うとめっちゃうんこしたくなんのよ。」


「急なきめぇカミングアウトやめて。」


「いやこれマジで。昔の人はうんこ座りしながらタバコ吸って、うんこ出してそのタバコも便器に捨ててたんだって。」


「とんでもねぇ時代だな。」


「てかね、私最近肌荒れ酷いのよ。」


「そうか?遠目で見たら分かんないぞ」


「近くで見たら分かるのかよ。まぁだからこうやって野菜も頻繁に摂らないといけないのよ。健康的な生活しないと。」



「タバコの事サラダだと思ってる?そんなにケムリ撒き散らしてるやつが健康がどうのとか語らない方がいいよ。」


「私はアメスピだから。お医者さんはアメスピしか吸わないんだよ?」


「タバコの銘柄言われても分からんわ。吸ってない側からしたら全部同じに見える。」


「君は吸わないの?」


「1回吸ったことあるけどすぐむせちゃって

ダメだった。身体にあってないんだろうね。」


「まだそこかぁ。私はその壁乗り越えて今に至るから諦めないで。」


「乗り越えた先がヤニカスなら乗り越えなくていいや」


「誰がヤニカスだよ。酒カスのくせに」


「心外だな。酒が一滴も飲めないザコに言われたくないよ。」


「出たよ酒飲める奴が偉いみたいな風潮。呑めるって息巻いて結局調子乗ってゲロ吐いて記憶失くして財布無くして。はたしてどこが偉いのかなぁ?」


「それはただの痛い大学生だろ。こちとらちゃんと嗜んで飲んでんだよ。自分のキャパわかってない馬鹿と一緒にされたくないね。」


「ふーん。まぁ酔った浅川結構好きよ。何言ってるか分からないのにずっと話したがるのが滑稽で面白い。」


「滑稽って言うな。普段そっちが話してばっかりなんだから酔った時くらい良いだろ。」


「この間鷹ノ巣バーで飲んでた時も水分補給と快便の重要性について30分くらい熱弁してたし、初対面のおじさんと肩組んで私置き去りでずっと話してたし。お酒ってほんとに人変えちゃうんだね。こわいこわい」


「酒って人の本性を引き出すのか人の本性が変わるのかどっちだと思う?」


「後者じゃない?てか、後者であって欲しい。

もし前者なら、浅川の本性の部分を引き出せてないのはちょっと悔しいもん」


「なるほどね。俺は前者だな。多分人はみんな本性の前に扉があるんだよ。それも無限に近いくらいいっぱい。」


「幼い時はその扉が全部開いてるんだ。ただ、日々を過ごしていく中で、見せてはいけない本性、見せたくない本性、見せない方が都合がいい本性。そういう本性は段々と鍵がかかっていく。」


「お酒はその鍵を取ってくれるんだ。いい意味でも悪い意味でも。相手の本性なんて全部知らなくて良い。ただ、隠してた本性の緩みが見えた時に少しその人と仲良くなれる気がする。俺はそれが好きなんだ。」


「なるほど。納得しちゃうな。浅川のその緩みが見えた時、変に嬉しくなっちゃったもん。」


「だから香澄も隠してる本性が見えたらもっと仲良くなれるかもね。」


「それは無理な相談だよ。」


「だって私は良い女だからね。見えない部分が私を作ってるんだよ。」


「…そうかもな。」


「やっと吸い終わった。やっぱりアメスピはちょっと長いね。」








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いつまでも聞いていたい 阿久澤 @yaoshi

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