第3話 透明でいい
「で? ホントにそのまま別れちゃったんだ?」
ランチの時間、学食の陽の当たる席で昨日の話を聞かせたのは、友だちの
私の話を聞き終わると盛大に笑い飛ばしてくれた。
「だって馬鹿馬鹿しいじゃない? 甘えて欲しかったのオレ色に染まってくれだのってさ」
「そりゃそうだ。
「あれは……
「完全に、服に着られてたもんね」
大笑いをしながら涙を拭う菜緒子を睨む。
泣くほど笑うこと?
まあ、確かに私は森ガールにはなれなかったけどさ。
「それにしても、オレ色に染まって欲しいは、いいよねぇ~」
「笑い事じゃないよ。そんな理由で別れを切り出されるなんて、思ってもみなかったんだから」
「いいんじゃない? 好みの問題もあるんだろうけどさ~、遅かれ早かれ別れてたと思うよ? 祥太郎、もう少し誠実なヤツだと思っていたけど」
菜緒子はそう言いながら、窓の向こうを指さした。
学食から少し離れた中庭を歩くカップルが見える。
甘々なパステルカラーの可愛らしいコートに身を包み、フワフワとレース調の長いスカートを揺らす女の子が腕を組んで寄り添っている相手は、祥太郎だ。
「はぁっ!? え? なに? 昨日の今日でもう新しい女!?」
「知らなかったのはアンタだけだったらしいよ? 割と前からちょっかい出してたみたい」
「ちょ……マジでガッテムなんだけど! 昨日、あれこれ並び立ててた理由はなんだったのよ?」
「あたしもほんの数日前に聞いたばかりでさ。ただの噂だと思ってたんだけどねぇ」
また、菜緒子は大笑いをかます。
祥太郎のこと、なんだかんだ言っても本当はちゃんと好きだったから、それなりに傷ついたんだけれど、一気に冷めた。
「良かったじゃん? 早く別れてさ。長く付き合ったところで、優香はどうせ染まらなかったんじゃない?」
「そりゃあ……オレ色なんて、真っ平御免だけど……クッソ腹立つわね……」
「優香って普通だけど、意外と色がないよね? 誰かに引っ張られて自分を変えないっていうか……透明?」
「いいじゃん、透明。そうか、そうよね? 私は透明でいいんだよ。透明上等!」
空の食器をトレイに乗せて菜緒子の腕を引っ張ると、急いで学食を出て先回りをし、祥太郎たちとすれ違うようにして中庭を歩いた。
私の顔を見て、サッと表情を変える祥太郎の横を通り抜けざまに、小声でささやく。
「オレ色なんて気色悪い色に染まらなくて良かったわ」
キッと私を睨んで振り返ったものの、隣の新しい彼女に腕をガッチリ組まれて引っ張られ、なにも言い返せずに遠ざかっていった。
その後、祥太郎とはすれ違う程度の間柄になった。
例の新しい彼女とは、私と被っていた時期があったことがバレたらしく、すぐに振られたらしい。
ざまあないな、と菜緒子は笑っていた。
それでも、すぐにまた似たような甘々ファッションの女の子を捕まえていたから凄い。
よほど可愛らしいタイプが好きなんだろう。
「あれで、どうして私を気に入ったんだろう?」
「オレ色に染めたかったんでしょ? 優香って一見、大人しそうだから、染めやすいと思ったんじゃない?」
「それはそれでムカつくわ~」
「だよね。それでさ……」
菜緒子は少し声のトーンを落として、ニヤリと笑った。
「今度の祥太郎の彼女ね、ファッションや見た目は祥太郎のど真ん中じゃない?」
「うん」
「でもね、すっごいヤンデレらしいよ」
小声でそういったあと、周囲の注目を浴びるほど大きな声でガハガハと笑った。
一瞬、周りの視線が気になったけど……。
廊下の先で祥太郎が彼女にカバンで殴られているのが目に入り、私も思わず大声で笑ってしまった。
ホント、ざまあないわ。
-完-
小波さんのガッテムな恋愛事情 釜瑪秋摩 @flyingaway24
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