サンタクロース

セン

 

クリスマスには決まって、彼とイルミネーションを見に行く。彼といっても、彼氏ではない。ただの幼馴染である。

親同士の仲がよく、家も近い私達は、幼稚園、小学校、中高一貫校とすべて同じ所へ通っている。もはや腐れ縁としか言いようがない。


そんな私達は、それぞれお互いに好きな人がいる。

告白のタイミングを見計らっては、結局勇気が出ずに告えなくて、そのまま数年が経った。

クリスマスには慰め合うように、二人で駅前のイルミネーションを見に行くと言うのが、例年行事になってしまっていた。


何回目だったかは、覚えていない。その年も、私は好きな人に告白することができないまま、25日を迎えた。

また今年も、いつもと同じイルミネーションを見ることになるんだな、なんて思いながら、彼に連絡を入れた。しかし帰ってきたのは、「行けない」の一言だけだった。


私は『まさか彼女できた?』

と、冷たくかじかんだ指で、ガラケーに文字を打ち込んだ。詳しく訳を聞いてみれば、どうやら風邪を引いてしまったらしい。両親も出かけていて家に一人だというので、流石に心配になって、私はゼリーと飲み物を持って家まで見舞いに行くことにした。


彼の住む住宅街では、それぞれのお家がクリスマスの飾り付けをしていて、年々、周りの家と競うように、外装が一層派手になっていく。その電飾で街灯がいらないくらいだった。

インターホンを押してみれば、ぐったりした様子の彼がよろよろと出てきた。

「うつすと悪いから」

と、かすれた声で彼が言う。続けて、

「告白できた?」と聞かれたので、

「出来なかったよ、今年も。」

と答えた。

私は彼に同じ事を聞き返した。分かりきっていたけれど、「出来なかった」と返ってきた。

私達駄目だね、とゼリーの入った袋を渡して、そのまま家へと帰ることにした。


私達はもう3年生で、高校生活は終わりを告げようとしている。卒業後は、好きな人とはバラバラの路へ進む。告白をするなら、今年が最後のチャンスだった。

私は雪の降る中、自販機で買った缶コーヒーで手を温めながら家へ向かった。

思えば、一人のクリスマスは久しぶりで、周りの家々の賑やかさも相まって、少し寂しさを感じた。

そんな住宅街をもうすぐ抜けるといったところで、コートのポケットに入ったガラケーが、一通のメールを知らせた。

彼からだった。

『イルミネーション行けなくてごめん。』

私は、気にしなくていいのに、と思いながら、小さな画面をスクロールした。

続きに書かれた一言は、あまりにも簡潔すぎて、思わずくすりと笑ってしまった。

私もそれを真似て、

『いいよ』

と、彼の言葉よりも短い一言で返した。


『付き合って』の、たった五文字。

その五文字は私にとって、今までで、何より嬉しいクリスマスプレゼントだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サンタクロース セン @sen_nes

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る