最終軒 契約
それにしても少し気持ちが悪い事件だし、この旦那さんは今何をしているのだろうか。別に俺は幽霊だとかそんなオカルトは信じていないし、全然気にしないけどさぁ、実際の人間は怖いよ。殺人鬼とかヤクザやカルトとかさ。
だからそれからまた、一つの疑念と不安を感じる。
・・・今住んでいる家は?
ってね。
一応に調べてみると、今度の物件はここ五年間でかなりの数のお客が借りては直ぐに契約解除してる。殆どが三か月~半年。契約の最低期間が過ぎて直ぐに解除を申請している。これもまた借家では不自然だった。
数が膨大だったから、関連事件を調べるのも時間がかかってしまいもたもたしながら接客をしていて、確信がないまま数日が過ぎていく最中、一人の男性が来店して俺がタイミングよく担当になってしまった・・・・・・
なんでそんな言い方をするかって言うと、その男はこう言ったんだ。
「○○の場所の一軒家の借家、また借りれますか?」
と、例の俺が前に少しだけ住んでた『鮮血物件』を指名してきたんだ。
『また?』ってこの時、一瞬引っ掛かったしそもそも一軒家を指名で借りるって珍しいよね。普通は大半がマンションやアパートだろ?男の一人暮らしっぽかったし。もちろん、たまに超節約家や詳しいような人が借家を指定してくる場合もあるけどね。車持ちで駐車場代を考えると借家の方が断然安くなるし、そもそも借家を貸し出す人も殆どがなんらかの事情があって買った物件を貸し出すので、立地が良くてマンションよりも安い場合が多々あるんだよ。後は介護が必要だとかペットを飼っているとかならよくあるし分るんだけどね。
「あ、ちょうど良く今なら開いてますよ。内見に行かれますか?」
俺も以前の夫婦も合計で三か月程度しか住んでいなかったので、大掛かりな清掃も必要がなく直ぐに提供できる状態ではあった。
内心はちょっと不穏になりながら、とりあえず正体が分からないから通常の接客をしていこうとすると
「ああ、いいです大丈夫です。できれば急ぎたいので早速、手続きして下さい」
って。また、簡単に時短で契約を取れるんだから当然俺は言われるがまま契約書に記入してもらい、専任の取引主任者兼事務員からの説明を聞いてもらっている間、俺はデータ入力しようとした時、この男性の名前を見て数十秒間フリーズしたね。そこには
氏名:『
と書かれていた。
この数十秒間で色々考えたよ。そもそも、俺の中で証拠もなにも無いんだけど、勝手にこの旦那さんが怪しいと想像してしまっていた。
どんな想像かって?例えば『嫁と子供を殺してしまって、遺体をどこかに隠したんだろう』とか・・・・・・
いやいや、きっと行方不明になった家族がもしかしたら住んでいた家に帰ってくるかもしれない、そう思い契約し直しにきたんだ、とか。
でも、俺は直ぐにこの仕事を辞めた。決め手はこの男、金子が契約処理が終わって最後に言ったセリフが
「住み心地は、どうでした?」
俺は何も答えれなかった。即答が無かったからか男は契約書の控えを持って直ぐに立ち去っていった。
俺は不動産営業を辞めて直ぐ遠くに引っ越して、全部忘れるようにした。けど今でもニュースで「床下から遺体が出土」とか「壁から白骨化した死体」ってフレーズにはどうしても連想してしまい、思い出して動悸が激しくなってしまう。
・・・なんでそう思うのかって??・・・まぁ、君も住んでみると分かるよ・・・・・・
恐怖心が大分落ち着いたころぐらいに、でも流石に例の『鮮血物件』の周辺にはもう近寄れないから、俺の後に住んだ夫婦に話を聞きたいと思って必死に記憶をひねり出しながら、夫婦が引っ越した場所だろう所まで行って探してみたんだけど、全く見つけられなかった。あの後すぐにまた引っ越したかもしれないなぁ・・・・・・
~次故物件~ END
~次故物件~イメージ画⇩
https://kakuyomu.jp/users/silvaration/news/16818093073269365053
本編のオムニバス⇩他の作品もあります。
短編・実話怪談 「心霊”未遂”事件」⇩
短編ホラー『次故物件』【カクヨムコンテスト10短編用】 白銀比(シルヴァ・レイシオン) @silvaration
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