ドラゴンは艱難辛苦がお好き

夕夕夕タ

パイロット版①

"怪人オールド・ゴート率いるブラッド・スカルの名を聞いて震え上がらない奴は、モノの道理を知らないアホだ。"


 騙し、殺し、攫いに放火。悪事とされる事柄の中に、彼らが手を付けないものはない。

 7つの狡猾な知能と7つの残忍な気性。13の獰猛な瞳と11の冷たい辣腕。


 それが肉とワタをぐしゃまぜに飛び出して、ばらばらになって散らばっている。


「私が手を下すまでもない、だったか? ドラゴンカイン」


 大振りのナイフをしなやかに振るうと、血ヘド混じりの肉片が薄暗い壁にピッとへばりつく。深くかぶられたフードの下から夜風のように冷たい声が伝う。


「死ぬまで出し惜しみしてくれてもいいが、どうする」


 ドラゴンカインと呼ばれた男、身の丈に合わぬ豪奢な装いがかえって滑稽な痩せ男は血管を浮き立たせ、口角から泡を吹き、叫んだ。


「……ナメるなよ、カスが!」


 ちり、ぱり、ばちっ、ばりりっ……ごう!


 痩せ男の周囲に裂くような音が立つ。囁くようにか細かったそれは次第に大きさを増し、遂には光と熱を伴い轟いた。男を中心に、雷光が走っている。


 焦げた臭いと共に、瘦せ男の頭を艶やかな金に飾っていた髪粉と、それを馴染ませ撫でつけていた香油が焼け落ちていく。

 赤茶けた癖毛が露わになると、左右こめかみの辺りから頭蓋に沿うように弧を描き後頭部へと伸びていく金色の大角はその異様さを如実に現した。


「人間風情が、私にかなうとでも思っているのか!?」


 苛立ちを示威するように、鱗に覆われた長い尾が石畳を強く叩く。


 遺骨、返り血、欠け剥がれた鱗の一かけら。それら"竜の痕跡"を媒介にヒトの身で怪物にならんとした、もはやヒトではなくなった者たち。ドラゴンカイン。


「白けた灰ガラになって、死ね!」


 まとわりつく稲妻を意のままに指先へ集めた瘦せ男は、その手でフードの男を示した。示した頃には、その飾り気のない深緑のフードは背中へと開け放たれていて――


 鼻先を頂点に三角形を描く、太く、長い口吻。そこから覗く鋭い牙。白濁した瞳。ひだ状の分厚い皮膚で保護された首。これらを繋ぎ補強するギザギザと突出した無数の鱗。


 とても収まりきるはずのない、竜の頭がそこにあった。


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ドラゴンは艱難辛苦がお好き 夕夕夕タ @sekibata-yuta

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