様々な友人との交流
遠藤良二
様々な友人との交流
今日、僕はスーパーマーケットの面接を受けて来た。筆記試験もあった。僕は親と住んでいるので衣食住には困らない。ただ、貯金もしたいし、小遣いももっと欲しい。結婚もしたいから、ここで正社員を目指す。詳しくは訊いてないけれど、もしかしたら転勤もあるかもしれない。もし、結婚して子どもが出来たら、転勤するとしたら僕ひとりで行くことになるのかもしれない。それは寂しいなぁ。まあ、とりあえず採用になった訳じゃないから転勤のことを考えるのは早い。
僕の名前は
上司に、「何で辞めるんだ?」 と訊かれたのでそのまま答えると、上司は困った顔をしていた。「仕事では先輩だけど、二十歳くらい年上だもんな。慣れてきたらみんなそうなるよな。注意はするぞ? 命令しないでくれって。そしたら少しは変わるかもしれないぞ」「いえ、もう我慢の限界です。顔も見たくない」「そうかぁ……そこまで我慢してたのかぁ……なら仕方ないな。残念だがわかった。因みに、次の職場にいって気に食わないことがあったら我慢しないで上司に相談するんだぞ」 と言われた。 相談か、相談したくないな。自分達で話し合って解決したい。コンビニのおばちゃんとは話し合いをしようとしたが仕事が終わったらすぐ帰るし話す時間がなかった。失業保険には入っているから三ヶ月経てばお金は入る。それまで仕事が見付からなかった場合だが。
面接を受けてから四日が経過した。見事採用の電話がきた。「明後日から来て欲しい」と言っていた。両親にそのことを伝えると、「おお! よかったじゃないか」 と父親。「よかったね、頑張りなさい。何かあったら我慢しいないで言うのよ」 と母親まで相談しろと言う。僕のことをわかってないなぁ。まあ、僕も言わないから相手もわからないんだろうけれど。言いたくないから言わない。
まずは、新しい職場で頑張るさ! 普段遊ぶ友人三人にもLINEで伝えた。三人とも喜んでくれた。三人の内の一人が、<お祝いしよう!> と言ってくれた。残りの二人もグループLINEで、<お! いいな。祝ってやるよ> 賛同してくれたので嬉しい。
言い出しっぺの
彼らとは付き合いが長い。高校一年の頃からだから約十年。遊ぶ時はいつも全員一緒というわけではない。カラオケや忘年会、新年会などの時はみんなが集まるけれど、普通に喫茶店や家で喋る時は必ずしも全員集まらない。
全員独身で、僕以外には彼氏彼女がいる。僕も彼女が欲しいとは思っている。でも、なかなか出逢いがない。それよりも新しい職場に採用されたからまずは仕事を覚えるところから始めないと。彼女を作るためにはまず仕事から。お金がないと彼女が欲しいというものすら買ってやれない。自分のことも然り。
山川玄は高校の頃の部活の後輩と付き合っている。バスケ部だった。彼の様子を見ていると高校生の頃から好きなのではないかな。多分、付き合って三年が経つ。結婚しないのだろうか。まあ、それはあえて訊かないが。訊いてもいいかもしれないが、余計なお世話かもしれないから訊かない。
梶原優斗は職場の事務員と仲良くなり交際に至ったらしい。確か、去年の夏から付き合っているんじゃなかったかな。だから、約一年経過するだろう。年上って言っていたな。いくつ年上かは訊いてないけれど。梶原も結婚の話しはしてないな。
堀下真美は積極的な子で、自分から話しかける。聞いた話しに寄ると、彼氏には真美の方から告白したらしい。それも職場であるコンビニの店長と付き合っている。周りの従業員の目は気にならないのだろうか。まあ、余計なことは言わないけれど。店長は四十代らしい。
僕はいつになったら彼女が出来るのやら。 今日は初出勤の日。僕の担当部門はグロッサリ―といって、商品はお菓子やペットフード、お酒やジュースなど店内で一番規模の大きな部門。勤務時間は五時間で午前九時から午後三時まで。果たして上手くいくだろうか。パートのおばちゃん達がうるさくなければいいが。
朝礼で僕はみんなの前で自己紹介した。「みなさん、おはようございます。僕は柳生哲夫といいます。一生懸命働くのでよろしくお願いします!」 若干、気合いを入れて喋った。 ショートカットのおばちゃんが、「お兄ちゃん、よろしくね!」「はい!」 僕は元気に返事をした。「名前が哲夫だから、てっちゃんって呼んでいいかい?」(何でもいい) と思ったので、「はい、何でもいいですよ」「あたしゃね、
山城さんは三十代前半くらいかな。真面目で優しそうな女性だ。既婚者だろうか。僕のタイプの女性。初出勤でいきなり好みのタイプの女性に出会うとは。見た目だけだが。性格はまだわからない。店長は、「じゃあ、今日もがんばりましょう!」「はい!」 とみんなが威勢よく返事をした。店長が近づいて来て、「山城さん、ちょっといい?」「はい」「まずは品出しから始めてくれ。それ以降の仕事は主任に訊いて」「わかりました」 山城さんは、従順なタイプのようだ。僕も似たようなタイプだが。「柳生さんはここに来る前は何処にいたの?」「コンビニで八年間働いていました」 彼女は驚いた顔をして僕の顔を見た。「八年!? 長いわね」「はい、でも事情があって退職しました」「事情、そうなんだ。ここの職場はみんないいひとばかりだから、働き続けられると思うよ」(ほんとかな) と思ったが、「そうですか、がんばります!」「うん、その意気よ!」 「まずは、今朝来た商品の品出しから始めるわよ」 山城さんは、台車ごと引っ張ってきた。「まずはお米を出してね。コンビニでも習ったと思うけれど、先入れ先出しをしてね」「はい」 確かにコンビニで習った。日付の新しい商品は後ろに置いて、日付の古い商品は前に置くというもの。古いと言っても廃棄になる当日までは並べておく。
僕は緊張している。店の規模もコンビニと比べたら大きいし、初対面の人ばかりで名前はこれから覚えていこうと思っている。山城さんは覚えた。でも苗字はわかったが名前は訊いていない。 山城さんが言うには、「グロッサリーには従業員が四人いるの。その中で一番長いのが私。パートだけどね。主任もいるけど今日は午後から出勤なの。だから私に店長は言ったと思うの。本来なら主任が教えるんだけどね」 そう言って山城さんは笑った。その顔は若々しく感じた。可愛らしくも感じられた。 他のパートさん三人を紹介してくれるという。その三人を呼んで自己紹介してくれた。一人目は五十代くらいのおばさんで、山野さん。二人目は太っているのが特徴だと思う四十代くらいのおばさんで末崎さん。三人目はまだ若く、僕と同じくらいの男性従業員の田畑さん、と紹介された。みんな笑顔で明るい感じがした。僕も改めて自己紹介した。「僕は柳生哲夫といいます。一生懸命がんばりますのでよろしくお願いします!」 みんなから、こちらこそよろしくね、などと言われて受け入れてくれたので嬉しかった。五十代くらいの山野さんは、「柳生くんに教えるのは、主任と山城さん?」「一応、そういうことにはなってますけど、みんなも教えてあげてほしい」「わかったよ」
山城さんは、「荷物を降ろして品出ししてね。まずは、お酒から」 僕は、「わかりました」 と言いお酒コーナーに荷物を持って移動した。 四十代くらいの太っている末崎さんは、「入ったばかりだから焦らず商品のある場所を覚えてね」 優しい口調で言ってくれた。僕は、「わかりました。ありがとうございます」
ガシャンっと割れた音がした。僕は入って早々やらかしてしまった。ビールの瓶を落として割ってしまった。山城さんはすぐに駆け付けてくれて、「あらら、モップ持ってくる」 五十代くらいの山野さんは、「山城さんに付いて行ってほうきと塵取り持って来て」「わかりました、すみません」(何やってるんだ、僕は!) 自分に文句を言った。 僕は走って山城さんの後を付いて行った。
彼女に付いて行ってどこにほうきと塵取りがあるか訊いたらロッカーの中に入ってると言っていたのでまずロッカーを探した。事務所の入り口の横にあるよと言われ、行ってみるとあった。戸を開くと、ほうきと塵取りがあったのでそれを取り出し走って売り場に戻った。
ビールの臭いがする。「すみません……。品出しして早々割ってしまうなんて」 山城さんは、「まだ入ったばかりだから仕方ないけど、気をつけてね」「はい、わかりました。すみません」「末崎さんも言ってたけど、焦らなくていいよ。失敗した方が時間がかかるから」 僕は自分の仕出かしたことにショックを受けていた。(失敗したぁ……)
午後十二時五十分頃、主任と呼ばれる三十代くらいの人物が現れた。「君かい? 新しく入ったというのは」「はい、そうです。柳生哲夫といいます」「柳生さん、ぼくはね
今夜は僕の就職祝いの日。午後七時に予約してあるらしい。山川玄が率先して動いてくれている。やはり、持つべきものは友だ。親に話せないことも友人には話せたりする。 今は午後六時頃。僕はシャワーを浴びた。その後、髪を乾かした。黄色いTシャツとダメージジーンズに着替えた。香水を少し吹き掛けポケットにスマホと財布を入れ、車と家の鍵は手に持ち、母に、「出掛けてくるからー」 と言って、家を出た。 いちいち言うのは面倒だが、言わないとまたうるさく言われるので出掛ける時は言うようにしている。 そこはたまに行く居酒屋。ちょうど四人部屋の個室が空いていたのでその部屋を予約したようだった。店員には、「予約してあるんだけど」 と言うと、「予約してあるお名前は何といいますか?」「多分、山川玄、だと思います」 店員はレジを操作している。「えーと、山川様」 一人で口にしながら名前を探しているようだ。「十九時に予約されてますね。いらっしゃいませ。ご案内しますね」 僕は若い女性店員の後を付いて行った。「こちらのお席にどうぞ!」 店員は元気よく言った。「はい」 まだ、誰も来ていない。遅れるのかな。 僕が来てから数分して三人はやって来た。まるで約束してあったかのように。たまたまだろう。店内はそんなに混んではいない。 夏だから三人とも軽装だ。三人が入って来るなり僕は声をかけた。「よお! 一番最初に来てたわ」 梶原は、「早いな」 言いながらスマホを見た。「ああ、もう七時十分前か。早くはないな」 三人は苦笑いを浮かべていた。 僕は「早くはないと思うぞ」 そう言った。 山川は、「全員運転か?」 みんなに訊いた。「僕は運転だ」 真美は、「わたしは彼氏が迎えに来てくれる」 僕は、「優しい彼氏だな、ラブラブじゃねーか」 言うと、「まあね」 と真美はのろけた。 山川は、「まあ、座って話そうぜ」「そうだな」 真美は、「わたしは哲夫くんの横ー」 僕は内心嬉しかった。 梶原は、「何だ、柳生。モテるじゃねーか」 僕は声を出して笑ったあと、「そんなんじゃないだろ」 と言った。梶原は、「わかってるって、冗談だから」 そう言うとみんなで爆笑した。
店員がやって来て、ご注文がお決まりになりましたらそこの黒いボタンでお呼び下さい。そう言って去って行った。山川は言った。「まずはビールで乾杯だな」 彼はボタンを押した。ピンポーンと大きな音が聴こえた。「はーい! ただいま参りまーす!」 デカイ女性の声が聞こえた。すぐに声の主がやって来た。「ご注文をどうぞ」 山川は相変わらず仕切っていて、「生ビール四つ!」「はい!」「食べ物決めてなかったな。何がいい? 柳生がまず決めてくれ」 僕は、「そうだなー、焼き鳥アラカルトと鶏の唐揚げがいいな」「梶原は?」「おれは、フライドポテトと刺身盛り合わせだな」「真美は?」「うーん、そうねえ。小籠包と天ぷら盛り合わせ」「じゃあ俺は、イカ唐揚げと春巻きにする。お姉さん聞いてた?」「はい、復唱しますね。生ビール四つと、焼き鳥アラカルトと、フライドポテトと刺身の盛り合わせ、それから小籠包と天ぷら盛り合わせと、イカ唐揚げと春巻き。ですね?」 山川は、「そう! 全問正解!」 笑いながら言った。 僕は、「山川は相変わらずお茶らけてるな」 と言った。山川は、「真面目腐ってても、つまらないだろう」 僕に当てはまる言葉だったので言った。「僕は真面目腐ってる? つまらないか?」「柳生の場合は別だ。お前は面白い」 僕はあはは、と笑ってしまった。(ほんとに僕が面白いと思っているのかな) 女性店員は、「それでは失礼します」 言い、一礼をして立ち去った。 雑談しながら待っていると、先程の女性店員がやって来て、「生ビールお持ち致しました!」 と大きな声で威勢よく言った。「お! 来た来た!」 全員にビールが行き渡り乾杯の音頭を山川がした。「柳生哲夫、これからはもっと仕事が続くようにがんばってくれ! ではカンパーイ!!」 僕は全員とジョッキを割れない程度でぶつけ合い祝ってもらった。「みんな、ありがとう! がんばるわ!」 これは本心だ。
そして、料理が運ばれてきた。店員二人が両手に皿を持って。凄く美味しそうに見えた。僕は焼き鳥を一口食べた。塩コショーがきいていてとても美味しい。「みんなも食おうぜ!」 僕はそう言った。
久しぶりに全員で集まったから、話しに華がさいた。山川は二時間の呑み放題にしてあったから、みんな、かなり酔っているようだ。十九時に予約してあったから、二十一時までのコース。僕はスマホを見てみると、二十一時を五分ほど過ぎていた。山川に声を掛け、店を出ることにした。
みんな外に出て、僕は話した。「今日は僕のために集まってくれてありがとう! 明日から仕事だからがんばってくるわ!」 みんなそれぞれ、がんばれよとか、応援してると言ってくれた。嬉しい。「僕は帰るね。何度も言うけどありがとう!」 そう言ってタクシー代行で帰宅した。時刻は二十一時三十分くらい。
翌日。僕は午前五時半頃に目覚めた。アラームをかけておいたがその時刻は午前七時に鳴るように設定してあった。初出勤の日だから緊張しているのかもしれない。だから、早朝に覚醒したのかもしれない。眠くはないが二日酔いかもしれない。やばいな、水をたくさん飲んでみた。少しして何となく酔いがさめてきた気がする。よかった、一応マスクはしていくが。
午前六時半頃になって眠気が襲ってきた。もうすぐ起きなきゃいけない時間なのに。午前九時までに行けばいいから七時半まで寝ていよう。アラームをその時間にセットした。それでも寝過ごしてしまい、母に起こされた。「今日からスーパーマーケットの仕事でしょ! 起きなさい!」 僕の母は結構厳しい。特に仕事に関しては。でも、父は反対でそんなに厳しくない。仕事に関しても遅刻しても自業自得じゃないか、という考え方。好きなようにやらせてくれる。ただ、未成年じゃないから、責任は自分でとるんだぞ、と言われている。だから一概に厳しくないとは言い切れない。 今は夏だから、職場までは自転車で行くけど、冬になったら母の車を借りるか、中古の車を買うかどちらかになるだろう。もし、中古車を買うとしたら銀行からお金を借りないといけない。パート従業員だから貸してくれるかどうかが問題。
母が作ってくれた朝ご飯を食べて、歯を磨き、赤いTシャツを着てジーンズを履いた。僕は身長が百八十センチあるので足も長い。だから、ジーンズを買う時も、大きいサイズ、の売り場に行かないと売ってない。それと、僕は収入が少ないから安いものを選んで買わなければならない。服にしても然り。最低でも三Lじゃないと小さい。
何でこんなに太ったかと言うと、ストレスが原因かと思う。食べて寝るを繰り返したせいで胸やけが酷くなり、胃カメラを飲むことになった。初めての胃カメラ。鼻からの方が楽だと聞いたのでそうすることにした。 結果は逆流性食道炎。薬を飲むはめになってしまった。なので、毎月病院通い。
時刻は八時三十分。さて、行くか。面倒だが、働かないとお金がない。二十六歳にもなって親から小遣いを貰うのは恥ずかしくてできないし。こんな僕でもプライドというものがある。自分の小遣いくらい自分で稼がないと。
梶原は小遣いがなくなった時だけ、親から借りているらしい。前に本人から訊いたことがある。そこが甘いと思う。小遣いがなくならないように予算を組まないといけない。僕は一日にいくらまで使っていいか決めている。それプラス貯金をしていた。家にも少しだが入れていた。そういうふうに僕はやり繰りをしていた。真美はしっかりしているよね、と言っていた。褒められて嬉しかった。
さっき真美からLINEがきた。彼氏との間に子どもが出来たらしい。だから、結婚するという。おめでたい話しだ。他の友達にもLINEで伝えたらしい。みんな、喜んでくれたという。でも、彼女の父親は出産は反対したという。籍を入れてから子どもを作れ! 中絶しろ! と言われたらしい。彼女の父は変わっているな、何で素直に喜べないのだろう。真美は父の言うことはきかないという。出産するらしい。僕も出産すべきだと思う。せっかく授かった小さな命なのに。
母は出産に賛成しているらしい。両親の意見の食い違いでかなり揉めたらしい。真美から聞いた話しでは、「お父さんの言っていることは酷過ぎる、結婚してからまた作ればいいだけの話しだろ」 そう言われたらしい。彼女は泣きながら反論したようだ。「そんな酷い話しないよ! お腹にいる子にはお腹の子にしかない特徴があるかもしれない。それを大切にしたい!」 傍にいた母も真美の意見に賛同したらしい。確かに僕も彼女が言っていることに賛成だ。お父さんは人の命を軽んじていると思う。そう真美に言うと、だよね! お父さんがあんな酷い人だとは思わなかったと言っていた。 お父さんは娘に軽蔑されていることに気付いていないのかな。もし、そうだとしたら鈍感だし、痛いと思う。
「わたしは絶対産むからね!」 真美は自分の気持ちを譲らなかった。でも、それでいいと思う。せっかく授かった命だから大切にしないと、と僕は思う。この気持ちは真美も同じ。他の友達も中絶なんて論外だと言うだろう。「勝手にしろ! その代わり、親の手を借りようとするな!」「わかったわよ! 旦那になる人と力を合わせてがんばるわよ! 孫の顔だって見せないからね!」「ああ、見なくていい!」 母が割って入る。「二人ともそれくらいにしておきな。真美もこれ以上いたら母体によくないから今日のところは帰りなさい」 真美は何も言わず家を出た。そして力いっぱい玄関のドアを閉めた。
因みに、真美は彼氏と同棲している。彼女は今日あったことを彼氏に言ったようだ。後から彼女にLINEでやり取りしたとき、彼氏も不快だったようだ。僕は、どこの世界に中絶を勧める親がいるんだと思った。いくら結婚してないとはいえ、結婚すればいいだけの話し。真美のお父さんは考え方が古いんだわ、きっと。孫が出来たら出来たで可愛がると思うんだよな。真美とLINEでやり取りしている時にそう言ったら、<お父さんには子どもは会わせない! さっきもお父さんに言ったけど> と言っていた。更に、<お父さんも、孫の顔は見なくていい、と言ってたし> 僕は真美をなだめるように、<そこは、真美が大人になって何事もなかったように実家に子どもを連れて行った方がいいって> 彼女はグッと堪えて何も言わなかった。<やっぱわたしが大人にならなきゃだめか、何か
それ以降、真美からのLINEは途絶えた。僕の意見に賛同できないのかな。だからLINEが途絶えたのかな。まあ、僕も真美の出産に賛成しているということは伝えたから良しとしよう。
次の日も僕は仕事。まだまだ、わからないことだらけで、商品を壊さないように気を付けながら品出しすることに専念した。今日はジュースの品出しをした。ここでは、缶を潰さないように気を付けてね、と山城さんに言われた。だが、僕はまたやらかした。缶を潰さないように、と言われているのに手を滑らせて床に落としてしまった。僕は慌てて拾って見てみるとやはりへこんでいた。やっちまった。また注意される。でも、やってしまったので山城さんに見せに行った。すると、「あー、まあ、仕方ない。これくらいなら大丈夫よ」「わかりました。すみません」 そう言って持ち場に戻った。一応、他のパートさんにも缶を潰してしまったけど、訊いてみたら大丈夫と言われた、ということを話した。
「あらら、潰しちゃったかい。まあ、やってしまったものは仕方がないね」 この職場は確かに前職のコンビニより優しく接してくれる。よかった、新しい職場の人たちが優しくて。でも、それに甘えたらいけないと思う。 勤務時間は九時~十五時まで。主任は朝から出勤していて、僕のところに来た。「どうだい? 仕事の方は」「今日もミスしました。すみません」「ああ、缶を若干潰した件だろ? 大丈夫だ、気にするな」「わかりました」(主任も優しい)
仕事を終えて帰宅し疲れたので入浴しようと思い、湯舟を洗いお湯を張った。まだ、二日目だというのに慣れていないせいか、早くも疲れてしまった。まだ、どこに何があるのかわかってないし。まだまだ、これから、新米従業員。
今日は割と大き目のチラシが入っている日。お客さんに商品のある場所を訊かれたらどうしよう。答えられるかな。不安だ。お客さんが来たら逃げようかな、それはまずいか。主任の話しではその内レジも打てるようになって欲しいと言っていた。僕にできるかな。まあ、やれるところまでやろう。やってみて無理だと思ったら無理です、と正直に言うことにしよう。
午後三時に仕事を終え、帰宅した。スマホを見るとLINEがきていた。相手は梶原優斗からだった。開いてみた。本文は、<オッス、相談したいことあるから夕飯食ったら会えないか?> どうしたんだろう、あいつから相談してくるなんて。<会えるけど、どんな内容だ?> 梶原が仕事を終えて帰宅したようで、またLINEがきたので本文を開いてみた。<おつかれ! 実はさー、最近彼女と上手くいかなくて浮気されてるかもしれないんだ。彼女が風呂に入ってる時にLINEがきたんだ。こっそり見てみたら男からだったんだ。それに、仕事と言って前より帰る時間が遅くなったし。たまに、二十二時とかに帰って来る時があるんだ。それで喧嘩になったりするときが増えた。どう思う?> うーん、そうだなぁ。僕は考えながらLINEを打った。<それだけでは一概に浮気してるとは言えないと思う。僕が前に体験した話しだけど、彼女が他の男と裸で一つの布団で一緒にいるところを部屋を開けたら見てしまったとかなら浮気確定だけどな><そんなことがあったのか! それは修羅場だな><あの時は大変だったよ。すぐに男を追い出して彼女に事情を訊いたさ。そしたら僕以外に好きな男ができたらしくて、僕が留守をしているときに僕と元カノの部屋でヤってたんだ。だからすぐに別れた。元カノは泣いて謝ってたけど許せないから荷物をまとめて出て行ってもらった。元カノの実家に><そうだったんだー、知らなかった><まあ、知らないのも当然だわ。言ってないから。もう少し様子をみた方がいいぞ。焦ってもいいことない><そうだな、そうするわ。何か、これから先が不安だけどな> 結局、LINEで済んだ。<相談に乗ってくれたから晩飯おごってやるよ><マジか! そんなに気を遣わなくていいんだぞ><いや、いいんだ。気持ちの整理が出来ただけでもありがたいから。今から迎えに行っていいか?> 僕は、<三十分くらい待ってくれ、支度するから><わかった。支度が出来たらLINEするわ> とりあえずLINEを閉じた。
僕はシャワーを浴び、今日は夏の割には少し寒いので長袖の黒いTシャツとベージュのチノパンを履いた。財布をチノパンのポケットに入れ、梶原にLINEを送った。<お待たせ。支度出来たからもう来ても大丈夫だ> LINEはすぐにきた。<わかった、今から行くわ>
十分くらいしてから、車のエンジン音が聴こえた。梶原、来たかな。そう思っていると梶原から電話がきた。「もしもし」『着いたぞ』「わかった、すぐ行くわ」
僕は母に、「出掛けて来る」 と告げてから玄関に向かった。「あ!」 僕は気付いた。「晩飯いらないから、友達と食べる」「そう、わかった」 時刻は午後七時前。だいぶ腹が減ってきた。肉が食べたいなぁ。提案してみるか。梶原は何て言うだろう。丼物も捨てがたいがラーメンもいい! 外に出てみるとハザードをたいて駐車していた。助手席に乗り、僕は喋った。「車変えたんだな」「ああ、この前中古で買った」「いいなー、僕も車欲しいなぁ」「分割で買えないか?」「うーん、どうだろう。なんせ給料が安いから」「そうかぁ、でも、不便だろ」「まあ、夏場は自転車で移動出来るからいいけど、問題が冬だ。母親の車を借りれる時はいいけど、母親が車を使う時は雪道を歩いて移動しなきゃいけないから大変だわ」「だよなぁ、あ。何食べたい? 訊くの忘れてた」「僕は肉が食べたいなぁ」「肉か。焼肉か?」「それでもいいし、丼物でもいい。なんならラーメンでもいい」 梶原は笑いながら、「どれがいいんだよ。決めてくれ」 と言った。(梶原は苛々してるのかな)「梶原は何でもいいのか?」「ああ、いいよ」「じゃあ、ラーメンだな」「わかった。おれが行き付けのラーメン屋にする」 わかった、と僕は返事をした。 梶原は黒いTシャツにクリーム色のハーフパンツを履いていた。
そのラーメン屋は外壁が黄色く、駐車場には結構車が停まっていた。混んでいるのかな。そう思いながら店内に入った。時刻は喋りながらゆっくり来たので午後八時近くになっていた。お客さんは五、六人しかいなかった。駐車場に停めてあった車全てはこのラーメン屋だけじゃないみたいだ。店員は威勢よく、「いらっしゃいませー!」 男性と女性の声が聞こえた。店員がやってきて、「二名様ですか?」 と訊く。「はい」 そう答えると、僕達を促した。そして、「こちらの席にどうぞ~」 窓際の席に案内された。 メニュー表を二枚置いた。「お決まりになりましたら、そこの白いボタンを押して下さい」「はーい」(このラーメン屋、初めて来たけど旨いのかな) と思った。梶原は、「おれは好きなラーメンがあるからそれにする。白味噌角煮ラーメン」「角煮? 旨そうだな。じゃあ、僕は赤味噌角煮ラーメンにする」(期待を裏切らないラーメン屋かもしれない) 梶原は白いボタンを押した。店中に響き渡るような大きな音が聴こえた。そして店員がやって来て僕と梶原のメニューを訊いて去って行った。 僕は、「今の店員、可愛いな」 言うと梶原は、「エロいな、柳生は」 彼もニタニタしながら言った。「梶原だってニタニタしてエロい笑い方してるじゃねーか」(おれはエロいぞ)「そんなことねーよ」 梶原が言うと、僕は、「ほんとかー? 顔に、おれはエロいって書いてあるぞ」「僕は彼に何か考えているような顔をしてるぞ」 と言うと、(バレてる) 僕は爆笑した。「やっぱり何か考えてるな」「大したこと考えてねーよ」「そうか」
お客が空いているお陰か、ラーメンはすぐに運ばれて来た。(早いな)「旨そう!」「ここのラーメンは旨いぞ!」(やっぱりな) 僕は、スープを一口飲んでみた。「濃厚で旨い!」「だろ? おれは旨い店しか行かないんだ。多少、高くても」(見栄っ張りだな) 僕はそう思った。(まあ、いつもこんな感じか) そう思いながら心の中で笑っていた。
僕も梶原も完食した。スープまで全て飲んだ。「旨かったー!」「だろ? おれのイチオシの店なんだ」(それならもっと早く教えてくれよな)「じゃあ、解散するか。柳生は家まで送るから」(そりゃそうだろう、置いていくつもりかよ)「ああ、頼むよ」(しかし、暑い。夏だしラーメン食べたし。あんまり文句を言うと梶原は嫌な顔をするから言わない。こいつはすぐ顔に出るからわかりやすい)
何を急いでいるのか梶原は僕の家までスピードを出して走った。事故ることはなかったけれど怖かった。四十キロ規制の直線の道路を百キロで走った。(こいつは何を考えているんだ! 危ないったらありゃしない)運よくパトカーも走っていなかった。梶原は、「今日はありがとな。相談に乗ってくれて」(ほんとにそう思っているのか?)「いやいや、大したアドバイスもできなかったけど」(これでも僕の経験談も言えたし、それなりのアドバイスはできたと思う。言っていることと、思っていることは違うけど、自分からいいアドバイスだろ、とは言えない。僕はそんなに図々しくない) 僕は助手席から降りる間際に、「じゃあ、またな!」 と言った。梶原も、「ああ、またな」 そう言って手を挙げながら去って行った。
堀下真美とも二人で食事をしに行きたいけれど、彼氏がいるから無理だろう。でも、一応訊いてみるか。真美にLINEを送った。<オッス! 今度、夕食一緒に食べに行かないか? でも、彼氏がいるから無理だよな>(絶対、無理だ。心構えをしておかないと)<うーん、訊いてはみるけど、難しいと思う>(やっぱりな)<だよな、訊かなくてもいいよ>(案の定だからショックは受けていない)<そう? ごめんね。せっかく誘ってくれたのに。みんなで会うのはいいと思うけど、二人はちょっとね>(だよなー、彼氏のいる女を誘った僕が馬鹿だった)
山川は確か土曜日曜が休みのはず。僕も土日が休みの日に山川とカラオケにでも行こうかな。僕はシフト表を見ると今週の土曜日が休み。彼は車の部品を作る工場で勤務している。正社員らしい。ボーナスも年に二回貰えるみたいだし。いい会社に勤めているな。でも、僕には合わない仕事だ。綺麗な仕事がしたい。贅沢だろうか。
友達と言える関係ではないがそいつはクリーニング業務をしている。夏場は物凄く暑いらしい。汗が顔中いっぱいに流れると言っていた。そいつは女性でそんな仕事をしているなんて感心する。
山川にLINEを送ろう。<オスッ! 今週の土曜日何か用事あるのか?> 今の時刻は午後八時過ぎ。仕事は終わっているはずだ。でも、なかなか山川からのLINEがこない。忙しいのか。あ! 彼女と会っているのかもしれない。(羨ましい)まあ、ほんとに彼女と会っているかはわからないが。僕の憶測に過ぎない。 約一時間後。時刻は午後九時半頃。ようやく山川からのLINEがきた。(文句を言ってやる)<オス! 遅くなったな。どうした?>(どうした? て、呑気なものだ。遅くなったのに謝りもしない)<カラオケ行かないか? 山川休みだろ? 僕もちょうど休みだから。ていいうか、今まで何してた? 二時間も待ったぞ>(へへ、言ってやった)<ああ、わりぃ。彼女と電話してた>(やっぱりか!)<いいなぁ、羨ましい><柳生も早くいい人見付けろよ>(そんなに簡単に見付けられないよ)<女の前に行ったら緊張して喋れないんだ>(人の気も知らないで。だんだん、ムカついてきた)<柳生、お前そんなに気の小さな奴だったか?><何か知らんけど変わってきたんだ! それよりカラオケの話しをしていたんだぞ!><ああ、そうだったな。俺は行けるぞ。いつものメンバーは呼ばないの?><僕は今、猛烈に歌いたい気分なんだ! 四人もいたらなかなか歌う順番回って来ないだろ。だから、二人でいいんだ><なるほどな、そういうことか。夜、行くのか?><いや、昼料金の方が安いから午前中に行く。十時に行こう。現地集合な> 山川は、<わかった。直接向かうわ>
こうやって僕はいろんな友達と交流を持っている。ぶっちゃけ僕は早く結婚したい。でも、子どもはいらない。まあ、奥さんになる人がほしがれば考えるけれど。親からは、「遊んでばかりいるな、でも活発なのはいいことだ」 と言っていた。これからもいろんな人と交流をもって過ごしていきたい。 きっと、いろいろなことを学ぶだろう。
了
様々な友人との交流 遠藤良二 @endoryoji
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