第6話 ……誰のことだ?
「Souls light nobly」において主人公たちの最大の敵は聖王国、そしてヴァンガード教会だ。
リオグレンたちの出身国である聖王国はヴァンガード教会の牛耳る宗教国家だ。
国民は基本的にヴァンガード教会の掲げるヴァンガード教を信仰している。
ヴァンガード教会はローラを捕まえることを決して諦めず、リオグレンたちに向けて何度も刺客を送り込む。
ヴァンガード教会のトップ――つまりはラスボスは、ソウルライトに目覚める才能のある子どもを生贄の名目で集めている。
彼女の最終目標には魂の輝きを持つ人間の血が沢山必要なのだ。
◇
帝国の冒険者ギルドで情報収集をすること1週間程。
俺はついに主人公一行のいる場所を突き止めることができた。
生のリオグレンを見つけられた時には感動のあまり叫びそうだった。
彼らの滞留している町に俺も宿を取り、見つからない程度に距離を取りながら彼らの様子を見守っている。
というわけで、最近の日課は推しカプの観察である。
よく晴れたお出かけ日和の中、俺はジメジメとした林の中に座り込んで主人公一行を超遠距離からストーキング――もとい観察していた。
このストーキングを可能にしているのは俺の力の1つ、「死神の眼」のおかげだ。
「死神の眼」は霧の中でも殺害対象の姿をハッキリ捉えられる優れもの。
晴天の下であれば、1km先のものを視ることすらできる。
まさしく推しカプの観察のためにあるような能力だ。
死神がこの用途を目にすれば、大きなため息をついたことだろう。
俺の視界の先では、リオグレンに何か言われたローラがクスクスと笑っていた。
……てえてえ。
……ハッ! いや、これは決して変態じみた動機でストーカーをやっているわけではない。
あくまで原作の展開がいつ進むのか監視しているだけなのだ。多分、アレがそろそろのはず。
燃えるような赤髪が特徴の主人公リオグレン。
優し気な顔をした金髪の少女、ローラ。
この2人は幼馴染であり、くっつきそうでくっつかない微妙なじれじれ恋愛を展開する。
しかし、よくある幼馴染カプと言えるほど単純ではないのが2人の関係性だ。
前提として、ローラはリオによって命を救われ、また、自分のために彼に生活を捨てさせてしまったという負い目がある。
リオもまた敏感にそれを感じ取っている。
彼からすれば物心ついた頃からベタ惚れで高嶺の花だったローラの為ならなんでもする、くらいの感じなのだがローラにはそれがなかなか伝わらない。
序盤はそれのせいで結構ギクシャクする。
しかし! それを乗り越えてお互いが本気で相手の恋仲になろうと努力していく関係性がとても良いのだ!
俺の推しカプその1である。
そして、他の2人も既に仲間に加わっているようだ。
真面目そうな顔立ちをした貴族令嬢、フレン。
銀髪の目つきの悪い青年、ギル。
フレンは少し前に俺が助けた女の子だ。
久しぶりに見ると、大人っぽさが増してより美人になっている。
……なんか親みたいな目線になってしまうな。
いかんいかん。
俺は背景……俺は背景……。
そして主人公組最後の1人が、銀髪の目つきの悪い青年、ギル。
かつてレジスタンス、義賊など様々な活動をしていた彼は、今は冒険者として彼らと歩みを共にしている。
皮肉めいた笑みを浮かべたギルが何事か言うと、フレンが真面目な顔をして彼に突っかかる。
……てえてえ。
フレンとギルは俺の推しカプその2だ。
真面目な気質のフレンは、事あるごとに不真面目な言動をするギルに突っかかるのだ。
最初は単に仲が悪いだけだ。
しかし、とある事件の際にフレンはギルに助けられる。
その際にギルの己の手を汚してでも悪人に裁きを下さんとする覚悟を見せられ、少しずつ惹かれるようになる。
そしてギルもまた、己は手放してしまった清廉さを貫こうとするフレンの強さに魅了を感じていくのだ。
くう、早くフレンのデレ顔が見たい!
俺が1人でニヤニヤしながら観察を続けていると、いつの間にか彼らとの距離が近づいていた。
彼らが俺に気づく様子はない。
ただ、距離が近くなったことで彼らの声が聞こえるようになってきた。
「――私は、憧れている人がいるのです」
この声はフレンだな。
彼女の憧れている人とは父のことだろう。
正しい貴族としての生き方に準じた父は尊敬の対象であり、彼女のソウルライトの原点だ。
「その方は己の意思を貫き通す強さを持っていて、誰かを助けても見返りを求めない気高さを持っていました」
うんうん。
「私と一緒にいた時はそのぶっきらぼうに見えて繊細な気遣いに何度も救われました」
うん……?
「にも関わらず自分の身は顧みず、びっくりするくらい無頓着で」
……?
「誰よりも頼もしいのに、危なっかしくて放っておけない。そんな不思議な人でした」
……誰のことだ?
いきなり原作との相違点が出てきて俺は困惑した。
俺が首を捻っている間にも会話が続く。
「フレンがその人のこと本当に好きなのが伝わってきたよ。その人は今どこにいるの?」
「分かりません」
穏やかな笑顔でフレンが首を振った。
「目を離せばすぐに消えてしまう、霧のような人でしたから。突然いなくなってからはどこにいるのかも……」
「え、フレンに何も言わずにいなくなっちゃったってこと?」
なんでひどい奴だ。
フレンをないがしろにする奴は俺が許さないぞ。
「いえ。元々、不甲斐ない私を心配したその方の善意で一緒にいただけですから。……ですが、もう一度会うことができたのなら」
少しだけ、何かを考えるようにフレンは言葉を止めた。
「せめて、もう少しお話をしたいですね」
フレンのその言葉を最後に彼らの会話は聞こえなくなった。
ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます! 恥谷きゆう @hazitani_kiyu
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