売れたい子役

アーミリィ

第1話 テレビの中


娘が3歳の時に、テレビを指さして


「この中にはどうやって入るの?」


と聞いてきた。


微笑ましくて子どもらしい質問に顔が緩んだのを今でも覚えてる。



私は

「芸能人っていう、テレビに出るお仕事をしたら入れるんだよ」


と答えた。



夫はその様子を見て不機嫌になった。


「芸能人なんて、仕事じゃない。変なこと教えるなよ」

と言われた。



ああ、またか。

この人は私たちを自由にさせたくない。

楽しそうにしていると不機嫌になる。



まだ、モラハラという言葉が有名ではなく夫の言動がまったく理解出来なかった。



「まだ3歳なんだから、気が変わるに決まってるんだから冗談のつもりで付き合ってあげてよ」



私の言葉に夫はしぶしぶ頷いたが、ずっとぶつぶつ文句を言っていた。



それから、モラハラという言葉が広まり私は離婚を決意した。


娘が3歳の時に別居を始めて、4歳の時に調停離婚が成立した。



これからは、好きなように生きるんだ



そう思っていた矢先に




新型コロナウィルスの流行



仕事を探そうと求人情報を見るも掲載件数が少なく、面接へ行っても落ちてばかりだった。



養育費や児童手当てで生活をやりくりしようとしたが、親子2人ひと月十万円での生活



外食やテーマパークなどが急にとても贅沢なものに思えた


実家、行政、町内会など頼れそうなものは全て頼った


なり振り構っている場合ではない



コロナ禍で子ども食堂や地域のサークルもなく息がつまりそうだった


ずっと家にこもる日々が続き貯金は減るばかり


不安でどうしようもなかった時に娘が


チック症のような症状を見せた



片目をパチパチさせたり、気に入らないことがあると奇声をあげる



心配になるのと同時に、こんな小さな子にどれだけストレスを与えていたんだろう。

と自己嫌悪に陥る



私がしっかりしなくちゃいけない



そう思えば思うほど、疲労で顔が強張っていた



離婚してから実家に戻り、娘はおばあちゃんが大好きになっていた



おばあちゃんと遊んでいる時はチックが出ないことに気づいた



今、娘が安心出来るのはおばあちゃんなのかもしれない



寂しさと情けなさがこみ上げる



スマホが鳴り、電話に出ると仕事の採用が決まった



「疲れた顔ばかり毎日見せるなら、外で働いて家で笑顔を見せるママになりな」



私の母、娘のおばあちゃんにそう言われて日中は母に娘を預けることにした。



仕事をしていくうちに、自信や達成感を感じて家では自然と笑顔が増えた気がする



娘はおばあちゃんに甘やかされて、おやつを食べ過ぎて少しぽっちゃりしてきた



チックはいつの間にか治っていた



ある日、仕事から帰ると母と娘が夢中でテレビを見ていた



娘の好きなアニメが舞台化されるというニュースだった



「ママ、私もテレビ出たい。演技したい!」



驚きと困惑を隠せなかった



娘に習い事をさせようとこれまでたくさん見学に行ったがどれも嫌がってやろうともしなかったのに、娘の方からやりたいと言われるとは思わなかったからだ



そして、元夫の顔が浮かんだ




娘がテレビ出たいと言ったら全力で反対するだろうな



「テレビに出たいって思ってもオーディションとか受けないといけないんだよ?たくさん緊張するけど頑張りたい?それから、パパには内緒に出来る?」



「オーディション受けたい!パパはこういうの嫌いだから言わない!」



「わかった。どっかの事務所のオーディション受けてみようか。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

売れたい子役 アーミリィ @AmyI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る