『可愛い』を追求していくことでたどり着く、真の心の解放を描く物語
- ★★★ Excellent!!!
「美しくなりたい」という純粋な願望を持つ『地味な男子高校生、佐藤想多』と、彼にメイクとカメラの「魔法」をかける年上の女性『シンディこと進藤みつき』
森の中のアトリエでシンディの巧みな技術と想多の強い願いが融合し、中性的な美しさを持つ『三崎つき』が作り上げられていく様子の描写が非常に巧みで読む者に深い感動を与えます。
また『つけまつげの試行錯誤』など、「美」を手に入れるための労苦と達成感がとてもリアルに書かれているので読者は誰しも自然と彼らを身近に感じ、応援したくなくなってしまいます。
さらに物語の終盤では二人が抱えるそれぞれの想いが衝突し、やがて結果としてそれがさらなる『美』の探究へと昇華していく展開には高揚感を覚えずにはいられません。
そしてフィナーレでは距離をおいた二人の境遇が描かれ、弱さを認めることも意義ある成長なのだとそっと気付かされます。
本作は、単なる女装物語ではありません。
根底に自分自身の探求、共依存、自己肯定という普遍的なテーマがしっかりと根付いており、なおかつ「美」とは、単なる外見の装いではなく「心を開放と自身を信じ抜く力を表現するためもの」であることが鮮やかに描かれています。
そして西奈りゆ様の卓越した筆致と丁寧な心情表現が彼ら二人の心の葛藤と成長をしっかりと伝え、それが胸に響く作品となっています。
如何でしょうか。
凍えるような冬の夜に、互いの存在を支え合い成長する姿が深い感動を与えるこの傑作であなたの心を温めてみませんか。